その十八 魔狼
少年の背後でほのかに淡い光が輝き始める。気が付いて、二人がそちらを見ると、灰白のオオカミの傷口に魔法陣が重なっていて、徐々にその傷がふさがっていった。
「やはり治癒魔法を使えたか……」
少年に殺してはならないと言われたとはいえ、また襲撃されるかもしれないことを考えて、仮面の剣士は警戒態勢に入る。そのとき、威厳に満ちた声がした。
『安心しろ。我は誇り高き魔狼の一族。恩をあだで返すような真似はせぬ』
その声はまさしく、二人の目の前にいる灰白のオオカミから発せられたものだった。少年が驚きの声を上げる。
「しゃべった⁉」
「……魔獣の中には人語を解するものもいるというが……」
つぶやいた仮面の剣士も、半ば驚いている様子だ。
傷が完全にふさがり、立ち上がった灰白のオオカミが少年に問う。
『小僧、何故我を助けた? 我たちは貴様たちを襲ったのだぞ』
「え……?」
少年にとっては予想外だった質問に、半ば慌てたように彼は答える。
「い、いや、だって、誰だって死ぬのは痛くて怖くて嫌じゃないですか。俺はそう思ったから……そう思っているから、できる限り、何も殺さないようにしてるんです」
そこで少年は、昔、とある人物が言っていたことを思い出した。
「それに……昔の知り合いが言ってたんです。『たとえどんな一生だろうと、生きていることは、ただそれだけで素晴らしいことなんだ』……って」
どうしていま、その人物のその言葉を言う気になったのか……よくは分からないが、それを言うべきときだと直感したからだった。
『……フン……』
魔狼が非常に珍しいものでも見るように、目を細める。
『珍しい人間だな、いや、変な人間というべきか。貴様のような者に会うのは久しぶりだ』
魔狼はそのまま、少年の顔をじっと見つめ、そのあとに仮面の剣士を見る。
『貴様たちはどのような用件で、この森……世界樹へとやってきたのだ?』
「あ、俺は感染症に効くっていう薬草を採りに来たんです。絶対に助けたい人がいて……。ソナーさんは……」
少年の言葉を、仮面の剣士が引き継ぐ。
「私は発光石を探しにきた。少年も私も、もう目当てのものは見つかったがな」
そう言うと、仮面の剣士は近くに転がっていた発光石を拾い上げて、小脇に抱えた。
魔狼が納得したように言う。
『なるほど……。さきほど小僧が言っていたように、我は、貴様たちがこの森と世界樹を荒らしに来たのだと勘違いしていた。すまなかったな……』
魔狼の詫びに重ねるように、小柄な白狼もすまなそうな鳴き声を出した。




