ⅱ まっすぐ路を道なりに
ーーーアリス。
そう呼びかけたのは白うさぎだった。
どれくらい歩いただろう。
先ほどtea timeを楽しんでいたカフェのある街からはずいぶん離れた。
振り返ると街はこぶし一握りの大きさに見えた。
「この先で合ってるよね?」
いつも通る道なのに白うさぎったら!緊張に緊張を重ねて迷い子のようになっていた。
そんな様子を見たアリスは「この道をずっとまっすぐ行けばジムノペディの煙草屋さんがあるわ。そこを過ぎたらお城のある街に着くわ。ああ。懐かしいわね。あの長い階段を昇るのは久しぶりだから、楽しみね。」
そう言って目を閉じて甘いお砂糖のように可愛く口角を上げた。
ピョンピョンとその後を付いてくる白うさぎ。
「アリス、アリス、なんて言おう?お会いしたら…。」
街からここまでの道のりをずっと同じことばかり考えていたので。
何度も何度も同じ質問をアリスにした。
アリス「ねえ。大丈夫よ。その時頭にあることを話せばいいのよ。話したいことを。貴方は靴を拾ったわ。そして届けたのよ。」
白うさぎ「うん…。いつもはさ、違うんだけど靴を拾ってからはどうやら普通の野うさぎみたいに臆病になってしまった。はぁ。その時頭にあることか。美しいって思い浮かんだらそのまま言うのかい?」
アリス「それは貴方が決めるのよ。貴方が決めて貴方が答えを出すんだわ。怖がらないで。うさぎさんはいいうさぎさんよ。今までだってやってこれたじゃない、赤の女王の時だってジャバウォックの戦いだって。」
アリスは「とても勇敢だったわ」と付け足した。
その言葉に白うさぎは奮起した。大丈夫かも、いや絶対に大丈夫、いつもは私は冷静なのだからと気を取り直した。
白うさぎ「あっ」
アリスも同時に同じ表情で一瞬驚いてみせたが、
その顔はすぐにほころんで
アリス「まあ。貴女も?赤ずきん。」
赤ずきん「そうよ、ちょっと早いけど。ずっと楽しみにしていたのよ。」
アリス「私もよ。でも私は早目に来たわけじゃないの。ちょっと、用があって。」
赤ずきん「あらそう。ところでそこにいる可愛いうさぎさんはあなたのお供なの?」
しばらく可愛い女の子たちの会話に入っていけなかったそのうさぎさんは照れ臭そうに「いえ、私はお供ではなくてむしろアリスにお供を頼んでいると言うか…なんていうか、落し物を届けてる途中というか…その…」
アリス「実はね。これなのよ。」
と言うと珍しい落とし物-ガラスの靴-を赤ずきんに見せた。
赤ずきん「あら!大変。どういうわけでこんな大事なもの落としたのかしら。」
赤ずきんはこの落とし物がどうやって落とされてしまったのか色々想像してクスクス笑ってしまった。
赤ずきん「まあ。本当にあの方ったら、なんでこんな大事な日にガラスの靴を落としたのかしらねえ。でも、彼女らしいわ?」
というと、-まっすぐ路-でアリスらにバッタリ出会った赤ずきんは一緒に行きましょうと白うさぎの手を引っ張って、道を歩き始めた。
白うさぎはやっぱり照れていた。