その六 『【サトリ】のサキ』
あることに気付いて、少年は声を上げる。
「そうだ……! 他の人を呼んだら……。この街のどこかになら、サキさんを治せる人がきっといるはず……!」
少年の言葉に、金髪の少女は目の前のサキを見やる。
(もしかして、話してないの?)
金髪少女の瞳はそう尋ねていた。黒髪の少女は視線をうつむかせながら、言いにくそうに、口ごもりながら言葉を紡ぐ。
「……ケイさん……わたしは呪われていると、以前話しましたよね……」
「え……」
少年は思い出した。数時間前、少女と初めて会ったあと、確かに彼女はそんなことを言っていた。
そのときは、後で説明すると、話をはぐらかされた。
いま、その説明のときが来たのだ。
「わたしには、『触れたものに関する、あらゆる事柄の情報を知ることができる』という呪いがかけられているんです。ナイフで襲ってきた男との戦いの最中に見せた、あの枠と文章が、それです」
「な……」
少年は口をぽかんと開けた。彼女の言った言葉の意味がいまいち飲み込めなかったようで、思わず聞き返す。
「で、でも、それくらいのこと、呪いなんて言えるの? 便利な能力なんじゃ……。げんに、あれのおかげであいつに勝てたってのも、あるわけだし……」
「……便利な能力……ですか……。本当に、そうだったら良かったんですけど……」
黒髪の少女の顔に陰が差し、声がさらに一段落ちる。
「あらゆることが分かると言いましたよね。それは相手の能力や使える魔法だけじゃなくて、考えていることまで分かってしまうんです」
心の中を覗けてしまう。それが意味することに、ここにきて、ようやく、少年は気付いた。
「それって……」
「その人が、他の誰かのことを悪く思っていれば、それが分かってしまう。他人には絶対に知られたくないような秘密も、簡単に知ることができてしまう。ほんのちょっとした、ささいな愚痴や文句ですら、筒抜けになってしまう……」
少女は続ける。悲しそうな声音で。
「この呪いを受けたそのときから、わたしは誰からも疎まれるようになってしまいました。わたしに関わると、自分に関するあらゆる心の内を読まれてしまうから。いつしか、わたしのそばには誰もいなくなってしまっていました」
「……っ!」少年は絶句する。構わず、少女は続ける。
「また犯罪や殺人などの悪意も知ることができるため、悪い人にとって、わたしは邪魔でしかない存在になります。わたしは悪い人に命を狙われるようになりました。いままでのわたしの日々は、ずっと一人で、誰の目にもつかないように、隠れて過ごす毎日でした」
黒髪の少女は名乗る。名乗りたくもない、不名誉な、心の底から嫌だと感じている、呪われた自分の異名を。呪いたいような、【呪い】の異名を。
「……いつのころからか、わたしは『【サトリ】のサキ』と呼ばれるようになっていました。あらゆる心の中を見透かされたくなかったら、絶対に関わるな、と」
少年は合点する。紅蓮のショウや、絶対命中のチート能力を持つミョウジンが、黒髪の少女を殺そうとした理由に。
「そうか……だから、あの人たちはサキさんを殺そうとしたのか……」
「…………」
黒髪の少女は目を伏せる。
金髪の少女も、口をつぐんで、押し黙ったまま……。
黒髪の少女の呪いの詳細については、彼女自身の口から話させるのが道理だと思ったから。いまだ、彼女が話すべきではないと思っているのなら、その意志を尊重すべきだと感じたから。




