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異世界チートレイザー  作者: ナロー
【第三幕】 【修道会】
19/325

その三 治療

「傷を見せて」


 口を開く金髪金眼の少女に、宵闇色の髪の少女サキが尋ねる。


「あなたは……?」

「あたしはイブ。ここで修道士見習いをしてる。話は聞いてた。さあ早く、死なせたくないんでしょ」


 彼女の言う通り、少年を死なせたくないのは確かだ。サキは少年の身体をうつ伏せにして地面に降ろす。


 少年の前に膝をついて、イブは傷の具合を確かめる。その表情に影が差した。


「ひどい……」

「助けてください……どうか、お願いします……!」

「初めに言っておくけど、あたしのいまの力じゃ、治せるかどうかは分からない」


 そんな……とサキが声を漏らす。


「でも……他の方と協力すれば……」

「あなたが修道長に言われたように、ここの修道会の他の人に頼むことはできないと思う。それどころか、勝手に納屋に入ったことを咎められて、追い出されるでしょうね」

「そんな……それなら……どうすれば……」


 悲痛な表情を浮かべて、サキが絶望に満ちた声を漏らす。


 目の前の少年の傷付いた背中に手をかざしながら、金髪金眼の少女は言った。


「あたしがやる。治せるかどうかは分からなくても、やらないと助けられるものも助けられないんだから」


 金髪の少女がかざした手のひらから淡い光が放ち始め、少年の身体を柔らかい光で包み込んでいく。


「あなたは外の様子に注意して、誰か来たら教えて。追い出されたくなかったらね」


 黒髪の少女はうなずいた。


 しばらく経ち、どこかでフクロウの鳴き声がした。予断を許さない真剣な表情で少年を見下ろす金髪の少女に、サキがずっと気になっていたことを尋ねる。


「あなたは、どうしてわたしたちを助けてくれるんですか……?」


 視線を少年に固定したまま、イブは声だけ返した。


「助けちゃいけなかった?」

「そんなことありません。本当にありがとうございます。でも……他の方がわたしを見て関わり合いになろうとしなかったのに、どうしてあなたは、と思って。だって、わたしは……」

「【サトリ】のサキ、でしょ」


 【サトリ】とは、黒髪の少女に、恐れを込めて付けられた異名である。


「やっぱり知ってたんですね……」

「あたりまえ。この街の人間なら、誰でも知ってる。何もかも見透かされたくなかったら、やつとは関わるな、ってね」

「それなら、どうして……?」

「そんなの、あなたが助けを求めてきたからに決まってるじゃない。たとえ相手が誰であれ、何であれ、助けを求めてきたものには手を差し伸べる……それが、あたしの理想とする修道士の姿だから」


 さもそれが当然のことのように、金髪の少女は、こともなげに言ってのける。それが彼女にとっての当たり前であり、呼吸をするのと同じくらい自然なことだからだった。


 しかし黒髪の少女にとっては……。誰からも疎まれ、命を狙われることが日常的な彼女にとっては……。


 目頭が熱くなる。


「本当に……ありがとうございます……!」


 深く、頭を下げた。


 その地面に、ぽたぽたと雫が落ちていった。




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