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精霊剣士の物語〜Sauvenile〜  作者: 伊藤睡蓮
精霊剣士の物語〜Sauvenile〜
8/23

精霊剣士の物語〜sauvenile〜其の捌

どうも、作者の伊藤睡蓮です


多分初の3週連続投稿です(・ω・)、今のうちに投稿しておいた方がいいのか貯めておこうかと迷いましたが投稿することにしました。

今回は秋翔たちは少しお休みいただき、夏音をメインにして展開しています。徐々に悪魔についても………


それではどうぞ!

14,〜磨精学園襲撃・前編〜

磨精都市のとあるビルの屋上で、ある男は言った。

「本当に我々だけで作戦を遂行することは出来るのか?一応作戦は立てたがやはり増援を頼むべきじゃないか?」

彼、カイ=シンの言ってることは確かに間違ってない。現に今からたった3人で磨精(ベータ)学園にある魔導書を奪おうというんだから。


「カ〜イ〜。だから、だ〜いじょ〜ぶだって〜。私がいるじゃない。このイヴさんがね。」

紫色のツインテールという特徴的な彼女、イヴ=スマリクスはドヤ顔で言った。


「あのねー、イヴ。あんた1人で出来るミッションなら私たちは呼ばれないわよ。」


「は〜いは〜い、そ〜んな事言われなくたって分かってるわよ〜夏音。」ニヤリと笑った表情はどこかあたしをバカにしているように見えた。私はそれを無視して話を進めた。


「カイ、あなたの言いたいことも分かるけど、私たちでやると決めたんだから最後まで3人でやらないと。それに、私の魔力のことを心配して言ってくれたのも分かるけど、知っての通り、"私の魔力"は無限なんだから。」


「"てめぇ"の魔力じゃねぇ〜だろ。」イヴは聞こえない声の大きさで呟いた。


「夏音、レイクが前に言っていただろう。予想できないリスクがその魔力にあるかもしれない、と。なるべく最低限の魔力で戦うべきだ。」カイは私にかなり気を遣ってくれてるみたいだった。まぁ私だって時渡りの前にデメリットになることは避けたい気持ちはあるけど……って、だったらそもそもレイクが私たちを選んだのが間違いじゃない⁉︎何考えてんのよあのお爺さんは。まったく………。


「……分かった。最低限ね、最低限。」

作戦は至ってシンプル。戦闘好みのイヴが警備の目を引き、そのうちに私とカイで魔道書が保管されてある部屋まで辿り着けば、後はそれを奪って逃走。その時にイヴと合流して適当に魔法で撹乱して……おしまい。


まぁ、カイが「そんな作戦じゃだめだって」言って細かい説明も言われたけど……、魔導書が頑丈な物で囲われていたり、イヴがやられて警備員がこちらを追い詰めるような行動をとるとか、学園長の他に強者がいた場合の対処法とか……。ありとあらゆる場面の対処を事細かに伝えてくれたけど、イヴは多分半分も覚えてないでしょうね。私だって必要なの?と考えるレベルだったし。


「そろそろ作戦開始の時間だ、2人とも準備はできてるか?」

カイの言葉にはっと我に返ると、2人がこちらを見ていた。


「どうしたの〜、夏音?ここに来て怖気づいたとか〜?」

怖気づく?

