その二十四 『『奇跡』は自分の手で起こすもの』
自分のせいで誰かが死んでしまう……それは昔経験したであろう、大切なものをなくしてしまったときの感覚に似ている。
それまで、確かに自分の手に握っていた、自分のそばにあったはずのものが、気が付いたときにはなくなってしまっていた……慌てて周囲を見回したり、自分が立ち寄った場所に戻ったり、床や地面に這いつくばって探したりしても、まったく見つからない……。
胸にぽっかり穴が開いてしまったような、空虚な、泣きたくなる、実際に気が付かないうちに涙がこぼれていたような……そんな感覚……。
(どうすれば工房まで行ける……? どうすればサキさんを助けられる……?)
このまま闇雲に走り続けるか……? もしかしたら、信じられないような奇跡が起きて、工房までたどり着けるかもしれない。そんな、かすかな希望にすがって、走り続けるか……? 少なくとも、いまここで立ち止まっているよりは、そのほうが何倍もマシなのではないか……?
少年の心は迷う。進むか、止まったままでいるか。どっちが正しいか、分からない。どっちを選んだとしても、間違いそうな気がする。
(分からない……俺には、どうすればいいか、分からない……)
ぎゅっと目をつむり、心が押しつぶされそうになりかけていた、そのとき……。
少年の脳裏に、昔の記憶の彼方から、とある人物から言われた言葉がよみがえった。
『『奇跡』は勝手に起こるものじゃなくて、自分の手で起こすものだよ』
少年は、はっと顔を上げた。周囲には誰もいない。実際にその場で言われたわけではない。いまのは、昔の記憶がよみがえっただけだ。
その記憶が、また少年に語りかける。
『人生でも実際の地形上でも、道に迷ったときは、一度後ろを振り返ってみることだよ。そこには確かに、自分が歩んできた道が残されているんだから。行く先が分からなければ、一度、知っている場所まで戻って、やり直してみることだ。遠回りなように見えて、実はそれが一番の近道だったりするんだよ』
その言葉を思い出して、少年は後ろを振り返ってみる。
そこに……あった。確かに存在していた。少年が最初に目印として、そして帰ってくる際の出発点となった……。
宵闇の中に佇む、天を衝くような世界樹の、巨大で黒い、影が……。




