第三話 ペア結成
互いに見つめ合い、思ったことは同じ。
弱そうだな、こいつ。
片やただの人間、片や小悪魔。双方共に輝天祭に参加するつもりなどなく、また非常に弱い。
しかしそれで何が困るのか。
「天城遠矢だ。よろしく」
「りりあ、です。どうも」
遠矢は最初から輝天祭にまともに参加するつもりなどなく、りりあも相手がひ弱な人間と分かった時点で全てを諦めていた。
勝つ目的がない以上、別に相手が弱かろうが問題はない。ただペアとして行動する際に不快でなければ良い。それは同時に自分にも言えることであり、相手を不快にさせないように最低限の挨拶だけはしておく。
しかし挨拶の後が続かない。
遠矢は初めて見る悪魔に、そして久しく人間ともコミュニケーションを取っていなかったために緊張し何を言えば良いのか分からず言葉が出ない。
りりあも人間という異種族を見たことはあるが、悪魔王の娘と言う温室育ちのため見ず知らずの相手との付き合い方など学んでいない。遠矢が同年代か年下であれば声をかけられたが、見るからに年上なため話しかけられず相手の出方を伺う形に。
互いが互いを見つつも無言の非常に気まずい空間が出来上がった。
その空間に助け舟を出すかのように二人の間に銀色に鈍く輝く腕輪が現れた。
宙に浮かぶ腕輪に遠矢はおかしな物を見るように観察し、りりあは僅かな間だけ首を傾げ、すぐに驚いた顔を浮かべた。
「あー、りりあさん? これが何かご存知の様子」
「りりあで良いよ、トーヤ。多分だけどこれは、主の腕輪だと思う。ほら、ペアだからって判断が常に同じってことはないでしょ? 右に行きたいと左に行きたいで判断が分かれるかもしれない。でもペアだから共に行動しなければならない時など、この腕輪の所有者の判断が優先されるんだよ。他にも色々と腕輪の所有者が優先されることがあるらしいですよ」
ペアと言ってもそれぞれ意思の異なる別個対。当然意見の対立もあれば話し合いで納得しないこともある。そんな時のためにこの腕輪の所有者の意見が優先されるように最初から決めさせる。
つまるところ、この腕輪の所有者がペアの上位者となる。別に命令出来るわけではないが、意見が分かれた時に腕輪の所有者の意見が優先されるのは軽視出来ることではない。
ふむ、と遠矢は僅かに悩み、りりあに目を向ける。
「りりあは輝天祭について俺より詳しいようだ。利き手を出してくれ」
「んん? ああ、分かりました。どうぞ」
輝天祭に詳しいりりあにこの腕輪は相応しい。そう言われたのだと思い、りりあは腕輪を付けてくれるのだろうと目を瞑り右腕を差し出す。
それから少しして、カチリ、と固そうな音が鳴る。しかしりりあが差し出した右腕には何の変化もない。
重さのない腕輪なのかと思いりりあは目を開けてみれば。
「あああ!」
そこには自分の腕に腕輪を付けた遠矢がいた。
騙された、と気付いた時にはすでに遅い。
「何してるんですか!?」
「自分の意見が無視される可能性があるんだ。他人に渡すわけがないだろう!」
りりあが遠矢の右腕に飛びつき腕輪を奪おうとして、それを引き剥がそうと遠矢が腕に力を込める。その抵抗が邪魔とばかりにりりあは遠矢を攻撃し……。
その結果。
遠矢は身体能力でりりあに負けて地に伏したが、りりあはどんなに腕輪を取ろうとしても腕輪が抜けることはなく、倒れた遠矢の上で泣いた。
そしてその様子を見ていたかのように全てが終わった直後、遠矢とりりあは光の粒子となってどこかに飛ばされた。