「いいえ、それは無いわね。イヴ、作戦通りによろしくね。」


イヴは舌打ちをして、耳につけていたサソリの尾のようなイヤリングに触れた。


「はいはい。おいで、トイ。」

イヤリングは紫の霧となり、イヴの左腕にまとわりつくと、その手にはサソリの尾を模した短剣のような武器を持っていた。

「久しぶりに見たけど、相変わらずあなたの武器って気味が悪いわね。」


「褒め言葉として受け取っとくわ〜。それじゃ〜、殺るか。」イヴは屋上からジャンプし、隣の低いビルへと降り、どんどんと地上に降りて磨精学園の方へと向かって行った。


「それじゃあ私たちも行きましょ。イヴが暴走する前に。」


「あぁ、そうだな。作戦通りに夏音は俺の後方での支援を頼む。イコール、出番だ。」

そう言うと、首にかけている動物を模したネックレスが光り、長い矛となりカイの手に優しく握られた。カイの精霊も久しぶり。


「夏音、行くぞ。」

…………精霊か。


「えぇ。」

作戦開始。


ーーー4学園会議

中央の丸テーブルを囲むように4つの学園の学園長が東西南北を揃えて座っている。

「みんな揃ったみたいだね。遠くからご苦労様。」

明るい笑顔で微笑む彼、神谷晴明(かみやせいめい)は、その笑顔からでもやはり精霊使い第1位だと思わせる風格がある。刻精(デルタ)学園の学園長。


「遠いのは晴明さんも同じでしょう。」

クスクスと笑うのは、私の親友であり精霊使い第5位の雲雀真純(ひばりますみ)忠精(ガンマ)学園の学園長。


「それはそうだね。霧崎くんも、魔導書の警備も任せてしまっているのに呼び出してしまってすまないね。」


「いえいえ、第1位直々の招集とあれば、出席しないわけには行かないでしょう。」

私は個人的にこの男、霧崎千(きりさきせん)は嫌い。第7位の実力はあるものの、いつも緊張感というものを感じない。この男からは全てがただの遊びという感じしか伝わってこない。事実、磨精学園の学園長に選ばれたのも戦闘での実力のみなわけだし。今も晴明さんに媚びを売って何を企んでるか分からない。


「晴明さん、すみません。今日も外で私の教師が待ってるので、なるべく早めに今回お呼びされた件について知りたいのですが……。」


「あぁ、そうだったか。それはすまないね。それじゃあ、本題に入ろうか。……時雨くん、この間君の生徒が悪魔を倒したとの報告を受けたが本当かね?」


「はい、事実です。相手はレオと名乗っていたことと、1年前の武精祭で現れた悪魔の中の1匹と同じだということも分かっています。」

春香さんと真冬が討伐したという悪魔、レオは今、イプシロンの研究者らによって解析が行われているはず。


「へぇー、時雨ちゃんとこの生徒がねー、そりゃすごい。」

千は信じていないような表情で私を見ていた。


「吹雪の言葉を疑っているの?千。」

真純は千に聞いた。


「いやいや、そんな事はないさ。ただ、そんな悪魔ならこんな会議必要あるのかなーと疑問に思ってさ。そんな生徒ごときにやられる悪魔なんて。」


「千、あなたって人は…!」


「真純、いいのよ。私は生徒から聞いた真実を伝えるだけだから。」

苛立つ思いを殺して、冷静な対応をした。

「霧崎くん、時雨くんの生徒が倒した悪魔は間違いなく悪魔だ。"中級"だがね。」


「中級⁉︎そんなはずありません。晴明さん、私は"レオ"と言いましたよね?間違いなく悪魔刻(デモンシア)、12星座のレオです。」

悪魔には初級、中級、上級とランクづけされ、上級の12体の悪魔は12星座を模しているとこれまでの会議で晴明さんの情報から得られた。

中級はそれに属さないが、教師数人が戦えば勝てるレベルの悪魔、さらに中級、上級は言語を取得しているが、初級は言語すら身につけておらず、精霊と同レベルの力だと聞いている。


「デモンシア?なんだっけそれ?」

千はテーブルに足をかけて笑いながら言った。


「霧崎くん、この間の会議で話したはずだけど……。デモンシアは12体の悪魔の総称と言ったところかな。その内発見されているのは、天秤座のリブラ、水瓶座のアクアリアス、獅子座のレオ、そして双子座のジェミニだったね。うん、確かに武精祭の時に現れたレオは間違いなくデモンシアのレオだ。だが……今回討伐した悪魔はレオであり、レオではない。」

