第2話 実行する前に確認しよう。
まだ、なんとも言えない感じですが探り探り、続けていきます。
翌朝。この世界がどうなっているか知りたいため、天気も良いしクロエに弁当を
作ってもらいピクニック的に案内してもらっている。
ちなみに服はワイシャツとスラックスのままだったので山道には向かないとの事
で、大体サイズが合うお父さんの服と靴を借りている。
「ここの川は、いつもきれいでそこの河原に降りて洗濯したりします」
「確かに、きれいな川だなあ」
川風が涼しく、黄色や青い花がちらほら咲いて華やいでいるこの土手は、人が入
りやすいように整備されているというか大規模な土木事業をして管理している雰囲
気があって、自分が居た世界にある川のイメージに近い。
橋だってしっかりしているので近づくとアプレットが出現して、川の水質、水深
や生物の状況のモニターや川の蛇行具合や大規模な整備を行えるようになっていて
基本的に現状維持するようになってるのに驚いた。
この木製に見える橋は傷んでないし、道路もほとんどデコボコしてない。
公共事業をできるほどの人口が無くて、極力人手が要らないようになってるんだ
ろうか。
高度なテクノロジーがそれを可能にしているようだけど、木々や雑草が生い茂っ
てたりして作り物っぽさがあまりないのは大自然には敵わないって事だろうな。
植物のリストを見ているとやはり、薬効や染料、木の実が界面活性剤に使えたり
人間が生活しやすいように環境が整っているようだ。近くの木の実を取って、
「クロエ、この木の実を使って、洗濯したりしてる?」
「えっ?! 食べられないって事は知っていますけど?」
ざくざくと河原を下って、木の実を砂利と一緒に手のひらでごしごしすると実の
皮が剥けたので川の水に漬けて手を洗うとヌルヌルしてよく泡立つ。
「ほら、こんな風にすると泡が出るだろう?…ほら、手のひらを出して」
自分の手のひらとクロエの手のひらをこすり合わせた。
「はい…ぬるぬるしますが?」「こうやって川で洗ってみると…」
俺とクロエはこわごわと川の流れに手を入れると泡とぬめりが取れて、
「手がきれいになったろ?」「ほんと!全然知りませんでした!」
大きめの泡が飛んでシャボン玉みたいになったのを子供のように喜んでるのを見
ると和むな。他にも熟した実がクリーム状の植物性油脂になってるのがあるので、
これを手足に塗ると荒れにくくなるよ?とか教えたり、クロエからおいしい木の実
や食べられる草を教えてもらったのでカメラ機能で画像を保存して、テキストエデ
ィタを開いてメモした。
「…ライデン様、ときどき指を宙で動かしているのは、何ですか?」
ああ、アプレット操作やスクリーンキーボードの事だろうな。
「えっと、クセみたいな物かな。こうしていると忘れないとかでー」
「クセって有りますよね。私もつい、髪の毛弄ったりしますし……ふふふっ」
いたずらっぽい目つきで俺を見て胸のあたりまで伸びている髪の毛を指先に絡め
てる。毛がカールしているのは、そのせいか。
山の方に行ってみましょうとクロエが言うのでついて行ってるが、同じような形
をした石や木々が見えるので調べてみると何らかのセンサーや周囲の状況を捉える
ためのものでがけ崩れや道路の崩壊などしないように関数とリンクしており、統合
的に景観を安定させているようだ。
「クロエ、この辺のガケが崩れたり、道が使えなくなった事は?」
歩きつつ人差し指を頬について、首をかしげて記憶をたどっているようだ。
「そういえば、子供の頃から無かったと思います。……あの、丸い大きな石」
クロエが指さした先には円筒形の石が見えて、どう見ても人工物に思える。
「ああ……変わった石だなあ」
「お父さんが、夜中になると石にぺしゃんこにされるから出歩くな!って。
変わった事はそれくらいかなー」
ロードローラーのように動いて、道を平らにしているのだろう。
「石の魔物みたいな感じだな。俺も気をつけよう」「ですです!」
念のため、ロードローラー関連を調べてみると人間が近いと止まるようだ。
山からの清涼な風が心地よく、木々や花々の匂いが無機質なサーバールーム等
で鈍っていた俺の頭を活性化させてクリアな気分になって体も軽い。
それでも徐々に傾斜していく道に足腰がキツくなってくるが適度にヒール1を
使ってるので元気にスイスイと歩いて行くクロエに何とかついて行けてる。
「ライデン様、ここから先は魔物が出てくるので注意してください。
何か武器をお持ちですか?」
道路脇にあった石版に「この先、魔物出現、危険」とか文字を掘ってある。
「武器って、特に持ってないんだけど?」
ナイフとか持っていると警察に捕まるし。
「では、念のため、予備のナイフをどうぞ!」「あ、ども」
皮のケースに入った刃渡り30cmはある厚いナイフだ。
これもスクリプトが組んであって、かかる力、使用回数によって刃先の角度が
鋭くなり、鋭くなりすぎてこぼれた鋼材が回収されることで常に一定の切れ味が
保たれ、欠けた部分も自動修復されていくようだ。鋼材の結合にナノマシンとか
使ってるらしい(自分の科学知識では未知の素材)。
何って言うか、管理者として来た自分が何かしなくても自己メンテされるから
ほんと、俺はいなくて良いんじゃないか?
