その五 細菌感染症
「これは……ッ!」
変色した患部を見た金髪少女が驚愕と焦燥に満ちた声を出す。
化膿と呼ぶにはあまりにひどすぎる状態で、明らかに何かしらの細菌に冒されていることが分かる。
「まさか……俺のハンカチのせいで……⁉」
少年の言葉には答えず、金髪の少女はサキに尋ねた。
「さっき廃屋に戻るって言ってたわね。いま着てるこの服、汚れや傷がひどいけど、まさかその廃屋で拾ったものじゃないわよね?」
黒髪の少女と少年は沈黙する。少年の頬を冷汗が流れていく。少しして、黒髪の少女は痛みをこらえながら、か細い声で答えた。
「……すいません……顔を隠せるものが他になかったので……」
黒髪の少女をかばうように、少年は慌てて言った。
「で、でも、汚れた服なら俺だって着てるよ。それなら俺の傷もこんなふうになってるはずじゃあ……」
「そんなの、いくらでも解釈できる。その服には細菌がついていなかったのかもしれない、怪我をしてからの時間が短かったからかもしれない、ただ単純にあなたの免疫力がこの子よりも強かったからかもしれない……」
焦りを表すように早口で言った金髪の少女は、続けて黒髪の少女に尋ねる。
「この怪我をしてから、いままでの間に、泥水をかぶった?」
「……いいえ……しかし……穴を掘る魔法で地面の中を潜っているときに、木の根っこで傷付けてしまったようです……」
「…………」金髪の少女は黙り込む。どれが原因かは分からない。ただ一つ明らかなことは、黒髪の少女の足がかなり危険な状態になっているということだ。
希望にすがるように、少年が言う。
「で、でも、イブさんなら治せるんでしょ……! 俺を治したときみたいに」
金髪の少女の表情に陰が刺す。
「……回復魔法には大きく分けて二種類あるの。一つが、傷を治す【治癒魔法】。あなたの傷を治したのはこれよ。そしてもう一つが、病気を治す【浄化魔法】。いまこの子は足の傷だけじゃなくて、たちの悪い細菌に感染してる……」
「そ、それなら、その浄化魔法ってのを使えば……」
金髪の少女は首を横に振った。
「あいにくだけど、あたしはまだ見習いでね。治癒魔法は使えるけど、浄化魔法は未熟なの。いまできることといえば、せいぜい感染症の進行を遅らせることくらい……」
「そんな……ッ!」
「このまま放っておけば、まず間違いなく、この足を切断するしかなくなるでしょうね、細菌が身体の方を蝕む前に……。最悪、死ぬかもしれない……」
「「…………ッ⁉」」
少年と、黒髪の少女は、あまりのことに声を出すことができなかった。
少年は、黒髪の少女の足を切断してしまうこと、死んでしまうことに。
黒髪の少女は、自分が死んでしまうことに対しても、もちろんだが、そうなってしまっては少年を元の世界に送り返せなくなってしまうかもしれないということに。
そして、それ以外の、起こり得るかもしれない事態に対して……。