言っている意味が分からなかった。


「今回、レオの身体を解析してもらったところ、悪魔には固有の能力がある事が判明した。いや、判明したというよりは確定した、という方が正しいかな?」

そう、悪魔の能力については、春香さんたちが教えてくれた。確かあの時は……。


「レオは自身の持つ魔力を倍増させる事ができたようです。」


「そう、問題はそこだ。12星座と謳われている悪魔が単に魔力を倍増させるだけとは少し疑問に思わないかね?それにこれまでに倒されなかった方が不思議で仕方がないんだよ。現にジェミニは、相手の魔法を触れただけでコピー、そして何倍もの威力にして返してみせたらしいじゃないか。」

確かにその通り。秋翔くんと夏音さんが戦っていたという悪魔。この能力は中々に厄介だと思う。


「しかし、晴明さん。悪魔の能力はまだ我々も情報が少ないですし、倍増が弱いわけでもありません。」

晴明は黙って頷いた。


「そうだね。だが、この解析結果を見てくれれば全てが分かるはずだ。こちらが1年前のレオの魔力、そしてこれがこの間のレオの魔力量だ。」

千、真純、そして私の手元に資料が渡された。


私たち3人はその資料を見て驚きを隠せなかった。これは、"倒せたのが当然だと思わざるを得ない結果"だった。


「………1年前のレオの魔力の半分もない!」

その時、会議室の扉が勢いよく開いた。


「何事かな?」

晴明は穏やかだな口調で言った。

「た、大変です!磨精学園に侵入者ありとの報告を受けました。」

その瞬間、その場にいた全員の表情が一変した。たった1人の男を除いて。


ーーーチーム192

「さて、これからどうしましょう?ノープランだったんですけど。」

春香は俺よりも後先考えないタイプなのか?


「春、あんな男みたいになってはダメよ。」

真冬は俺をちら見ながら春香に言った。

「どういう意味だ、真冬。」

少し自覚はあったがいざ目の前で言われるとムカつくな。


「せっかくみんなで集まったんだからどこか楽しい場所に行きたいよね。美希さんはどこかいいとこ知らない?」

詩織は少し考え後に思いつかなかったようで美希に聞いていた。


「そうですね……あ、そういえば最近イプシロンに出来た新しいカフェがあるって友達が言ってました。……けど。」と美希は心配そうに俺を見ながら言った。

まるで、「カフェなんてこの人は興味ないだろうなー。」とでも思ってるんだろうな。当たりだけど。


「あ、私も聞いたことあるかも。私もちょっと興味あったのよねー。」

真冬がそう言うと、春香はすかさず反応した。


「そこ、行きましょう!美希、連れてって!」


「う、うん。わ、分かった。」

美希ですら春香のこの勢いには流石に敵わないようだ。


「おい、シュウ。ちょっといいか?」

ふと頭の中に俺の精霊、イグニの声が聞こえてきた。バッグにつけている狐のストラップを見ると、少しだけ紅く光っていた。


「なんだよ、お前も俺を馬鹿にしに出てきたか?」

冗談混じりに言ったが、帰ってきた答えは別物だった。


「レオの魔力を一瞬感じたぞ。」


「おいっ⁉︎それ本当か!って……。」


「どうしたんですか?そんなに慌てて。」

春香はまた覗き込むように俺を見ていた。ほかのみんなも俺を心配そうに見ている。真冬は別として。


「い、いや……なんでもない。勘違いだったみたいだ。」

誤魔化してなんとかその場をしのいだ。


それからは、バレないように歩きながらではあるが、イグニの声に耳を傾けていた。


(今さっきほんの一瞬だったんだけどな。かなり武精祭の時と同じ匂いがしたんだよ。まぁ俺の勘違いの可能性もあるけどな。なんせイプシロンには大量の精霊がいるし、ちっこい悪魔もいないわけじゃない。雑魚だが。そいつらの魔力が偶然レオに似てただけかもしれない。)


(なるほどな。けど、なんか引っかかるな。春香と真冬がレオを倒したはずだろ?)

