その二十三 焦り
迷った……⁉
頭によぎるその考えが、少年の焦りをさらに加速させていく。
周囲を見回す。やはり案内板や道しるべは見当たらない。道を尋ねようにも、人も馬車も通っていない。夜中だからだ。
いや、たとえ誰かに聞いたとしても、工房、ということだけでは、相手も分からない可能性がある。この街に工房、あるいは工房と同じ役割を持つであろう建物は、いくつもあるだろうからだ。
《いまは使われていない》工房、という条件を付したとしても、やはりそれなりの数は残ってしまうだろう。
少年が元いた工房にたどり着くためには、その工房の名称……『○○工房』などという固有名詞で尋ねなければならない。だが、少年はその工房の正式名称を知らない。
焦った少年は走り出した。あてもなく。走れば、偶然にでも自分がたどり着きたいと思う場所――工房が、幸運にも現れると思ったから。
しかし、そんな淡い希望は打ち砕かれる。少しの間走り続けたが、目的地の工房にはたどり着かず、むしろ、より見知らぬ場所をさまよう結果となってしまった。
走ったことによる体力的な消耗よりも、迷ったという精神的な焦燥から、少年はその場に立ち止まってしまう。膝に手をつき、息を荒げる。整える余裕もなく、むしろ息がさらに乱れていく感じさえする。
迷っただけ……そんな軽いことでは済まされない。事態は道に迷っただけにとどまらず、それによる時間の消費によって、黒髪の少女の病態が悪化していくことを意味する。
少年は金髪の少女が言っていたことを思い出す。
(足を切断するしかなくなる……最悪死ぬかもしれない……っ!)
黒髪の少女が死ぬ。
数時間前に出会ったばかりの少女……だが殺意ある襲撃を受けた際に助言をくれて、あきらめかけていた自分を励ましてくれて、そして命を助けてくれた女の子。
恩人とも言えるそんな彼女を、死なせるわけにはいかない……!
(死なせたくない……!)
しかしそう思ったからといって、いまのこの事態が好転するわけではない。パニックに陥れば陥るほど、事態は悪化の一途をたどっていくことになる。
(でも……どうすればいい……? どうすれば……⁉)




