その四 助かった少年、黒髪少女の足の怪我
またしばらくの時間が流れ……かざしていた手から淡い光を消した金髪の少女が、ふう……、と声を漏らしながら、額に浮かんだ汗をぬぐう。
「……危ないところだったけど、なんとか、治せたみたいね」
「本当、ですか……!」
「ウソなんかついてどうするのよ」
彼女の言葉を証明するように、少年が小さな声を漏らし、ゆっくりと瞳を開ける。
「……あれ……ここは……?」
「良かった……!」
「サキさん……?」
少年の顔を覗き込んで、命に別状がないことを確かめた黒髪の少女が、ほっと安堵の息をつく。思い出したように、そばにいる金髪金眼の少女を紹介した。
「こちらのイブさんが、ケイさんを助けてくれたんですよ」
そこで初めて、灰色の修道服を着たサイドテールの少女の存在に、少年は気付く。見たこともない知らない人間だし、どういうふうに自分を助けてくれたのかは分からないが、とにかく彼女が自分が負っていた怪我を治してくれたらしい。
「ありがとう、えーっと……イブさん」
「あたしは自分のするべきことをしただけ。とはいえ、助かって良かった」
礼を言う少年に、金髪の少女は素っ気なく、けれど少しだけうれしそうに答えた。
黒髪の少女と、上体を起こした少年に、イブは尋ねる。
「これからどうするつもりなの」
「ケイさん――このかたがもともと住んでいた場所まで送り届けるつもりです。それがわたしの責務であり、使命ですので」
「……ふーん」
金髪の少女は興味なさげに声を出したが、サキの言い方に、何かしら察したらしい。それ以上、二人の目的や、少年がどこの人間なのかについて、追究することはしなかった。
「本当にありがとうございます。このお礼は、いつかさせていただきます」
「別にいいよ。さっきも言ったけど、あたしは自分のするべきことをしただけだから」
「そういうわけにはいきません……!」
譲ろうとしない黒髪の少女の態度に、イブはやれやれとため息を漏らした。
「分かったわよ……あなたの好きにすれば……」
「はい……っ!」
はにかんで言った黒髪の少女は、今度は少年に言う。
「それではケイさん、怪我が治ったばかりで申し訳ないのですが、いますぐさっきの廃屋に戻りましょう。ずっとここにいるわけにはいきませんし、ここにいたら、イブさんに迷惑をかけてしまうかもしれませんので……」
「う、うん……」
少年を促すように黒髪の少女が立ち上がる。そのとき、突然、黒髪の少女はうめき声を上げて、その場にうずくまってしまった。
「ど、どうしたの⁉」
慌てて少年は声を掛ける。黒髪の少女はそれまでの平静だった表情を苦痛にゆがめて、自分の足首に手をあてていた。
「怪我が痛むの⁉」
「どいて……!」
黒髪の少女へと寄ろうとする少年を半ば押しのけるようにして、イブが黒髪の少女のそばに急いで近寄り、黒いローブをめくって、そこに隠れていた足首を露わにする。
そこで、少年と、修道士見習いの少女は見た。
止血のためのハンカチが結ばれた足首が、身の毛もよだつような不気味な色に染まっているのを。