俺も実際倒した訳ではないがあの時、レオを見ていた。間違いなく姿はレオだった。


(あぁ、俺もレオだと思ってた。魔力の量も1年前と同等の力だ。けど、春香達の話を聞いて一つだけ最悪の答えがあった。)

イグニにしては頭が回ってる。こう言う時は本当にやばい時だ。


(最悪の答えってなんだよ?)


(春香達の話だと相手は魔力を倍増させる力を持ってたんだよな?)


(あぁ、そうだけど……ってまさか⁉︎)

そう言うことか、イグニの考えている可能性っやつは。


(1年前のレオ本体だったろうな。けど、今回のレオは能力、倍増の力を元々使っていて現れたレオの分身体、だった可能性がある。)

つまり、1年前に見たレオ本体の魔力を、倍増という能力でそっくりなまでに高めた悪魔を倒したってことか。


(そうだとすると、レオを見捨てたあの2体の悪魔の行動も頷ける。)

ジェミニとリブラか。


(まぁ、俺の仮説になっちまうが今回の悪魔との戦いは、悪魔達のいいようにされちまったってところかな。おそらく、レオの本当の能力は倍増と分身じゃないかと俺なら考える。レオは自分の分身がどれだけ精霊使いと戦えるのかを試したってところだろうな。ジェミニとリブラはレオがあたかも本物であるように見せかけ、その場から適度なタイミングで撤退する。こんな感じだろ。)


……ありえない。絶対に。


(お前がこんな仮説立てられるはずがないだろ。本当のこと言ったらどうだ?)


(私が口添えしたあげただけよ。)

やっぱりな。そうだろうと思ったぜ。イグニがこんなに頭回るはずねぇもんな。アクア。

バッグの中にはあの時以来、一冊の魔道書を常に入れている。仲間の大切なものだ。


(なんで言っちまうんだよ、アクア。せっかく俺様の名推理でシュウをギャフンと言わせたかったのに。)

(仕方ないじゃない。あんたじゃ伝えきれないところあるかもしれないから、そろそろ私の番かなーって思ったし。)

いや、あそこまでいくと流石にお前じゃ無理だって俺にもわかる。


(それで、2人とも。何で今までそのこと教えてくれなかったんだよ?もっと早く教えてくれれば良かったじゃねえか。)


(さっきイグニが言ってたでしょ。レオの魔力を感じたって。それでさっき言った仮説の可能性が高くなったのよ。1年間修行して強くなって、いくら不意を付けたとはいえ、雲雀学園長でも倒せなかった悪魔を簡単に倒せるかと思うと疑問だったのよ。)

確かに2人の言う通りだ。それに、本当にレオがまだ生きていて、何か企んでいたりしたら……。


「ちょっと、ねぇ秋翔。聞いてるの?」


「え?」あれ、ここどこだ?


イグニとアクアの話を聞いているうちに、いつの間にか目的地であるカフェに着いていたらしい。


「さっきからぼーっとして歩いて、たまに"なるほど"とか呟いて。何か隠してるんじゃない?」

真冬は俺を問いただそうとグイグイと寄ってきた。隠し事、まぁ確かにそういう事になるか。

「あ、いやー、別に何でもないけど?ただちょっと気になることがあったというかー。的な?」


「秋翔くん、本当に大丈夫?体調でも悪いの?」

詩織は心配そうにこちらを見ていた。詩織や美希たちをチームに加えて早々にこんな話は言いづらい。


(イグニ、アクア。この事は一応春香と真冬の精霊、アイとライムに話しておいてくれ。それからこの事はそいつら以外には話さないようにもしとけよ。確証はまだないんだから、余計な心配はさせたくねぇ。)

