その三 治療
「傷を見せて」
口を開く金髪金眼の少女に、宵闇色の髪の少女サキが尋ねる。
「あなたは……?」
「あたしはイブ。ここで修道士見習いをしてる。話は聞いてた。さあ早く、死なせたくないんでしょ」
彼女の言う通り、少年を死なせたくないのは確かだ。サキは少年の身体をうつ伏せにして地面に降ろす。
少年の前に膝をついて、イブは傷の具合を確かめる。その表情に影が差した。
「ひどい……」
「助けてください……どうか、お願いします……!」
「初めに言っておくけど、あたしのいまの力じゃ、治せるかどうかは分からない」
そんな……とサキが声を漏らす。
「でも……他の方と協力すれば……」
「あなたが修道長に言われたように、ここの修道会の他の人に頼むことはできないと思う。それどころか、勝手に納屋に入ったことを咎められて、追い出されるでしょうね」
「そんな……それなら……どうすれば……」
悲痛な表情を浮かべて、サキが絶望に満ちた声を漏らす。
目の前の少年の傷付いた背中に手をかざしながら、金髪金眼の少女は言った。
「あたしがやる。治せるかどうかは分からなくても、やらないと助けられるものも助けられないんだから」
金髪の少女がかざした手のひらから淡い光が放ち始め、少年の身体を柔らかい光で包み込んでいく。
「あなたは外の様子に注意して、誰か来たら教えて。追い出されたくなかったらね」
黒髪の少女はうなずいた。
しばらく経ち、どこかでフクロウの鳴き声がした。予断を許さない真剣な表情で少年を見下ろす金髪の少女に、サキがずっと気になっていたことを尋ねる。
「あなたは、どうしてわたしたちを助けてくれるんですか……?」
視線を少年に固定したまま、イブは声だけ返した。
「助けちゃいけなかった?」
「そんなことありません。本当にありがとうございます。でも……他の方がわたしを見て関わり合いになろうとしなかったのに、どうしてあなたは、と思って。だって、わたしは……」
「【サトリ】のサキ、でしょ」
【サトリ】とは、黒髪の少女に、恐れを込めて付けられた異名である。
「やっぱり知ってたんですね……」
「あたりまえ。この街の人間なら、誰でも知ってる。何もかも見透かされたくなかったら、やつとは関わるな、ってね」
「それなら、どうして……?」
「そんなの、あなたが助けを求めてきたからに決まってるじゃない。たとえ相手が誰であれ、何であれ、助けを求めてきたものには手を差し伸べる……それが、あたしの理想とする修道士の姿だから」
さもそれが当然のことのように、金髪の少女は、こともなげに言ってのける。それが彼女にとっての当たり前であり、呼吸をするのと同じくらい自然なことだからだった。
しかし黒髪の少女にとっては……。誰からも疎まれ、命を狙われることが日常的な彼女にとっては……。
目頭が熱くなる。
「本当に……ありがとうございます……!」
深く、頭を下げた。
その地面に、ぽたぽたと雫が落ちていった。