精霊剣士の物語〜Sauvenile〜其の漆
どうも作者の伊藤睡蓮です。
今回は前回お待たせしてしまった分、早めの投稿とさせていただきました。次回からはまた一ヶ月後あたりに投稿すると思います。
それではどうぞ!
12,〜潜む闇〜
「西のベータ都市、磨精学園を襲撃し、そこに保管されてある魔導書の略奪だ。」
白衣を着た老人、レイクはそう言った。
「魔導書……ですか。しかし、磨精学園には精霊使い第7位の霧崎 千という学園長がいるはずです。夏音の魔力を温存するためにもあまり戦闘は避けたいところです。」眼鏡をかけた男は少し戸惑いながら言った。
「カイ〜、大丈夫よ〜。私、一度でもそんな強いやつと戦ってみたかったから〜。私がそいつと楽しんでる間に魔導書奪っちゃえばいいじゃな〜い。」と隣のテーブルに座っている女は、足をバタつかせながら楽しそうに言った。
「イヴ、あなた1人では勝てないわ。レイク、この任務は私たちだけだと少し難しいと思うんだけど。」
それに、学園長だけじゃない。磨精学園の先生もいるし、警備員だっている。私の持ってる魔力を全部使えば勝てなくはないと思うけど。
「安心したまえ、霧崎 千がベータ都市にいない日を狙えばいいだけだ。」
「Dr.レイク、一体どういうことですか?まるで霧崎 千がいつベータ都市から離れるのか分かっているような……。」
レイクはゆっくりと頷いた。
「分かっている、3日後だ。」
「どうしてあなたがそんな事を知っているの?」
「我々の“協力者”からの情報だ。アルファ都市で四学園会議があるようだ。」
協力者?私たちの仲間と言わずに、レイクは今協力者と言った。味方なの?
気にしすぎかな。
「え〜、強いやついないのか〜。ねえレイク〜。私行かなくてもいい〜?」
イヴは学園長がいないと知った瞬間にふてくされた。
「まぁそんな事を言うな。第7位はいないが魔導書を警備している奴らはみなそこそこの力を持っている。」
「そこそこか〜。まぁ暇つぶしにはなるから今回はやってあげるわよ〜。夏音に苦労ばっかりかけさせらんないもんね〜。」
イヴはこちらを見て微笑んだ。
「夏音、ある程度作戦を考えておこう。念のために、身体検査もしておくといい。」
その言葉を聞き、頭の中に1人の幼馴染の男の子の顔が浮かんだ。
私の前に現れないでね、しゅう。
「ありがと、カイ。そうするわ。」
ここは、私が私でいられる場所だから。
ーーー「しゅう先輩、早く降りてください。着きましたよ。」
「やっぱり秋翔は置いてくるべきだったわね。」
眠い。ゆっくりと立ち上がり、電車を降りた。
なんで俺、電車になんて乗ってたんだっけ?頭がぼーっとする中、だんだんと昨日のことを思い出してきた。
・・・「またみんなでイプシロンに?」
「はい。新学期も始まったことですし、ダメですかね?」春香はいつも通りの明るい笑顔を見せながらそう言った。
「また急にどうしたんだよ、春香。」春香たちが俺の家に泊まって2日が経っていた。
今日は金曜日で明日は学園も休みで暇といえば暇だったが……。
「どうしてもみなさんと行きたい場所があるんです。」
「どこに行くの?春。」
風呂上がりで肩にタオルをかけたままの真冬は春香を見た。
「えーっとですね、どんな願いも叶う神社があるって今噂になってるところがあるんですよ。そこにみんなで行ってお祈りしたいなーと。」
なるほどな。大方、夏音を思ってのことだろうとすぐに分かった。
「まぁ特に予定もないし、いいんじゃねぇか?真冬ももちろん行くだろ?」
真冬は俺をじっと見つめ、暫くして呆れた表情になる。
「秋翔、その神社結構有名よ。“お祈りすると願い事が叶う"って。」
「へぇー、そうなのか。そりゃ行かないと損だな。……あ、そういや課題出てたんだった。真冬、手伝ってくれねぇか?」
「断るわ。私はもう終わらせてるし、春に勉強教える約束してるから。1人でやりなさい。春、食器洗ったら私の部屋に行くわよ。」
私はもう終わらせてるって、言わなくてもよかっただろ。ってか昨日出た課題のはずだが……。
真冬はスタスタと2階へ上がって行った。
「真冬先輩、すぐ行きます。」そう言いつつも心配そうな目でこちらを見てきた。
「気にすんな。元々溜め込んでた俺が悪いんだし。勉強頑張れよ。」
「はい……。しゅう先輩も頑張ってください!」
・・・それで寝るのが遅くなって、自力で起きたはいいがあまりの眠さに今までどうやって自分がここに来たのかさえ覚えていない。もっと早く寝てればよかった。
「しゅう先輩、無理しないで下さいね。私の魔法で眠気を覚ます魔法使えますから必要な時は言ってください。」
「おう……わかった。」
「それにしても寒いわね。」
そう言って真冬はコートのポケットに手を入れた。
「そうですね。」春香も手に息を吹きかけて温めていた。
……………ん?