レオが生きてる……。春香たちには言い出しづらいな。


(りょーかーい。)イグニは頼りない返事。

(分かったわ。)やっぱりアクアは頼れるな。


「ほーら、またぼーっとしてる。」


「だ、大丈夫だって。それよりほら、中に入ろうぜ?」

さて、もうさっきの話は一旦忘れて楽しむか。


「いや、それがですね。」

春香が申し訳なさそうにこちらを見ていた。


「どうした?」

「休日みたいなんです。今日。定休日って張り紙がありましたので、今日は入れないです。」まじか。


「す、すみません!私がカフェに行きたいなんて言ったばっかりに!」美希が深々とと頭を下げた。こういうとこも流石に春香の友達なだけはあって似てるな。


「気にしない気にしない。どうせこの男、カフェでランチなんてチョー向いてないから。」


「あのなぁ、真冬。さっきから俺を馬鹿にしすぎじゃねぇか?お前だってカフェなんて行かなそうだろ。」


「今、なんて言った?私だってカフェぐらい行くわよ。それに、馬鹿にしてるんじゃないわよ。ぼーっとしてるのも、カフェに興味ないのも、……何か隠し事してるのも全部、事実でしょ?」

………このまま言われて黙ってられるか。そんな気持ちの方が勝ってしまった。


「お前にそこまで言われる筋合いはねぇよ。それにお前だってちょっと頭がいいくらいで調子に乗るなよな。」


「今の台詞は聞き捨てならないわね。どっちが上かまだ分かってない見たいね?」


「あの〜、秋翔くんも真冬さんも喧嘩はやめよ。ね?」

詩織がなだめに入るがもはや手遅れだった。今の俺は真冬しか見えていない。


「勝負だ!」

「勝負しましょ。」

真冬も勝つ自信があるらしく、勝ったも同然というような顔をしていた。


「しゅう先輩、真冬先輩。試合をするのでしたら、いい場所がありますよ。」


「春、試合って……先輩方、どう見ても喧嘩でしょ?」


「カフェの他にも最近面白いものが出来たらしいんです。ゲから始まってーで終わる場所にね。」

…………全員が一瞬で分かった。


(ゲームセンターだ、絶対。)

春香の顔は自身に満ち溢れていた。


15,〜磨精学園襲撃・後編〜

「休日の警備ほど暇な事はないよなー。」

1人の警備員は他の仲間にその気持ちを理解してほしいと言わんばかりのやる気のない声で言った。


「そう言うなよ。こっちまでだるくなってしまうだろう。」

平日なら、生徒とも話すことがあり楽しいといえば楽しいのだが、休日となるとそれもない。まぁ、こんな事を考えてる時点で職務怠慢なのだが。


ふと、学園の入り口の校門を見ると、1人の少女が入ってきた。紫色の髪、一目でこの学園の生徒でない事は理解できたが、他の学園から訪問してくる生徒もいないわけではないが、今回はなんの連絡も受けていない。


