その二十 目深にフードをかぶる何者か
仮面の剣士が少年の学生服を見ながら、
「それと、この世界ではその服は目立つ。代わりのものを着た方がいい」
「でも、俺、他に服持ってないですし……」
廃屋で拾ったローブは捨ててきてしまったし、街のどこに服屋があるのかも分からない。また少年はこの世界の通貨を持っていなく、そもそもこんな夜更けに開いている店などあるのだろうか。
困る少年を見て、仮面の剣士が空中に手のひらをかざす。そこに淡い光の輪が現れる。
「収納魔法だ」
そう言って、その輪の中に手を入れると、一着の黒い外套を取り出した。少年へと差し出す。
「サイズが合っているか分からないが、これを着るといい。あげるよ」
「そんな、悪いですよ。俺、別に寒くないですし……」
「暑い寒いの問題ではなく、きみの安全のためだ。異世界から来たチート能力者の中には自分の力をひけらかすために、他の異世界転移者を狩るやつがいるからな。まあ、そういうやつはこの世界の実力者や一般人も襲っているが……。そのせいで、この世界の人間には異世界転移者をよく思っていない者も多い。とにかく、いずれにせよ、異世界の服はなるべく着ない方がいい」
「そうなんですか……」
特に寒いわけでも風が吹いているわけでもないが、急に悪寒が襲ってきて、少年は身体をぶるりと震わせる。
「や、やっぱり、その服着させてください。新しい服買ったら、洗濯して返しますので」
「別に構わなくていいよ、余っていたものだから……といっても、きみは聞かないだろうな。また今度、会ったときでいいからな」
「はい。ありがとうございます」
黒い外套を受け取り、それを羽織ったあと、少年は尋ねた。
「そういえば、さっき言っていたジャセイって人ですけど……最強や不死身に近い力を持っているって……いったいどういうことですか?」
「それは……」
仮面の剣士が口を開きかけたとき、不意にまったく別の誰かの声がした。
「ここにいましたか」
仮面の剣士と、驚いた少年がその方を見ると、魔導士が着るような黒いローブを身にまとい、目深にフードをかぶった人間がいた。そのせいで顔は分からない。いつの間にそんな場所にいたのか、歩いてくる足音も、森の茂みをかき分ける音もしなかった。
『貴様、何者だ。いつからそこにいた……!』
それは鼻が利くはずの――においで分かるはずの魔狼や白狼も同じだったらしい。二体のオオカミは、威嚇と警戒心を露わにしたうなり声を出す。
片腕を真横に伸ばして、仮面の剣士がそれを制した。
「……私の知り合いだ……」
真剣なその声音には、攻撃や挑発などといった余計なことをしてはいけない、自分に任せてほしいという気持ちが込められていた。




