その二 金髪金眼の女の子
修道会の扉に握りこぶしと頭をつけて、少女は打ちひしがれる。
このときほど、自分に課せられた運命を恨めしいと思ったことは、【呪い】を呪ったことはない。
自分のことはまだいい。この【呪い】を身に宿したそのときから、誰からも疎まれる覚悟を、命を狙われる覚悟を決めていた。
しかし彼は違う。彼は自分の勝手でこの世界に呼び出した異世界の民であり、本来ならば、こんな命を危険にさらすようなことなどせずに、いつも通りの平和な日常を送っていたはずなのだ。
彼の命を助ける最も有力な候補である修道会は、もはや頼れない。初老の男性が言っていた通り、ギルドならば、回復魔法の使い手が一人くらいはいるかもしれない。ただしそれと同時に、少女の存在と力を狙う者が少なからずいるかもしれないことも確かだ。
とはいえ、そんなことは言っていられない。彼の命を助けるために、自分の命を危険にさらすことになろうとも。彼を生きて元の世界に送り届ける、それが自分の責務なのだから。
「待っててください、ケイさん……いまギルドに向かいますから。そこなら、あなたを治してくれる人が、きっといるはずですから……」
少女の励ましに、しかし少年の答える声はない。どうやら出血多量によって、意識を失ってしまっているらしい。
ことは一刻を争う。少女はきびすを返し、ギルドへの道をたどり始めた。と、そのとき、彼女の背後で扉が開く音がした。思いがけないことに少女が振り返ると、開いた扉の前に、手にランプを提げ、灰色の修道服を着た人物が立っていた。
修道服のフードを目深にかぶっているため、顔はよく分からない。
「あなたは……」
少女が尋ねようとするのを、その人物は自分の口元に人差し指をあてて制する。
その人物は扉から外に出ると、静かに扉を閉めて、修道会の建物の外周に沿って歩き出した。途中で立ち止まり、呆然と見つめる少女に対し、首をくいと動かして促す。どうやら、ついてこいということらしい。
再び歩き始める人物に、少女は黙ってついていく。少しばかり歩いてたどり着いたのは、木造の小さな納屋だった。木の扉を開いて、その人物が入っていき、少女も後に続く。
納屋の中にはたくさんの飼い葉が積み上げられていて、その近くに木の桶や鍬などが置かれていた。
「……扉を閉めて……」
そこで初めて、謎の人物が口を開く。女の子の声だった。言われた通り少女が扉を閉めると、その人物はかぶっていたフードを取った。
露わになった顔は、輝くような金髪をサイドテールに結び、金色の瞳をした女の子だった。