1人の警備員が話しかけた。


「ちょっと君、今日はどんな用事でここに来たんだい?来客の連絡が入ってないんだけど。」

すると少女は警備員に微笑んだ。

「あなたたちに用があってね〜。」


一瞬だった。少女に語りかけた警備員はその場に倒れると動かなくなった。少女の左腕には何かが巻き付いていて腕には短刀?のようなものが握られていた。


「て、敵襲!敵襲!」

その声とともに、他の警備員も武器を構える。

「お前はこの事を学園長に知らせろ。それから生徒の避難をっ⁉︎」


少女は素早い身のこなしで警備員の懐に入ると、短剣で躊躇する事なく突き刺した。


「はい。2人目〜。」

やばい、この女は……異常だ。急いで知らせないと。

学園内に取り付けてある非常警報ボタンを押す。すぐさま学園内にいる教師数人が校門付近へと集まって来た。


「な、なんだこれは⁉︎は、早く生徒たちを避難させるんだ!」


「あ〜、生徒には興味ないよ〜。目的は魔導書だから〜。早く私を止めないと、死人が出ちゃうかも?」

少女は不気味に笑った。


「トイ、そろそろ本番いくよ〜。毒刃(イズンゲ)。」

短剣は紫色のオーラを纏う。毒の魔法の1つ。少女は不敵に笑うとこちらの人数など関係なしと言わんばかりの攻撃を仕掛ける。


水纏(オーラップ)。」

火纏(フーラップ)。」

風纏(コルラップ)。」

3人はそれぞれの魔法を唱え、少女を囲んだ。3人は同じタイミングで走り出し、少女の逃げ場をなくした。

火炎閃(バーン)。」

海水閃(オーバーン)。」

風刃閃(コルドバーン)。」

3方向からの同時攻撃。少女は火炎閃を受け流し、海水閃をジャンプで躱す。

「そこだっ!」空中では避けられない。風刃閃が少女に直撃した。

「一体なんだったんだあいつは……。」


「あはっ!楽しい〜ね〜。でも、まだまだ足りない。」


「そんな馬鹿なっ⁉︎確かに直撃したはずだぞ!」


溶毒(イズーロ)。そんな刀じゃ私は切れないよ〜。」

少女に直撃したはずの刀は刃先からドロドロと溶けていた。

「そ、そんなバカな⁉︎」


毒尾拡散(イズーダレット)。」

少女は短剣を振ると、空間には無数の紫色の刃が浮いていた。この数……、避けきれない。


「さ〜て、いったい何人立ってられるかな〜?少しぐらい残ってもらわないとあいつら帰ってくるまで退屈だから、生きててよね?」

その言葉を最後にその場にいた全員は、意識を失った。


たった1人の少女を残して。

ーーーイヴと別行動中の2人。

イヴの陽動もあり、無事に学園に侵入する事ができた。ここはどうやら体育館の倉庫らしき部屋に入り込んだらしい。バスケットボールやら、バレボールの入った籠があった。

扉を少し開けると、生徒たちが慌てて体育館を後にしていくのが見える。

「今のところ、私たちのところへの敵の姿はなし。イヴ、うまくやってくれてるみたい。」


「みたいだな。さて、目的地は4階だ。目立たないようになるべく階段で行きたい。」

カイは慎重に言う。


「オッケー。でも、階段までどうやってバレずに移動するの?私の魔法に変装できるやつあるけど、すぐバレちゃうのよね。それ以外は適した魔法はないけど。」

他は、はちゃめちゃな威力のある技が大半。


「安心しろ、私がなんとかする。イコール、出番だ。姿隠無(ミストノート)。…………これで俺たちはこの学園の生徒のように見えている。」

カイを見ると、さっきと何も変わった感じは見てとれない。


「本当に大丈夫?カイはカイのままなんだけど。」


「それがこの魔法のデメリットでもある。この魔法の発動者と、魔法をかけたと知っている者にはこの魔法は効かない。だが、今この場にいるのは我々2人だけだ。」

なるほど、つまり他の人にはただの生徒に見えるだけってことね。便利な魔法。私も覚えたいなー。

そんな事を思いつつ、ゆっくりと扉を開けた。

「よし、誰もいないね。流石にを姿隠無を使ってるとはいえ、誰もいない体育倉庫から出てきたら怪しいからね。」

体育館と校舎を繋ぐ入り口までこっそりと移動し、そこからは、カイと話をしながら校舎へと移動した。


「君たち⁉︎そんなところで何してるんだね!早く逃げなさい!」

やばっ!よりによって生徒じゃなくて教師に見つかった。


「すみません。ちょっと忘れ物を取りに行っていて、何の騒ぎが把握出来てないのですが何かあったんですか?」カイは冷静に答えた。


