その八 地図
宵闇に包まれ、ときおり雲間から差し込む月の光を浴びる街の中を、少年たちは進んでいく。少年と並ぶように金髪の少女は歩き、彼が背負う黒髪の少女の足首に手をかざして、淡い光を当てている。少しでも、感染症の進行を遅らせるためだ。
遅い時刻だからか、通りには人の気配は見当たらない。少年たちの歩く音だけが、静寂に包まれている街の中に響いていた。
少女たちの道案内で、工房への道を進む中、少年はふと街の彼方の空を見やる。そこには具体的にはよく分からないが、何か黒く大きなものがそびえたっていた。
山にしては細長く、さながら塔のようだった。少年がいた世界の基準で考えると、照明を消したビルや灯台に、見えないこともない。
そんなことを考えている間に、
「ここです。ここが工房です」
と黒髪の少女が言い、彼らは明かりのついていないその建物の中へと入っていく。
作業台やいくつもの椅子が乱雑に並び置かれていて、部屋の隅には古びた窯が鎮座している。
「それじゃあ、あなたは彼女をその台の上に乗せて。サキはそのローブを脱いで、横になって。その方が楽でしょうし、そもそもそのローブ、汚れすぎてて傷に障りそうだし。もしかしたらまだ細菌がついているかもしれないしね」
金髪の少女に言われて、少年と黒髪の少女はその通りにする。
椅子を一つ持ってきて、黒髪の少女のそばにおいて座ると、イブは彼女の足首に手をかざし始めた。少年に言う。
「それじゃあ、薬草の生えている場所を教えるから、そこにある紙とペンを持ってきて。簡単でも、地図があった方がいいでしょ」
「うん」少年が紙とペンを金髪少女のそばに置くと、彼女は器用に、あいているもう片方の手で簡略な地図を書き始める。
「この四角がこの街、ノドルね。で、だいたいこの辺りが、この工房。工房から見てこっちの方角、さっき入ってきた工房の出入り口の真正面の方角に森があって、はるか昔から生えていると言われている世界樹があるの」
「ちなみに、その森というのは、わたしとケイさんが初めて会った森のことです」
黒髪の少女が補足する。
少年はさっき見た、大きな黒い影を思い出した。
「世界樹って、さっき街の外のずっと向こうで、黒くて大きなものを見たけど、もしかして、それ?」
金髪少女はうなずく。
「そう、それ。で、その世界樹の根元に、この子の感染症を治すための薬草が生えているの。ちょっと待ってて、いまその薬草の絵を描くから」




