夢の君、現の僕
あの時こうしてれば、今とまた違った世界があったんじゃないだろうか。
人間なら誰しも思う、そんなifの話。
ゲームのように選択肢が決められたものではない自由さはあるが、セーブ&ロードの機能なんて存在しないから人生はよりハードである。
今まで正しく生きてきた自信もないし、結果的に間違った選択をしてきたことも多い。
そんな僕が夢に見た、ifの話。
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1年ほど前、僕には妹と呼べるような友人がいた。
僕より4つほど年下で、男子の平均身長程の僕と比べると小さく、何事も一生懸命な笑顔の素敵な女の子だ。
その子の一人称は"僕"と変わったところはあるが、その個性的な部分も含めて僕は彼女のことを気に入っており、また彼女も僕のことを兄のように慕ってくれていた。
お互いに美味しいものには目がなく、度々時間を見付けてはあっちの店、こっちの店と食べに行ったものである。
元来飽き性な僕が話すネタもないのに毎日連絡もしていた。
彼女と過ごす時間は僕にとって心地よいものであり、楽しいものだった。
この時既に僕は社会人でそれなりに忙しい日々を過ごしていた。
帰りが終電になったり、客先で罵声や怒声を浴びせられ、急いで指摘通り直すも今度は言ってることが180度変わったり。
そんな日常を過ごし、気付いたら僕は周りのもの全てが怖く、やる気も自信もなくなってしまっていた。
僕は鬱になってしまったのだ。
そんな簡単になるものかい?と思う人もいると思うが、非常に簡単である。
その人のやることなすこと否定を繰り返せばあっという間である。
ただし、向こうがある程度真面目にやっていればの話だが。
当然彼女と過ごす日々にも変化があった。
頻繁に行っていた連絡も僕が途切れがちにしてしまったり、遊びにいく気にもなれずに誘いを断ったり。
ちょうど彼女にも不幸な出来事が起きており、僕は慰めることも出来ず、ただただ自分のことに精一杯だった。
誰かと話すのも苦痛で、誰とも話したくなくて拒絶を繰り返し、そんな距離を取る行動ばかりしていた僕。
最終的に見放されるのが当然のことであった。
メンタル系の病院で薬を処方して貰い何とか心を騙し、漸くまともに生活できるようになった頃、ふいに彼女との日々が懐かしくなった。
久方ぶりに連絡を取ってみるも返信なし。
当然である。なんたって自分が拒絶したのだから。
その後何度か連絡してみるも返信なし。
相手の住所なんかも知っているが、そこまでやったらただのストーカー男と変わりない。
そんなモヤモヤした気分を抱えながらも早一年。
ある日唐突に夢を見た。
僕にとって酷く都合のいい夢だった。
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夢の中では彼女は彼氏と思わしき男の子と歩いていた。
そんな姿を偶然僕は見掛けてしまった。
仲直りしたい一心でその背を追いかけた。
ゲーセンで遊ぶ楽しそうな彼女と男の子。
元々彼女に彼氏が出来たらそっちを優先するように言っていたため、僕は敢えて割って入るようなことはしなかった。
だけど彼女に謝りたい気持ちは変わらず、その背を追い続けた。
ある程度追い続け、やがてお祭りの会場のような場所に辿り着く。
そこでも楽しそうな彼女の姿を追っていたが、ふいに彼女を見失った。
辺りを探しても見付からず苛立つ僕。
いくら探しても見付からず、諦めかけたその時、彼女を見付けた。
何故か泣いており、隣にいた男の子も見当たらない。
声を掛けようと、『よう、大丈夫かい?』と言おうと。
そう考えたが僕のやってきたことを思いだし、僕に声を掛ける権利なんかないように思え、俯いてしまった。
そんな僕を逆に見付けた彼女が、かつて彼女が呼んでいた名前で僕を呼んだ。
その声を聞いた僕は咄嗟に逃げてしまった。
僕に彼女を慰める権利なんてない、僕に彼女と笑う権利なんかない、僕はそれほどに君を傷付け拒絶したのだから。
僕は選択を誤った。
僕を謗ってくれ。
僕を許さないでくれ。
彼女から逃げても追い付かれを繰り返し、ようやく一人になった。
恐らくもう声を掛けられることもないだろう。
そんなことを思いながらも近くのベンチに腰を下ろし、俯いた。
やっぱり寂しいなあ、と思っても今更な話である。
だけど、許されるなら、ただ一度だけでも許されるのなら。
もう一度君と話したい。
逃げたり、話したいと思ったり優柔不断の極みである。
それでもやっぱり君が好きだったんだと。
異性的な感情ではなく、ただ人として。
そんな心地よい存在の君と一緒に居たかったんだと。
心からそう思った。
もしも声を掛けられたらいつものように返事をしよう。
そして謝ろう。
許されなくても謝ろう。
ありもしないだろう未来を妄想をしていた。
そんな時『○○、みーつけた』と僕の後ろから声がした。
僕は俯きながら目から溢れる涙を堪えられなかった。
そう上手くことが起こるはずがない。
現実はそこまで甘くない。
ここまできて漸く夢であることに気が付いた、気付いてしまった。
どうせいつかは終わってしまう夢なのだから、終わるまでは。
『見付かっちまったか』なんて強がってみるも、僕の声は震えている。
きっと泣いてることもバレてるんだろうな。
今まで迷惑を掛けたこと、拒絶したことなど含め、謝った。
彼女はいつものように『しょうがないな、○○は』と泣き笑いしていた。
そんないつものやりとりにまた泣きそうになり、誤魔化すために美味しいものでも食べに行くかと歩きだした。
そしていつものように彼女は僕の隣を歩きだした。
お店で売っていた串焼きを欲しがり、自分の分含めて二本買い、ひとつを彼女に渡す。
『美味いか?』と僕の問いに彼女は『うん、美味しい!』と笑顔で答えた。
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そこで僕にとって都合の良い夢から目覚めたのだった。
あと少し感じていたかった彼女との時間。
だけど、都合の良い夢は終わり、あるのは間違った選択の先にある現実。
目元の涙を拭い、携帯を確認する。
当然のように何の着信もない。
恐らく今後も彼女と連絡は付かないだろうし、僕の夢が現実となることもないだろう。
間違ってしまった選択もまた人生。
その先に彼女の幸せがあることを願いながらも、僕は今を生きていく。
自分のぐちゃぐちゃな感情をtwitterとかに上げるのもなんか違うなと思い、小説としました。
普段文字を書かないので読みづらい部分や表現等があったかと思いますが、ご容赦下さい。