第3話 体を動かしてみよう
「ほかにもいろいろあるんだけど、一気に話すときぃちゃん余計わからなくなるよね?」
はい、すでにお腹いっぱいです。
「じゃあひとまずお話は置いといて、体を動かす練習しようか」
ん?体?
「あたしは人間からワンコで不便はあるけど大体普通に動けた。でもきぃちゃんは二足歩行になって、指もあってだから、少し慣れた方がいいと思うんだ」
なるほど。
「まずは立ち上がってみようか!」
そういえば目覚めてからまだ立ち上がってなかったっけ。
「やってみるよ!」
ドキドキしながら立ってみる。
う、うわぁ…地面が遠い!
パパさんに抱っこされた時みたいだ。
「ヒコちゃん、こんな感じ?」
「うんうん大丈夫!じゃあ歩いてみて」
そっと足を出して進んでみる。
あ、思ったよりカンタンかも。
「きぃちゃん上手!今度は早歩きで」
もともと歩くのが速い僕だけど、人間の早歩きはもっと速かった。
楽しい。
「よーし、走ってみよう!ついていくから!」
ヒコちゃんと一緒に走った。
あれ、ちょっと違和感…手ってどうするの?
「ヒコちゃーん、走る時も手ってブラブラさせるの?」
「手はねー、グーにして肘曲げてー、そうそう、走るのに合わせて前後に振るの!」
なるほど!
違和感がなくなった!
走れる!
「さすがきぃちゃん、走るの速いね」
「うん!楽しい!」
「オッケー、ストップ!二足歩行は大丈夫そうだね。指の練習いってみよ。そこに座って」
ヒコちゃんの言葉でその場に座る。
「座る時の足はどうするの?」
「えーっと、胡座…わかるかな、パパが座ってる時の」
「あれか!よいしょ…これであってる?」
「上手上手。男の子が床とか地面に座るときはそれでいいよ」
「わかったよー」
「じゃあ指の練習いくよー。まずは両手でグーパーから。はい、グーパーグーパー」
「グーパーグーパー」
「オッケー、次は右手で1・2・3・4・5をいくよー。ゆっくりでいいからね。はい、1」
「い~ち」
「2」
「に~い」
「3」
「さ…イテテ。小指痛い…」
「3はちょっと難しいかな?もっとゆっくりやってみて」
「さ…イテテ。むー」
「小指を親指でそっと押さえて形にしてみよー」
「さぁ~ん…な、なんとかできた!」
「4」
「よ~ん」
「5」
「ご~!」
「よーし、偉かったね!でも3は宿題」
「はあい」
「たぶんきぃちゃんはまだ利き手がないと思うから、左右で差がないように練習しようね」
「利き手って何?」
「えっとー、使いやすい手?あたしだと右利きだから字を書く時とかお箸が右手になるの。利き手があるとつい頼っちゃうから、差がないようにしておくと剣使う時とかに助かると思う」
へー…って今何て!?
「ヒコちゃん、剣って!?」
「この世界だと魔物と戦ったりとかで必要になると思うよ?」
たたた戦う!?魔物!?
「ヤダ!僕コワイ!」
「あたしがいるから大丈夫って言ったでしょ?それにね、武器とか魔法とかで強くなっておかないとよけい怖いよ?」
うう…でもコワイよ…。
「大丈夫!慣れる!そういう世界だから!」
「…ハイ」
押し切られちゃった…。魔物さんには出会わない事を祈っておこう。
「さて、指の練習がてら、きぃちゃんにはお仕事をお願いしよう」
「お仕事?」
「時計がないからはっきりわからないんだけど、たぶんもう午後のいい時間だと思うんだよね。太陽が低くなってきてるでしょ?」
空を見上げると、確かに。
夕方のお散歩には少し早そうな太陽。
「そろそろごはんの準備を始めた方がよさそう。きぃちゃんには木の実の皮をむいておいて欲しいんだ」
「木の実なんてあったっけ?」
「ちょっと待ってて」
言うとヒコちゃんは湖のほとりの木の所に走って行った。
あっという間に何かくわえて戻ってくる。
「これー」
小さい桃みたいな木の実だった。
一本の枝にいくつか実がついてる。
「手でむけると思うから、全部むいておいてー。あっ、テーブルいるか」
今度はすぐそばの地面に手をつく。
「えい」
すると、地面からテーブルが生えた!?
イスも生えた!?
うちのリビングで使ってるのと同じくらいの大きさだった。
「ヒコちゃん…コレは…」
「土の魔法!テキトーだけどこんなもんで充分でしょ」
魔法が凄いのか、ヒコちゃんが凄いのか…。
ヒコちゃんは丸い水の球を空中に浮かべると、木の実と大きな葉っぱを洗った。
洗い終わると水の球は消えた。
「準備オッケーだよー。むいたら葉っぱをお皿にして置いてね」
「わかった!…で、ヒコちゃんは?」
「なんかおかず探してくる!暗くなる前には戻るけど、ここから動かないようにね。あと湖には入らないこと!魚の魔物が出るといけないから」
魔物と聞いて、僕は全力でブンブンと頷いた!
っていうか…1人になるの…?
「ヒコちゃん…1人はコワイ…」
「明るいから大丈夫だって!この辺には魔物いないし。あとこれ…えい」
テーブルと僕を囲むように光がキラキラした。
「これなに?」
「バリアみたいなの!これで絶対安全だから安心して待ってて。ほいじゃ行ってきまーす!」
「あっ!ちょ…ヒコちゃん!!」
あっという間に森の方に走って行ってしまった。
残された僕は、魔物が出ないように祈りながらイスに座って皮むきを始めたのであった。