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第一話 人生の負け組 天城遠矢

 天井はなく、壁もなく、地面もない。


「天城遠矢。二十五歳。男性」


 真っ白な空間に遠矢は気が付けばいた。

 視界を遮るものは目の前の言葉を発する巨大な水晶のみ。


「――を卒業後、就職するも劣悪な環境下での労働に二年ほどで身体を壊し、入院と共に解雇」


 突然の事態に混乱していた頭も次第に冷静になり、自らが置かれた状況について考え始めた。

 自分がなぜ、話す巨大な水晶しかない不思議な空間にいるのか。


「社会不信となり一年間無職のまま今に至る」


 しかし分からない。遠矢に残る最後の記憶は普段通り家に引きこもっていた。特別な行動は一切していない。夢の可能性も考えるも違う気がした。

 

「……ここはどこだ?」


 ならば目の前の話す水晶に問いかければ分かるのではないかと考え聞くと。


「輝天祭出場者登録空間」


 答えが返ってきた。カセットのように音声を出力するだけのものではなくてホッとする遠矢だが、同時に知らない言葉に困惑する。


「輝天祭、とは?」


 そこだけが聞き覚えがない。そんな祭りに参加したことも見たこともない。


「説明を開始する」


「おわっ!」


 水晶がそう答えると同時に真っ白だった空間が今度は真っ黒に変わり、俺の周りに次々と人の形をした何かが形成されていく。

 背中に翼が生えた人、尾と鱗が生えた人、小山のような巨人。他にも様々な人の様で人間ではない者たちが形成され。

 戦い始めた。


 剣を振るい、槍を突き刺し、火を噴き、光線を放つ。それぞれが様々な方法で他の者を倒そうとする。


「うわっ!」


 つば競り合いに負けた物が遠矢にぶつかりそうになったが、その者は遠矢をすり抜けて転がり、そしてすぐに戦線に復帰するため飛んで行った。


「……映像か」


「古い輝天祭の記録となる。各世界の英雄が集い、最強を決めるために戦う。優勝者には願いを叶える権利が与えられる」


 こんな、映画かゲームでしか見たことのないようなハチャメチャな戦闘。遠矢の目から見ればそれは英雄ではなく化け物。化け物の中の化け物を決める戦い。

 そこでふと、先ほど水晶が言っていたことを思い出した。


「輝天祭、出場者登録と言っていたが、まさか俺がこれに参加するわけはないよな」


「否定。天城遠矢は参加者である。そして現在の輝天祭は英雄を一か所に集めて戦わせる方法ではない。この方法は戦闘を行わず、漁夫の利で優勝できる者がいるので廃止された」


 淡々とした返事に遠矢は大きなため息を吐く。

 質の悪い冗談のようなもの。手法に変化があったとはいえ、目的である最強の英雄を決めるのであれば戦闘は不可避。一般人、もしくはそれ以下の運動能力しかない遠矢に生き残る手段はない。


 ……一般人。


「もしや、俺に何か特殊な能力を授けるとかそういう話か?」


「否定。そのようなものは与えられない。何の力もなく、そのままの身体能力で参加となる」


「それでどう勝てと言うのか」


「それはこちらが関与する問題にあらず」


 危険な所に放り込んでおきながら後のことは知ったことではないと言う。以前勤めていたブラック企業以上のブラックな言動に怒りを覚えた遠矢は水晶を思いっきり蹴るが、返ってきたのは痛みだけ。

 痛みだ。それも足の指先だけに。遠矢は夢ではないとはっきりと認識できた。


「説明を再開する。現在の輝天祭は各世界よりペアで参加し、予選の成績優秀者が本選に出場。本選で勝ち残った者が優勝者となる」


 遠矢が痛みに苦しむ間も水晶は関係ないとばかりに淡々と説明を終えた。

 しかし痛みに悶えながらもきちんと話を聞いていた遠矢は今の説明に納得するはずもなかった。


「説明をするのであればちゃんとしろ。まずここには俺一人しかおらずペアではないし、予選とは何をするのか、本選も何名までで何をするのか一切説明をしていない! そもそも俺は輝天祭に参加するなどと言った覚えはない」


「……回答。他世界の単独参加者とペアになってもらう。輝天祭に参加は決定事項であり変更は行われない。以上」


「あ、おい! 予選、本選については何も答えてないぞ! ふざけ――」


 突如、眩い光が水晶から放たれ遠矢の視界を塞ぐ。

 あまりの眩さに遠矢はほとんど目を開けられなかったが、水晶ではない何かが目の前に現れたのを感じた。


 それからしばらくして光が収まり、ゆっくりと目を開けばそこには水晶はなく代わりの人が存在していた。


 身長は遠矢の肩に届く程度で起伏のない平坦な身体。男とも女とも取れる短い髪にへそ出しルックと短パンの服装。ただ何より注目すべきは頭に生える二本の角と背中から生える蝙蝠のような薄い翼。そして蛇のような尾まである。


 水晶が、悪魔に変わった?


「「なんだ、こいつは?」」


 初めての言葉は同時で同じ内容だった。


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