その十七 不殺の意志
「……どういうつもりだ、少年」
目の前で、倒れた灰白のオオカミをかばう少年に、仮面の剣士は静かに尋ねる。仮面から覗く剣士の瞳を真っすぐに見つめ返して、少年は答えた。
「勝負はもうついています。このオオカミはもう動けない。殺す必要はないと思います……!」
「こいつは魔獣……魔法を扱える獣だ。治癒魔法でその傷を回復されたらどうする。その前にトドメを刺さなければ」
「そのときは……気絶させればいいだけです。俺があっちのオオカミをそうしたように」
仮面の剣士は、それまで少年が戦っていて、いまは地面に横になっている白狼をちらりと見る。顔を少年に戻して、
「……魔獣はときに人を襲うこともある。こいつらが私たちをそうしたように。いま生かせば、あとでたくさんの人が死ぬことになるかもしれないんだぞ」
少年の顔に一瞬、逡巡の色が現れる。
倒れていた白狼が起き上がり、傷付いた灰白のオオカミへと近寄っていく。仲間の顔や傷を、いたわるようにぺろぺろとなめ、悲しそうな声を漏らす。
その様子を見て、少年は迷いを払うように首を横に振り、言った。
「俺がこいつらに言い聞かせます。人を襲ってはいけないって……!」
「もし、それでも、罪のない人々を傷付けてしまったら……?」
「……そのとき……は……」
少年の声が落ち、広げていた両腕を下げ、顔をうつむかせる。
「そのときは……仕方ありません……倒してください……」
もう一度、仮面の剣士へと顔を上げる。
「でも、でも、いまはダメです……! こいつらだって、俺たちがいきなりやってきて、この森を荒そうとしたって、勘違いしただけかもしれないんですから」
「…………」
長剣を振り上げたまま、仮面の剣士は黙って目の前の少年を見つめる。
しばしの沈黙。静寂の思考。
ふう、と、小さなため息を吐いて、仮面の剣士は長剣を静かにわきへと下ろし、腰の鞘に納めた。
「きみがいなければ、私は死んでいたかもしれない。ならば、きみの言うことを信じるしかないじゃないか」
「あ、ありがとうございます!」
「それはこちらのセリフさ。助けてくれて、ありがとう。さっそく、さっき助けた礼を返されてしまったな」
仮面の剣士は微笑んだ。




