第5話 僕はいません
木の実の皮むきが終わって、する事がないので指を動かす練習をしてた。
ヒコちゃん帰ってこないなー…
太陽は少しづつ傾いていって、空はうっすらと青からオレンジに変わっていく。
不安になると小さな物音も気になる…
風で木がガサッ、ビクッ!
湖畔の水音がチャプッ、ココロゴリゴリ…
ヒコちゃん、早く帰って来てぇぇぇぇ!!
ワンコの時はキューキュー鳴いていたけど、人間の体になった今はじんわり涙が出てくる。
うう…
ホントは人間の体の僕がヒコちゃんを守ってあげなきゃいけないのに、弱虫でダメだ!
お留守番くらい、頑張らなきゃ!
涙をふいて、ヒコちゃんが向かった森の方を見てみる。
ん?あれなんだ?
森の方から黒い大きな塊が近づいてくる。
は、速い!!
どうしよう!?
ヒコちゃんはバリア張ってくれて、ここから動かないでねって言ってたけど、逃げたいよぉぉぉぉぉぉ!!
考えている間にも、黒い塊はどんどん近づいてくる!
どどどどどうしよぉぉぉぉ!
とりあえず隠れるしかない!?
テーブルの下にもぐりこんだ。
これしかできないのがなさけない…
必死に「僕はいません!いません!」と心の中で呟いて、ぎゅっと目をつぶった。
「きーい!」
あれ?
ヒコちゃんの大きな声が聴こえた。
そーっと目をあけてみると、大きな塊はテーブルの横で止まっていた。
塊の横からヒコちゃんが出てきて、テーブルの下の僕と目が合った?
「あれー?きぃちゃんどこ行った?もしかしてバリアから出ちゃったのかな?」
ヒコちゃんはテーブルから離れてウロウロし始める。
ん?
離れていくヒコちゃんに慌てて声をかける。
「ヒコちゃん、僕ここにいるよ?」
ちょうど真後ろから声をかけたからか、ヒコちゃんは一瞬ビクッとして振り返った。
「あ、あれ?きぃちゃんどこにいたの?」
「テーブルの下に隠れてたよー。てか、目が合ったよね?」
「え、マジで!?」
「うんうん。でもヒコちゃん気づかないで行っちゃった」
「えーーー?」
ヒコちゃんの目がまん丸になった。
むー、と短い手で腕組み風。
「もしかしてきぃちゃん、僕はいません!とか思って隠れてた?」
「うん!怖かったから」
するとヒコちゃんは僕をバンバン叩いて、頭をいっぱい撫でてくれた。
「きぃちゃんすごい!たぶんそれ、姿を消す魔法が使えたんだよ!」
「え、なにそれ」
「気配を消したり、もっとすごいと目の前にいても見えなくなったり出来るんだよ!きぃちゃんはその魔法ができたんだよ!」
「ほえー、そ、そうなんだ…」
偶然だけど、すごい事が出来ちゃったらしい!
「きぃちゃんのすごい初魔法は、【僕はいません!】と名付けよう!」
ヒコちゃん、それはどうなの…(笑)
まぁいっか。
それはそうと。
「そこの大きな塊はなんなの?」
「あ、これ?おかず!」
「おかずって…」
「森にいた猪の魔物だよ!美味しいらしいから狩ってきた!」
ヒコちゃん、イミワカンナイ。
「風の魔法でやっつけて、重さを軽くしてくわえてきた!ビックリさせようと思って」
泣きそうなほどビックリしました…
「ま、話は後にして、暗くなる前にごはん作らないと。解体するからお手伝いできる?」
「カイタイ?」
「食べられるように皮剥いで細かくするのー。押さえたり運んでくれるだけでいいからさ」
「皮…細かく…う。が、頑張る…」
「2人で頑張ろ!大丈夫!」
ガクブルしてきたけど、ヒコちゃんはもっと頑張ってくれてるんだ!僕も頑張らなきゃ!
