第五話 商業エリアとダンジョン
さすがに長時間呆然としていては周りから奇異な目で見られるため、遠矢はりりあを連れて東の商業エリアにやってきた。
おそらくこれから輝天祭参加者が店を持つことを前提としているのか、今は開いている店が少数のシャッター街になっているが、開いている店には多くの参加者がいる。
それなりの人数の中であれば弱者二人もそれほど浮かないのでは、と考えて遠矢とりりあは武器屋に入る。
「ふぁ~」
中は様々な剣や槍、盾に弓などが並べられており、どれもが数百万ポイントを要求する高級品ばかり。
どれもこれも遠矢の目では同じような品にしか見えないが、隣のりりあは宝物で見るかのように目を輝かせていた。
「どれもこれも超が付くくらいの一級品ですよ。素人が持っても一流になれるくらいの。トーヤ、何か買ったらどうです?」
「値段を見ろ。それにな、周りは超一流の奴が手に馴染んだ超一流の品を持っているんだぞ? 一流になったからってどうにかなると思うか?」
ここにあるのは超一流の品なのだろうが、弱者が手を出して良いものではない。見るだけに留めておく。
そう言って遠矢は早々に店を出ようとする。この人ごみの中で小柄でムキムキで髭がもじゃもじゃな店主が自分たちを見ていることに気付いたのだ。
輝天祭の参加者なのか、それとも運営側の人なのか。どちらかは分からないが注目されるのは避けたい遠矢は、武器に目を奪われるりりあの腕を取り無理矢理外へ出ていく。
「むう。もう少し見ていたかったのに」
「……他の所も見て回るんだ。あまり時間をかけていたくない」
店主の視線に気づかなかったりりあは不満の声を上げて遠矢に抗議する。遠矢はわざわざ教えるのも面倒と適当な理由をつけて東の商業エリアを抜け、南のダンジョンの方に足を向ける。
南に足を進めるに連れて、他の輝天祭参加者が増えていく。皆がダンジョンに向かっていた。
それも当然、現在判明しているポイントの獲得方法はダンジョンのみ。今のうちに少しでもポイントを溜めようとするのは当たり前の行動。
「英雄とは説明書を見るのだな。腕輪のヘルプなど見ない者が大半だと思っていた」
「いやー、商業エリアでポイントが足りないから店主に聞いたとかそんなんじゃないですか? りりあは説明書とか読みませんし」
ヘルプで見なくても聞けば教えてもらえる程度の情報。それに北には運営の事務所がありそちらから聞いた可能性もある。
それに腕輪のヘルプを見て真っ直ぐダンジョンに向かっているのであればすでにダンジョン内にいるはず。入り口で呆然とし、商業エリアを見て回っていた遠矢たちと同じ時間にいる時点である程度は察しがつく。
そんな輝天祭参加者たちが向かうのは南にある巨大な塔。そこにダンジョンがある。
流れに従うように遠矢たちも塔の中に入り、驚く。
塔の中はエントランスのようになっており、受付や内部に現れる魔物の情報、中央の魔方陣に触れた参加者はどこかへと消えていく。
自らの実力に自信のある輝天祭参加者たちはまっすぐ中央の魔方陣に向かうが、実力のなさに自信のある遠矢は流れから逃れるようにりりあを連れて横に逃げる。
「何かもっとじめじめとした場所を想像していましたけど、清潔感のある設備って感じですね。どうします? 挑戦します? 中央の魔方陣に触れるとダンジョンに転移するみたいですよ。最下級の魔物程度なら倒してあげますよ」
「嫌だ、怖い。それよりも受付で話を聞くぞ。それにお前の言う最下級の魔物はこのダンジョンに出るのか?」
きっと出ますよ、と言ってりりあは魔物の情報が移るモニターの方に飛んで行った。
そんなに魔物が見たかったのか、と飛んでいくりりあを見送り遠矢は受付に行く。
「すみません、ダンジョンについて話を伺いたいのですがどこに行けば良いですか?」
「それでしたら向かいの緑のカウンターで出来ます、が。今は暇ですのでここでも大丈夫ですよ。本来ここではダンジョン内で拾った不要なアイテムをポイント変えていますが、今は誰も利用していませんので。どのようなご質問でしょうか?」
色黒で腕が六本ある異形の受付だったが、話してみれば親切であり遠矢は安堵してダンジョンについて聞こうとして。
「トーヤ! トーヤ! ここのダンジョンはやばいですよ! 最初の階層からミノタウロスが出てきますよ」
魔物の情報を見に行っていたりりあに邪魔され。
「はい。このダンジョンは英雄仕様ですから。最初から高難易度です。他ならボスに成れる程度の魔物は虫のようにわらわら湧いてきますよ。ちなみにミノタウロスを討伐すれば一ポイント獲得できます」
聞くことすら奪われた。
しかしそのおかげでこのダンジョンの危険さが分かった。
このダンジョンは一般人が足を踏み入れてはいけないダンジョンだった。
遠矢は一応ミノタウロス討伐で一ポイント獲得は妥当なのか、と視線を向ければりりあはあり得ないとばかりに首を振った。
ボスにも成れるような魔物が一ポイントだ。妥当なはずがない。
「なるほど、ありがとうございました。利用する機会がありましたらよろしくお願いします」
絶対にないと思いつつも受付に礼を言ってすぐにダンジョンの塔を後にする。
遠矢たちはダンジョンには関わっても意味がないと理解した。
東から南に来たら、今度は西へ行こうと考えていると遠矢の腕輪が輝きメッセージが届いた。隣にいたりりあは何もしていない。
何のメッセージなのか。りりあと共に見ると。
『共有エリア、コロシアムにて輝天祭開会式と対戦方法の開示、その他諸々を行います。開始時刻は一時間後。参加お待ちしております』
開会式と対戦方法の開示。
それは雑魚二人組にとって不幸のメッセージのようなものだった。