その十六 一閃、かばう
そのとき少年は、自分の足元に発光石が転がっていることを思い出した。
それを拾い上げて、仮面剣士に爪を突き立てようとしている灰白のオオカミへと投げつける。
しかしそんな些細な抵抗は、気が付いた灰白のオオカミによって簡単に振り払われてしまう。さも自分の周囲を飛び回るハエや蚊をたたき落とすがごとく。
だが少年の狙いは、誰も死なせたくはない彼の考えていたことは、灰白のオオカミを攻撃することなどではなく……灰白のオオカミによって、はたき落とされた発光玉が地面へと着弾した、その刹那。
灰白のオオカミのたたき落としと落下の衝撃の二つが組み合わさったことで、発光玉から辺り一面を覆いつくすほどのまばゆい光が放たれた。
「いまのうちに逃げてください、ソナーさん!」
少年は叫ぶ。ただ仮面の剣士の無事を願って。
「……感謝するぞ、少年」
仮面の剣士はつぶやいた……が、それは敵に背を向けて逃げるためではない。
確かに周囲がまったく見えないほどの閃光だが、熟練の戦い慣れた仮面の剣士であれば、自分と敵の位置関係は把握している。
即座に立ち上がった剣士は、足を踏み込んで地面を蹴ると、目の前にいるであろう灰白のオオカミの身体へと、長剣を振り抜いた。
一閃。それは発光玉の光が長剣の剣身に反射したために起こった、きらめき。
直後。灰白のオオカミの絶叫。
閃光によって視界がくらんでいる少年には、いったい、いま何が起きているのか分からない。
光がやんだ。
顔を腕でかばって、きつくつぶっていた目を開けた少年の前に広がっていたのは、身体から血を流して地面に横たわる灰白のオオカミと、その巨体の前に立つ仮面の剣士の姿だった。
「……これ……は……」
一瞬前とまったく反対になっていたその展開に、少年は呆気にとられる。何が起きたのか、彼には分からないが、とにかくソナーが灰白のオオカミを斬り伏せたらしい。
致命傷かどうかは分からないが、灰白のオオカミの呼吸は荒く乱れていて、身体を起こすことも、手足を動かすこともできそうには見えない。無論、攻撃することも、防御することも、回避することも。
そして……逃げることも。
息も絶え絶えになっている灰白のオオカミに、仮面の剣士は長剣を振り上げる。
「介錯だ。いま楽にしてやる」
トドメの一撃を振り下ろそうとしたとき……地面に倒れ伏す灰白のオオカミの前に、両手を大きく広げて、少年が立ちはだかった。