そうして解体を始めたヒコちゃん。
風魔法でサクサク皮を剥いでいく。
僕は猪の腕を押さえてた。ココロをゴリゴリさせながら。
「ヒコちゃん、なんでそんなにカンタンにできてるの?」
「あーなんかね?切る場所に白い線みたいなのが見えてー、そこ切ればいいみたいな?」
なにそれすごい。
あっという間に皮は終了。
そこで一旦手をとめたヒコちゃんは、猪の横の地面に手をついて土魔法?
キッチンみたいな台を作った。
「よし、じゃあ次はお肉いこか!たぶんこれはまだきぃちゃんにはコワイから離れてていいよ。運んで欲しい時呼ぶから」
「はぁい」
ちょっと怖かったから助かった。
猪を見ないようにしてテーブルに戻った。
ヒコちゃんはご機嫌で変な歌を歌いながらお肉を捌いていく。
「今日は~森の中♪猪に~出会った~♪魔法でサックリ首チョッキン♪よっこいしょって~ぶら下げてぇ~♪血ぃが抜けたらいっちょあがり!お肉~お肉~美味しいお肉~♪」
よくわかりました。
「きぃちゃん、今日の分のお肉切れたからキッチンの上に運んで」
「はぁい」
ほいっとお肉の塊を渡された。
うん、ここまでちゃんとお肉になってれば怖くないよ。
そのあともヒコちゃんはふんふん歌いながら残りの部分もお肉の塊にしていく。
「ふー、やっと終わったよ~お待たせ」
その頃にはもうお空は真っ赤に染まっていた。
土魔法で大きな穴をあけて、ゴミをぽいぽい入れていくヒコちゃん。
入れ終わったのか、しっかりと土をかけて埋めていた。
「あれ?このキバ?と爪?はどうするの?」
さすが大きな猪、立派なキバ2本と爪が4つ足分。埋められずに毛皮の上に残されてた。
「これはきっと売り物になると思うんだ!だからとっておくの」
二本足で立ち上がってふんすっと胸を張るヒコちゃん。
売り物…どうするのか僕にはさっぱりわからなかったけど、ヒコちゃんが言うならそうなんだろう。
「ふーん、わかったー。じゃあごはんの準備だね!何かお手伝いできる?」
「んーん、きぃちゃんは待ってて大丈夫だよ。あ、1こお手伝いあった!剥いてもらった木の実、葉っぱでくるんでおいて」
「おっけー!」
テーブルの上に置いてあった葉っぱごと木の実をくるんでキッチン台に持っていく。
「これはどこに置けばいいの?」
「シンクっぽい…お皿洗うとこに置いて~」
「ほいさ」
僕がキッチン台のお皿洗うところに似たくぼみにそっと置くと、ヒコちゃんは細かい氷をザラザラ出して丸ごと埋め込んだ。
「こうしておけば食後には美味しく冷えるはず♪」
「ヒコちゃんすごーい!」
「えっへん!」
木の実、美味しいのかなー。
甘いニオイいっぱいしたんだよなー。
ワクワク。
イスに座って待つ。
ヒコちゃんはトランクみたいなケースから道具を出してお料理を始めた。
…あんなのどこにあったんだろ?
後で教えてくれるかなー。
いつの間に作ったのか、踏み台の上に二本足で立って材料を切るヒコちゃん。
包丁ぽいのが見えるけど、どうやって使ってるんだろ…
材料をフライパン?に入れて火にかけてる。
お肉の焼けるいいニオイがしてきた!
お腹空いた!
だって今日なんにも食べてなかったもんね。
「お待たせ!できたよ!猪とキノコとニラっぽいのの炒め物!」
「うわぁ、美味しそう!」
ってあれ?犬はニラ食べちゃダメなんじゃ…
「ヒコちゃん今犬だけど、ニラ大丈夫なの?」
「たぶん平気!犬だけど魔獣扱いみたいなんだよね。なんかあったら回復魔法もあるし」
半分もわからなかったけど、余裕なヒコちゃんを見て心配はいらない気がした。
ではでは。
「「いただきま~~~す!!」