その二十二 迷道
ものすごいスピードで樹海を抜けて、少年を乗せた魔狼は森の入口へとたどり着く。
『着いたぞ』
魔狼の背中から降りながら、少年は不思議そうにつぶやいた。
「そういえば……ソナーさんたち、見かけなかったな。途中ですれ違うと思ってたのに……」
『フン……おおかた、【空間魔法】でも使ったのだろう』
「空間魔法?」
『空間を操る魔法のことだ。ものをしまったり、遠距離を移動するのに使われる。そんなことより、我が案内できるのはここまでだ。あとは小僧の足で向かうのだぞ』
「はい。ありがとうございます」
『礼を言う必要はない。それでは、さらばだ』
魔狼は少年に背を向けて、ここまで来たのと同じ猛スピードで森の中へと駆けて行った。
あっという間に走り去った魔狼の背中を、驚きながら見つめたあと、少年は振り返って、視界の先に佇んでいる大きな街――ノドルへと駆けていく。
正確な時刻は分からないし、そもそもこのラウンドと呼ばれているこの世界の時間的感覚……一日の長さが、自分がいた世界のものと同じなのかすら分からないが、頭上に垂れこめている宵闇は、まだ辛うじてその暗さを保っていた。
(これなら、間に合う……!)
金髪の少女が告げたタイムリミットは、夜明けまで。順調にいけば、何とか間に合いそうだった……そう、順調にいけば。
駆けていた少年は道を曲がる。
(ここを行けば、確か工房の前に出るはず……)
そう思っていたのだが、その道は途中で行き止まりになってしまっていた。「あっ」と、慌てて少年は立ち止まる。道を一本、間違えたのかと思って、急いでいま来た道を戻り、もう少し進んだ先にあった曲がり角を折れた。
が、その道を進んだ先は行き止まりでこそなかったが、円環構造になっていたらしく、少年が先ほど通った道に出てしまった。
(そんな……)
慌てて少年はポケットに入れていた地図を見返した。けれどそれは、あくまで簡易的なもので、工房や世界樹の位置関係こそ分かるものの、道順自体は簡単にしか描かれていない。
世界樹に向かうときは、世界樹という大きな目印があったから、まだなんとかたどり着くことができた。
しかし、金髪の少女も少年も、黒髪の少女の病気を治すことに意識が向いていたせいか、うっかりしていた。工房に戻る際の目印が何なのか、言い忘れていたのだ。
(やばい……! このままじゃ、サキさんが……!)
この世界、この街に来たばかりの少年に土地勘などあろうはずもない。周囲を見回すが、近くに案内板や道しるべのようなものは見当たらない。
夜中で周囲が暗く、何が何なのかよく分からないことや、ときに道が迷路のように交差したり入り乱れていたりするのも、そうなってしまった原因と言えるかもしれない。
完全に少年は道に迷ってしまっていた。