「この学園の魔導書を狙った誰かが侵入しているらしい。さ、君達は私が外まで連れていくから、その後は家に真っ直ぐ帰りたまえ。いいね?」


「そうなんですね、そんな大変な事になっていたなんて……。困りましたね。今外に出ると全く意味がないんですよ。」


「なにいって……。」

カイの腕は鳩尾の部分を的確に殴っていた。その場に倒れこんだ教師を壁にもたれかけさせた。


「さて、4階へ行くとしよう。」


「た、頼りになります。」

私は目を丸くしてカイを見た。流石カイ。私がいない間に知らない魔法やこんな技術を身につけていたなんて。イヴもきっとそうなんだろうなー。死なないでよ。


それからは何事もなく、4階に辿り着いた。

4階はホールになっているが、その真ん中にはガラスケースに覆われている本が堂々と置いてあった。


「こんなに無防備に置いてあるなんて……盗れって言ってるようなものじゃない。」


「ここは平日は普通にこの学園の3年生が使っているらしい、さらに休日は警備員が警備しているため、かなりの厳重警戒らしいぞ。普通ならな。」

今は、たった1人の少女の強さに、この学園の全警備がそちらに向かって行ったため、ここには誰もいないってことか。


「イヴ、相当暴れてる見たいね。流石囮役にぴったり。」


「さて、あとはこのガラスケースだが、開けたら確実にブザーが鳴ることは考えられる。さらに、この部屋の前後左右対象にある4つの柱にそれぞれ妙な溝がある。あの形からして、赤外線レーザーと言うよりは……。」


「反魔法散布口ね。盗んだら最後、魔法を使えずに捕らえられちゃうって感じかな。あー怖い怖い。」

簡単すぎるトラップね。


カイは前後、私が左右の柱の溝をそれぞれ破壊した。


「見渡す限りトラップはこんな感じ見たいね。案外楽勝じゃない。」


「夏音、それは大抵フラグと呼ばれるものだったりするから気をつけろ。」


パチパチパチパチ。どこからか拍手の音が聞こえる。もちろん、カイでも私でもない。


「すごいすごい。流石にあのトラップに気づくとは思ってなかったなー。流石は味方1人を陽動に使い、魔法でこの学園の生徒に化けて侵入した鼠なだけはあるよ。」


「誰、あなた?」

さっきまでは確かにそこに人はいなかった。

けれど、その男は窓枠に腰掛けていた。そこにいたのは黒のシルクハットに黒のタキシード姿の男だった。


「誰だと思いますか?葉月…夏音さん。」

私のことを知ってる?


「どこかで見たことがありますね、あなたは。」カイの額からは汗が滲んでいたように見えた。


「おやおや、やはりあまり知名度は高くないようだ……。」


ーーー4学園会議室

「千、あなたはなぜ笑っていられるの?自分の学園が狙われているというのに。それに、侵入者の目的は恐らく……。」

私が全て言い切る前に千は答えた。


「魔導書……。でしょう?そんな事分かりきってますよ。当然敵は私が留守の時を1番の好機と捉えるのは必然。その準備くらいするのも……学園長としての務めですよ。」

千は魔導書の心配を一切していなかった。


「そうか……"彼"だね。」晴明はさっきまでと同じような表情で言った。


「はい。私の1番信頼できる方に警備を務めてもらっています。」

一体誰なの?


ーーー磨精学園・夏音&カイ

妙な空気が辺りに充満する。カイの握る矛に力が入っているのが分かる。


「あなたは一体誰?どうして私のことを知ってるの?私はあなたを知らない……。」

いや、カイと同じだ。どこかで見たことがある。どこで?


「まぁ、直接会ったこともないし、千から聞いただけだが、無限の魔力は実に興味深い。」


「質問に答えなさい!あなたは一体?」

シルクハットを手に取り、その中に手を入れた。そこから出てきたのはステッキ、杖だった。


「そうだね。勿体ぶるのはもうやめにしよう。」男はにっこりと笑った。


「世界精霊使い第4位、ジャック=ノワール。以後、お見知り置きを。」

改めまして作者の伊藤睡蓮です。


今回初登場、世界精霊使い第4位のジャック・ノワールさん。夏音たちはどうなってしまうのか、書きたかったんですが、次回に持ち越してしまいました(〃・д・) -д-))ペコリン


次回の投稿もなるべく早めに投稿したいな……


ということで次回もお楽しみに!

twitterでも告知をしたりしていますので、是非チェックしてみてください


それでは!

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