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異世界チートレイザー  作者: ナロー
【第二幕】 【異世界【ラウンド】】
14/325

その十一 信じて、信じる

 路地の奥はレンガ造りの壁になっていて、周囲には乱雑に樽や木箱が置かれている。


 少年は後ろを向いた。ナイフの群れが寸分の狂いもなく彼の背中へと向かってくる。前を向く。行き止まりだ。何度目を瞬いて確かめても、壁。四方に視線を巡らしても、壁しかない。


 逃げ道はもう、どこにも存在しない。


「だめだ……! 殺される……!」


 ぎゅっと瞳を閉じて、少年はあきらめる。もうどうしようもない。


 このまま走り続けても意味がない。疲れたし、息が切れたし、もう逃げることもできないし……止まりたい。休みたい。どうせ殺されるのなら、それくらい、いいだろ。


 動かし続けていた両の足を少年が止めようとしたとき、少女の声が耳に聞こえてきた。


「このまま走り続けてください……! 絶対に止まってはいけません……!」


 少年は瞳を開けて、腕に抱えている少女の顔を見る。


「……でも、壁しかないよ……このままじゃぶつかるか、あのナイフに刺されるかして……」

「わたしを信じてください……! そしてわたしの言う通りに行動してください……お願いします……!」


 彼女の瞳は、その表情は、あきらめていなかった。


 毅然とした様子の少女の顔を見つめて……あきらめていた少年の心はいま一度励まされる。どうせ止まったって、走り続けたって、死ぬ未来しかないのなら、少女のことを信じよう。どうせ死ぬにしても、あきらめるよりは、その方がまだマシだ。


 少年はうなずいた。


「……分かった。信じるよ、サキさんのこと」


 少年の背後から、勝利を確信した男の声が響いた。


「行き止まりです! もう逃げ場はありませんよ。素直に殺されなさい!」


 それを無視して、少年は走り続ける。ただ、少女と、彼女の言葉だけを信じて。


 壁が迫ってくる。行き止まりの壁まで残りわずかとなったとき、少女が叫んだ。


「いまです! あの木箱を踏み台にして、横の壁から前の壁へと跳び移ってください!」

「えっ⁉」


 それはすなわち、三角跳びをしろということだ。


 少年は三角跳びなどしたことがないし、元いた世界における彼の学校での体育の成績は、はっきりいってあまりいいとは言えない。加えて、いまは少女を抱きかかえている。彼女が指示したことは、無茶な注文というものだ。


 だが、やるしかない。ぶっつけ本番だとしても、生き残るためには、そうするしかない。少年は覚悟を決めて、足にさらにいっそうの力を込めた。


「うおおおお‼」




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