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ⅲ それぞれのひと時



「もうすぐ煙草屋さんね。もう少し頑張りましょう。」アリスは割と整理された綺麗な道を幼い子のようにとん、とん、と遊びながら歩いた。



そのとん、とん、という陽気な足音につられたのか、どこからか同じようにとん、とん、という足音が聞こえた。




アリスは変だわ、と思いながらもう一度とん、とん、と跳ねてみた。



そうするとまた、今度は場所は近いが森の方で同じように聞こえた。




そこにいる三人とも変だな、と思い立ち止まって顔を見合わせた。




そうすると木の陰から「さて、私は一体誰かしら?」と楽しげな謎かけが飛んできた。




ヒントなのだろうか。木々の間からエメラルドグリーンがそよぐドレスの裾を見せてヒラヒラさせている。




アリス「どなたかしら?ここに道があるのにわざわざ道のないところをとん、とん、とおてんばに跳ねるお嬢様は」




アリスは誰だかわかっていたけど面白さに質問で返した。




赤ずきん「そうね。おてんばなお嬢様な貴女はきっと海でもイルカのように元気に泳いでいたに違いないわ。」




白うさぎ「私もそう思うよ。」



白うさぎの緊張はひと時解けていた。アリスと二人きりという状況から赤ずきんが加わって三人の仲間という支えの多さに安心したからだ。



赤ずきんもいるから大丈夫。でもアリスだけでも大丈夫なのだけど、と小さく葛藤しながら道を歩いてきたようだ。




それはさておき隠れんぼをしていた誰かさんの正体はというと。



うっふふふふ!と茶目っ気たっぷりに笑いながら木々の中から飛び出してきたドレス姿のお嬢様…ではなくそれは銀の糸の刺繍や透き通る可憐なビーズなどをあしらった豪華なドレスを身にまとったお姫様だった。


三人の姿を見ると、



白うさぎさんじゃないの。よく西の三叉路で見かけるわ、私をわかる?と話しかけ




アリスと赤ずきんに「貴女たち一緒に馬車に乗って行かない?」と楽しそうに二人を誘ったりした。




けれども「うん。ちょっと今はね。」と言いアリスはここまでの経緯(いきさつ)を目の前に飛び出てきたその煌びやかな人魚姫に話した。



人魚姫「うっふふふふ!あははっ。なあにそのお話。面白いことが起きていたのね!どうしてガラスの靴を落とすのよこんな日に。」



赤ずきん「どういうわけって思うでしょ?私も笑ってしまったわ。でもあり得る話よ。だってあの方らしいもの。」



人魚姫「私なら落とさないわ。落とすってわかってたら靴はちゃんと抱きかかえて裸足で歩くわ。」



赤ずきんは人魚姫の冗談に笑った。



赤ずきん「今日は楽しいわ!まだ夜が始まってないのにこんなに楽しい。」



アリス「そうよ。だから夜になったらもっと楽しい。」




白うさぎも楽しかった。普段とは違った今日の日に喜びを感じた。ピョンピョンと一人飛び跳ねていた。






ーーーそのころ。




「痛っ」




とあるお城のその中の大きな中庭の真ん中でかすかに響く声。



チクっとした小さな痛みに丸い血が溢れ出て来た。




「薔薇はこんなに美しいのにトゲで小さな苦しみをくれるわ」



と言ったあと、



「ううん…美しいせいね。」



と少し笑った。




私の名前はエラ。以前はシンデレラと呼ばれていたの。でも今はこの美しい薔薇のお庭のある、大きなお城に住んでいるわ。

いつもはトゲで指を刺したりしないけど




「今日はいつもと違うみたい。」




ふぅっ。と言ってお手上げ、というように両手を少し上げておろして見せた。





「まだ見つからないのですか。お姫様。」




執事だった。




「ええ。ええ。そうね、今日中には見つかると思うの。」




とエラは冗談っぽくおどけた。




お姫様と言ったけれど。ボロボロのほつれた服を着て、髪の毛は無造作にまとめてある、そんな姿だ。そんな姿のお姫様は“ある事情”でドレスよりもボロボロのワンピースを選んで着ていた。




そのボロをまとったお姫様は「今日の私はシンデレラ(灰かぶりのエラ)ね。たまにはいいわ。もうあんな日々を思い出したくはないけれど…そんなことより、あぁ〜。私の失態ですもの。」そう言うと、




頭に手をやってうなだれてしまった。





「そんなに心配することではありませぬ。城の者を遣わせて町中を、いえ、森に至るまで探させますので。」



きっとすぐ見つかりますよと、執事は優しくエラをなだめた。




そう。そのお姫様の“ある事情”というのは見つかってほしい大事な物を、ホコリやチリまみれになるのを気にせずにくまなくくまなく探し出すこと。つまり…




「いいえ。自分の失くし物は自分で探すわ。一刻も早くね。だって。だって今日は…大事な日だと言うのに私ったら。本当に。こうして休んでいられないわ。日没までには探し出さないと、私の靴。」



エラはキッと気持ちを切り替えてまた、落とした自分の靴を探し始めた。




その様子を見ていた白い薔薇、赤い薔薇はどちらも微笑ましく笑っているようにそよいでいた。








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