「どうかしました? ちゃんと切れるし、錆びてないですよ?」
「砥石で研いだり、磨いたりした事はないのか?」
「…なーにいってるんですか。こういうのは放って置いた方が調子良いです!」
生まれたときから、そういう環境だものなあ。ゲームだと装備しないと使えな
いがこの世界だとナイフをケースから出して手に持っていれば良いだろう。
ケースはズボンのベルトに通しておくと無くさないとクロエに言われたので、
その通りにしてておいたら、足下にじっとりと変な感触が。
「ライデン様!足下にスライムが居ますよ。ナイフでビッとやっちゃって!」
うっわっ、ズボンの裾から熱い感触がして強アルカリか?!おなじみの魔物が
俺の足下から溶かそうとしているので、慌ててナイフを刺してみるとパシャッと
弾けて、地面に吸い込まれていった。砂利道にはコインが1枚残ってる。
「コインが出ましたね。早めに拾わないと消えちゃいますよ?」「ふぅん?」
拾ってみると確かにコインで「10」とか刻印されている。10円くらいか?
スライムでやけどした足が痛いのでヒール1したら治った。
「あ…薬草を貼ろうと思ったら、ライデン様は魔法が使えたんだっけ」
腰のポーチから包帯と乾燥した葉で治療しようとしたクロエに治してもらった
方が良かったなと思ったけど、キモいから黙っておいた。
「この辺は弱いのしか居ませんけど、気をつけないとやられちゃいますよ?」
「はじめてだったので油断してた。今度はちゃんとやる!」「その意気です!」
ここのエリア属性は、魔物が出現し、一定時間で増えて、一定数を保つフラグ
がセットされてるんだな。いきなり襲ってくるのは魔物、逃げたり黙ってみてい
るのは天然の生き物か。
襲いかかる目つきの悪いうさぎや山鳥をクロエは遠慮無く切り裂き、刺し殺す
と血しぶきもなく、コインや肉、薬草などを残すだけなので俺もナイフを使って
降りかかる危険を排除していった。
収穫できたアイテムが多くなってきたのでなんかないか?と検索してみると、
「量子化固定袋」という便利なスキルがあったので上着のポケットを袋指定して
みるとどんどん放り込めて、量子化固定状態で保存されるから、長期保存しても
劣化しないそうな。複数起動できるのでクロエのポーチも指定したので、
「こういうことしてお金を稼いだり、薬草を調達するのか。
クロエのポーチもどんどん入るようにしておいたよ!」
「そんな大きい物ポーチに入りませんってば……入った?!中を見ると有るし」
覗いたときに拡大表示されて、取り出しやすくなってるようだ。
「ライデン様!……こんな大きな魔物……あり得ない」
クロエが驚いてるので何かと思ったら、これもどこかで見たような気がするが
今までとは比べものにならない強さを持ちそうな、翼が生えたドラゴンだ!
このエリアでは存在しないアンノウンとしてリストに増えてるぞ?
鈍く光る鎧で包まれたような重圧と禍々しい雰囲気の目がこっちを見ているが
それだけで金縛りに遭ったように体が動かず、ドスンドスンと近寄ってくる度に
地面が波打って震度5くらいに感じる。
このままでは死ぬんだろうと思った俺はかろうじて動く指先と目線で対策を探
していたら「融合熱」っていう使用注意の警告が書かれたスキルを見つけ、多分、
強力なんだろうと対象をドラゴンに指定して、最大100まである強度を控えめ
に1にセットした。
熱・電磁波・放射線・衝撃遮断シールド推奨となっていたので、自分とクロエ
を指定するとぼわんと夜になったようなドームに俺らは包まれたのでこれでいい
だろうと「融合熱」を実行した。
ぼんやり見えていたドラゴンは、内側から爆発して弾けたように思えた。
少しして、周囲が太陽に突っ込んだような光と耳鳴り、ドームが激しく振動し
ているのが分かり、俺とクロエはあまりの光景に腰が抜けて座り込んでいた。
つまり、ドラゴンの質量中心部の1%が核融合したのかー!
俺の眼前には様々な大規模修復アラートウインドウが現れ、大量の経験値やス
キルポイントが増え、やらかしたせいか貯まっていた奇跡値がゼロにされてその
分が山の修復に当てられていた。あー、久々の大規模やらかしだー。
10分もすると修復が終わったのか、シールドが解かれてシーンとした山道に
俺たちは座り込んでいる。
「……ごめん、クロエ。ドラゴンにビックリして強すぎる魔法使っちゃったよ」
ドラゴンが居たあたりに鎧や盾、剣があったのでポケットに回収しておいた。
「……何が、何やら。私もドラゴンを見たのははじめてですけどぉー。
でも、ライデン様?……もうちょっと控えめな魔法にしてください!」
怒ったクロエもかわいいなと思いつつ、クロエはお昼にしましょうというので
弁当を食べた。
食べつつ、ログを見ていると融合熱を実行する前にイメージバックアップして
いたので該当のプログラムを見てみたら、コメント行に大失敗した経緯が書いて
あってこの世界は滅びかけたようだ。一瞬で星自体に大きなダメージが行って、
自動バックアップに支障を来し、様々な不整合が発生して完全には修復できず、
人々の記憶障害とか深刻な状況を記してあったので読み応えがあった。
その割に簡単に実行できてしまったのは前任者が楽天的な性格だったのかも。
衝撃的な事があったせいか、クロエが頭痛がするというのでおんぶして家まで
戻って、俺も精神的に疲れたので簡単な夕食をして、倒れるように、寝た。
未完結にならないよう、がんばります。