その二十五 ステンドグラスの窓
(あった……!)
そこに佇んでいたのは、紛れもなく、自分が出発したときに目印にしたものに違いない。
(あれを目印にして、見たことのある場所まで戻る……)
少年はゆっくりと歩き出す。いまやってきた道を。出発してから駆けている間に通り過ぎたであろう、見覚えのある景色が現れるまで。決して見逃さないように。
そして少しの間歩いて、
(……! ここは、見覚えがある……!)
星明かりや街灯だけが照らす宵闇の中なので、周囲の建物が具体的に何なのかは分からないが、その場所は、確かに世界樹に向かうまでの間に通った道だった。
そこで少年は立ち止まる。はやる気持ちを落ち着けるために、深呼吸を一つした。
(落ち着け……。ここで振り返って、慌てて走り出しても、さっきと同じ結果になる可能性が高い……。そうならないためには……)
この世界に来たばかりで街の構造に詳しくなく、土地勘のない少年が、何のあてもなく工房までたどり着くのは難しいだろう。だからこそ少年は目をつむり、いままでの記憶をたどっていく。
(思い出せ……工房に行く前に、俺たちがいた場所を、イブさんは納屋って言ってた。その納屋から工房までの間に、俺は何を見た……?)
一番記憶に残っているのは、天高くそびえる世界樹だった。
しかしその世界樹に目を奪われる前に、自分は何を見た? それを、少年は記憶をたどり、思い出していく。
(納屋から出て……芝生のような場所を歩いて……何かの大きな建物の外周に沿って……それから……)
そこまで思い出して、少年はハッとした。
その大きな建物の窓ガラスには……。
(そうだ……! あの建物の窓には、綺麗なステンドグラスがはめ込まれてた……!)
この街の中でいままで少年が見てきた中で、あれと同じくらい大きな建物はいくつかあった。
しかし、ステンドグラスがはめ込まれているものは……確かにあの大きな建物一つだけだ。
(あのステンドグラスを目印にすれば……)
ステンドグラスのはめ込まれた建物の近くに、工房は存在する。
向かうべき目印に思い当たった少年は振り返る。目の前の景色に視線を巡らせて……。
(あった……!)
少年がいる場所から、そう遠くない場所にステンドグラスの窓を見つける。
あのステンドグラスの窓を目印にして走っていけば、工房までたどり着けるだろう。
こうしている間も、黒髪の少女の病状は進行していっている。少年が駆けだそうとした、そのとき。
「待て、おまえ! こんな夜中に、そこで何をしている……⁉」
宵闇に包まれた通りの向こうから、勲章のついた服を着た男が、少年へと向かってきた。




