第六話 輝天祭開会式
特に予定もないので開会式までにはまだ早いが、遠矢たちはコロシアムに入るとそこは遠矢の想像とは大きく違った場所だった。
コロシアム内部には何か開く予定があるのかシャッターで閉められた場所が多くあり、階段を上がった先にある観客席となる場所は広く平たい作りとなっていた。段状ではないことに驚きながらもコロシアムの中央に見てみればそこは穴。どこまでも続きそうな底の見えない穴だった。
何とも怖いものを見た、と遠矢たちはその穴から離れるため、それと全体を見回せるように観客席の外側の位置に陣取った。
僅かに傾斜のある道を歩き、壁に背をかけ後は開会式が始まるまでひたすら時間が過ぎるのを待つ。
「トーヤは、何で輝天祭に参加したび? 英雄じゃ、ないでしょ?」
待つだけの時間が、強制的にペアとなった二人の互いを知るための時間になったのはすぐだった。
「英雄じゃないし、参加を希望した覚えもない。気が付いたらあそこにいたんだ。りりあは輝天祭について知っている様子だったから、希望して来たのか」
「まさか。私はうっかりでね。本当は父の悪魔王が参加する予定じゃないかな。あの部屋に入らなければなー。……輝天祭が終わって帰ったらどれだけ怒られるかな。考えただけでも憂鬱になる」
「そりゃ不幸だったな。本命がいるのに来てしまって、ここにいても負けるだけ。帰ったら怒られる。……怒られるってことは優勝できる可能性があったのか」
「これでもりりあたち悪魔族は過去に輝天祭で優勝したことがあるからね。優勝候補じゃないけど、優勝経験がある種族だから可能性は他の種族よりはあるよね」
最後にりりあは、無理だけどと付け加えて一度会話を終える。
輝天祭参加種族を僅かにでも知っているりりあからすれば、人間と小悪魔のペアがどれほど弱いのか誰よりも理解している。
「優勝したら何を願うか、なんてみんな考えているんだろうな。私は、全然思いつかいないや。トーヤだったら何を願うの? 世界門の設置とか?」
「は? 世界門? 何だそれは?」
「世界と世界を繋ぐ門だよ。……興味なさそうだね。となると個人的欲求だから、不老不死とか強力な力? ああ、過去に戻るや若返りもありかな」
「ふっ、昔話に出てきそうな望みだな。そんな願いを叶えられても碌なことにならんだろう。時代が違う。そうだな、クソ上司共に呪いあれとでも願うかな」
「折角の願いなのに人を呪うのに使うの? 悪魔より性格悪いんじゃない? りりあのことも騙して勝手に腕輪を付けるし」
「俺は利き腕を出せと言っただけだ。腕輪を付けてやるとは言っていない」
それからも遠矢とりりあはあーだこーだと話していれば時間が経ち、空が赤みがかりほとんどの輝天祭参加者が集まった頃。
「集まったかニャー? これより輝天祭の開会式を始めるニャー。と言ってもどこかの偉い誰かが話すとかそんなことはニャーから、黙ってミーの話を聞いていろニャ」
コロシアムの中央、どこまでの続く暗闇の穴から大きな球に乗った猫が現れ、やる気がなさそうに開会式を始めた。
ただ開会式だから特別、なんてことはなく猫は淡々と輝天祭とは何か、優勝賞品に付いて話をし、最後に面倒だから腕輪のヘルプに目を通せと言って早々に開会式事態を終える。
とはいえ開会式など銭座。ここからが本命。
「それでは対戦方法と対戦相手の開示をするニャ。対戦方法は実に単純。対戦者同士の自エリアを繋げて戦ってもらうニャ。そこで相手を倒せれば勝ちニャ。要は砦でも作って防備を固めつつ迎撃しろってことニャ。分からんことがあれば腕輪のヘルプ、もしくは北の運営事務所まで来いニャ。ただしミーを指名するニャ。ミーに仕事をさせるようニャ奴は殺すニャ」
それじゃ、と言って運営の猫は出てきたときとは逆に、コロシアムの穴の中へ消えて行った。
直後、一気に盛り上がりを見せる輝天祭参加者たち。その中で遠矢はとりあえず対戦相手を確認する。
『竜人。リザ・クローケン。ペア。大剣、ゼファー』
英雄、というよりも若い女の指名手配犯のような写真を見て嫌そうに眉を寄せれば。
「おいおい、対戦相手は人間と悪魔? 相手にもならねえ雑魚じゃねえか! はー、やってらんねえ」
すぐ近くから暴力的な声が聞こえ、そちらの方を向けば人型ではあるが尾が生え、鱗の生えた竜人と言われても納得しそうな容姿の輝天祭参加者がおり。
遠矢と目が合った。