その七 工房へ
黒髪の少女は口を開く。
「この呪いは、いまはまだわたしの意志である程度制御することができますが……いずれ呪いが強くなって、その制御すらできなくなるでしょう……」
「そんな……」
少年は声を漏らす。
「だから……わたしを助けてくれる人は、ほとんどいないんです……。むしろ、死んでほしいと願っている人の方が多いかもしれません……」
「そんな……そんなことって……」
まるで我が身のことのように、少年は顔を絶望の色に染める。
「なんとかならないの……その呪いをどうにかして解くことは……」
「それは……」
黒髪の少女が答える前に、金髪の少女が口を開いた。
「それができていたら、この子はこんなに苦しまないわよ」
「……そんな……!」
少年の驚愕を無視して、金髪の少女は話を本筋に戻す。
「それはそれとして、いまは呪いのことよりも、この感染症をなんとかするのが先だと思うけど。呪いについて考えるのは、それから。この感染症で死んだら、元も子もないんだから」
「……そうですね……イブさんの言う通りだと、わたしも思います」
金髪の少女の言葉に、黒髪の少女も同意する。続けて、サキはイブに尋ねた。
「薬草はないのですか?」
「残念だけど、この感染症に効く薬草はいま切らしていてね。新しく採ってくるしかないわ。でも……あなたは遠くまで動けないし、あたしも少しでも感染症の進行を遅らせていなくちゃいけない。どうも、この感染症は急性みたいだし。そうなると……」
金髪少女が少年に向く。つられて、黒髪の少女も彼を見上げた。二人の視線の意味を受け取って、彼女たちが何か言う前に、少年は口を開いた。
「俺が行くよ。その薬草を採りに。サキさんを治したいのは、俺だって同じだから……!」
強い決意を宿したその表情に、金髪の少女はかすかな笑みを浮かべて、よく言ったとばかりにうなずく。
「それじゃあ、その薬草のある場所を教えるけど……っと、その前に、場所を移した方が良さそうね。ケイって言ったっけ、あなたが流した血の跡が、この納屋の外に続いているだろうから。あなたが薬草を採りに行っている間に、他の誰かが来たら面倒くさいことになるだろうし」
少年がうなずく。
「うん。分かった。でも、どこに行くの?」
金髪の少女が考える素振りをする。だが彼女が何か案を出す前に、黒髪の少女が口を開いた。
「それなら、いまは使われていない工房がこの近くにあったはずです。そこに向かいましょう。そこなら、誰も来ないでしょうから」
「……そうね。そうしましょう」
「それなら、俺がサキさんを運ぶよ」
少年が黒髪の少女を腕に抱きかかえようとしたとき、慌てて彼女は言った。
「あ、背中の方でいいですよ。腕だと疲れるでしょうし」
「あ、うん、分かった」
少年が背中を向けようとする中、黒髪の少女がぼそりとつぶやく。
「……あのときは逃げるのに夢中でしたけど、やっぱり人前であんなふうに抱えられるのは、恥ずかしいですし……」
「ん? 何か言った?」
「い、いえ、なんでもありません……!」
やり取りをかわす二人に、納屋の扉で待っていた金髪の少女が文句を上げる。
「ほら、ごちゃごちゃやってないで、さっさと行くわよ」
「あ、うん」
「は、はい」
そして少年は黒髪の少女を背負い、三人は工房へと向かった。




