その二十六 現れた青年
「え、あの……」
咎めるような口調で急に声を掛けられてしまい、思わず少年は逃げそうになるが、よくよく考えてみれば逃げる理由など何一つないことに気が付いて、足を踏みとどまらせる。
そうこうしているうちに声を掛けてきた男が少年のすぐそばまでやってきた。少年がいた世界における警官などの公務員が着るような制服を身に着けていて、胸には立派な勲章が光っている。
顔にあごひげを蓄えたその壮年の男が、警戒心を露わにした態度で言った。
「おまえ、見ない顔だな。こんなところで何をしていた」
「あ、あの、工房まで向かおうと……」
「こうぼうー?」
態度の大きい男に、何も悪いことはしていないはずなのに、少年は委縮してしまう。そんな少年を男はジロジロと見る。
そのとき、少年は気が付いた。口を開いて尋ねる。
「そ、そうだ、実は道に迷っていたんです。いまは使われていない工房まで行かなくちゃいけないんですけど……」
すでに目印は見つけたとはいえ、一人で向かったのではまた迷う可能性がある。もしこの男が場所を知っているのなら、案内してもらったほうが確実だ。
少年はそう思ったのだが、ジロジロ見ていた男は眉をひそめて、
「そんなところへ、何をしに行くつもりだ?」
「えっと、病気の子がいて、その子を助けに……」
「ウソをつけウソを! こんな夜中に、そんな場所に病気のやつなどいるものか! そもそも、病気になったのなら修道会に行けばいいではないか。あそこにはいま、病気でも怪我でも何でも治せるジャセイさまがいるのだからな!」
「ジャセイ……?」
そこで少年は思い出す。仮面の剣士が言っていた絶対に関わってはならない人物の名前を。
加えて、助けたい黒髪の少女の呪いのことを。
「いや、あの、実は事情があって、修道会には行けなくて……」
「はあー? 修道会に行けない者などいるものか。サトリのサキでもあるまいに」
しどろもどろで返答していた少年はギクリとする。
先ほどからの少年の挙動に不審を抱いた男が言う。
「怪しいやつめ! こっちに来い! とことん取り調べて、悪だくみをすべて吐かせてやる!」
「そんな……⁉ 俺は何も……⁉」
声を上げる少年の腕を、男がつかみ取ろうとした、そのとき、
「いやー、どーもすみませんねえ、うちのメンバーが誤解しちまうようなこと言っちまったみたいで」
いつの間に近くにいたのか、頭をかきながら愛想笑いを浮かべる青年が二人の間に割って入った。




