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異世界チートレイザー  作者: ナロー
【第一幕】 【呪われた少女と召喚された少年】
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【第一幕】 【呪われた少女と召喚された少年】 その一 プロローグ

【異世界チートレイザー】

【第一幕】

【呪われた少女と召喚された少年】




 その世界において、精霊や幻獣、魔獣などを召喚する、いわゆる召喚魔法は高位の魔法として知られていた。


 その召喚魔法の代償は召喚されるものの力によって変わり、最高位の神獣や天使、悪魔を召喚する際には魔力の大半以上、あるいはすべてを消費し、ときには召喚者の命すら失われることも少なくなかった。


 代償と引き換えに様々なものを召喚できるそんな召喚魔法だが、天使や悪魔などを召喚できる以上、異世界の人間を召喚することもまた可能なことは自明の理である。


 さしたる能力も特徴も才能も持たない、ただの普通の人間を召喚するだけならば、魔力を消費するだけで、代償はほとんど必要ない。


 しかし……もし勇者や魔王、神話の英霊および半神半人クラスのものを召喚するとなると、やはりそれ相応の代償を必要とした。


 そして、たとえ元は普通の人間だとしても、力の底上げのためにトップクラスの能力を付加する場合もまた、多大な犠牲を支払うことになる。


 これは【サトリ】と呼ばれ忌み嫌われた少女と、異世界に召喚され【チートレイザー】の力を与えられた少年の、捻じ曲げられた運命を切り開く物語である。


【異世界チートレイザー】


 時刻は夜の0時を過ぎていた。周囲はうっそうとした森が広がっていて、頭上を覆う無数の枝によって月や星の光はまばらにしか届かない。


 フクロウだろうか、ときおり鳥が鳴き、虫の音が小さく響き渡る。その森に建てられている小屋の中に、木製のテーブルに広げた一冊の分厚い書物を読む人影があった。足元まで伸びる黒い外套を着て、小さなランプの明かりの中、熱心に書物に視線を落としている。


 外套についているフードをかぶっているため、その者の顔は判然としないが、十代半ばほどの華奢な身体つきをしていた。ページを繰っていたその人影の手が、驚いたように、あるいは目当てのものを見つけたように、とあるページで静止する。


 そこにはこう書かれていた。


『全ての魔力および魔法の素質と引き換えにして、異世界から召喚したものに絶大な『力』を付与することが可能である。これは召喚時、もしくはその後、後天的に付与できる』


 人影が息を飲む。探していた方法はこれに違いない。さっそくこの方法をおこなおうと立ち上がったとき、小屋のドアが凄まじい衝撃音とともに小屋の中へと吹き飛んできた。業火に包まれているドアを驚愕の瞳で見る人影に、ドアがあったところから小屋に侵入してきた男が、獲物を狩るオオカミのような目で声を掛ける。


「コンバンハーっと、チッ、当たらなかったか。オメーに個人的な恨みはねえが、オレが成り上がるために死んでくれ」


 長身の体格に、燃え盛るような紅蓮色の髪。着ている衣服はその世界にはない独特のもので、煮えたぎるようなマグマをイメージした絵柄が印刷されていた。こことは別の世界でシャツと呼ばれているものだ。


 その男の顔は森から離れた場所にある街の掲示板の張り紙で見たことがあった。『紅蓮のショウ』。『全てを焼き尽くす炎』の使い手として、最近名を上げている者だ。


 男が人影に手をかざす。人影に必要なのは異世界から召喚されたものだが、男に話は通じそうにない。男の手のひらから『全てを焼き尽くす』業火が放たれ、人影はとっさにテーブルの上の書物を手にもって、小屋の窓ガラスを割って外へと飛び出した。


 人影の瞳に、紅蓮の炎に飲み込まれる小屋が映る。感傷に浸っている時間はない。すぐさま起き上がった人影は、生き残るためにうっそうとした森の中へと駆け出していった。


 息を荒げて疾駆する人影を、赤髪の男が追いかける。男が日に焼けた手をかざした。


「いつまでも逃げられると思うなよ」


 その手から紅蓮の火球が放たれ、矢のごとき速さで人影へと迫る。『全てを焼き尽くす』炎をすんでのところで避けるが、代わりに前方にあった一本の大木が燃やされ、火のついた一振りの巨大な枝が落下し、人影の進路を阻んでしまった。


 目の前の業火に触れては『絶対に』いけない。人影は慌てて立ち止まり、逃げ道を探すために周囲に視線を巡らせる。同じく立ち止まった赤髪の男が、ネズミを追い詰めた猫のような目をして、一歩また一歩と人影に近付いていく。


「もう逃げられねえぜ」


 男がかざした手から『全てを燃やす』業火が放たれる。その炎が眼前に迫る刹那、人影は真横へと飛び、転がるように地面に倒れ込んだ。男が舌打ちを漏らし、もう一度手をかざそうとする。紅蓮の火球が撃ち出される前に人影は飛び起きるが、


「……ッ!」


 避けきれなかったのだろう、着ていた黒い外套の裾に小さな火がついているのを見て、慌ててその外套を脱ぎ捨てた。


 外套の下から現れたのは、宵闇色の髪と瞳を持ち、整った顔立ちをした十代半ばほどの可愛らしい少女だった。自分の身体に『全てを焼く』炎が取り巻いていないことをさっと確認して、ほっと安堵の息をつく。


 揺らめく炎の明かりの中に現れ出た目の前の少女を見て、男が軽く口笛を吹いた。


「話には聞いていたが、それが呪われたテメーの素顔ってわけか。殺すにはモッタイねー顔だぜ」


 だが殺す。その少女を殺すことによって、男は絶大な富と名誉と権力、そしていま以上の圧倒的な力を手にすることができるのだから。


 男が手をかざす。周囲一帯を飲み込む巨大な炎が、少女の身体を完全に覆い包んだ。


 あっけなく終わった、話に聞いていたよりも簡単に殺せたじゃねえか。やっぱり他のやつらは無能で、オレこそが特別なんだ。そんなことを思いながら、少女の黒焦げ死体を確認するために男は炎を消す。とはいえ、灰まで残さず燃え尽きているかもしれない。


 ……頭だけ残ってりゃいいか。


 要は、呪われた少女の死さえ示せればいいのだ。少女がいた場所まで近付いていく。


 そこには確かに少女の生きている姿はなかった。しかし黒焦げ死体や大量の灰が積まれているわけでもない。


 そこにあったのは、地面に穿たれた一つの穴だった。人間が一人通れるほどの。炎に飲み込まれる刹那、とっさに穴を掘る魔法を使って、決死の状況から抜け出したのだ。


 それを見下ろして、忌々しそうに男は舌打ちを漏らした。


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