「春香、お前いまなんて言った?」
「そうですね、です。」
「その前だ。」
「眠気を覚ます魔法使えますから必要な時は言ってください。ですか?」
「……………必要だ。」
「はい、分かりました。涼風の音。」春香は口に手をあて、口笛を吹いた。
すると、俺の体は風に纏われ、瞬く間に身体が楽になった。
「す、すげぇ。ってかいつの間にそんな魔法を?」
「この魔法は忠精学園の学園長、雲雀学園長が教えてくれたんです。」
雲雀真純学園長。精霊使い第5位の実力を持ち、ほぼ全ての属性の魔法を操る忠精学園の学園長だ。
それってつまり始業式の時から使えたってことか。まぁいいか。
「着きましたね。イプシロン。えーっと……。」
………それよりも気になること。さっきから春香はなにかを気にしてるような気がするな。誰かを探してるような、そんな感じがする。
「秋翔くん。おはよう。」
急に後ろから声をかけられた。振り向くとそこには、戸惑いながらも手を振る女子と、少し緊張気味にこちらを見ている女子が立っていた。
「詩織⁉︎それに今井さん⁉︎どうしてここに?」
「春香ちゃんに呼ばれて待ってたのよ。」
詩織はそう言ってニコリと微笑んだ。
ーーーやっぱりスーツは私に合ってない。動きにくいったら仕方ない。それに、外が意外と寒い。歩きながら口から白い息が出ているのがわかった。何か羽織るものでも持ってくればよかったかな。マフラーだけじゃ耐えらんない。
寒さを考えないように、話をすることにした。
「吹雪学園長、今回の4学園会議の内容ってなんなんです?」
吹雪学園長の横にぴったりとついて並んで歩きながら、なんとなくそんな言葉を口にした。
「あまりそういう事は聞かない方がいいわよ、零架さん。他の誰かが聞いてるかもしれない。」
普通に考えればそうだった。寒さのせいで思考回路まで凍ってるのかしら、私。
「すみません、少し気になってしまったものですから。」
そういうと学園長はクスクスと笑った。
「いいわよ。それに今回は別に隠す事じゃないから。それにあなたには4学園会議中の警備を任せてるしそのお礼という事で教えてあげる。」
そう言い終わると1つのビルの前に立ち止まった。
自動ドアが開くとエントランスホールが見え、そこを左に曲がり、エレベーターのところまで歩き、ボタンを押した。
「今回はそれぞれの学園の近況報告とこの間の悪魔との戦いについての話し合いよ。あなたにはそれまで会議室の外で待ってもらう形になるけど、お願いね。」
「はい。誰も近づけさせません。」
エレベーターの扉が開き中に入ると、1人の女性が入ってきた。
「吹雪、元気そうね。」
聞き馴染みのある声だった。
「真純、あなたも元気そうで何よりだわ。」
お互い顔を見合わせ、微笑んだ。
雲雀学園長は今度はこちらを見た。
「あら?あなたは確か武精学園の生徒会長さんだった神崎さん、だったかしら?」
「はい、今は武精学園の教師をしています。」
雲雀学園長に一礼する。
「そうなの。あ、そうだ。春香さんの体調はどう?爆速を使ったようだけど……。」
「問題ないわよ。20%しか使ってないみたいだし、本人も加減は分かってるみたいだから。まぁ今の所は、だけどね。」
春香ちゃん、私が知らないうちにどんどん強くなってるわね。
ほかのみんなも頑張ってるし、私も頑張らないと。
「学園長、着きました。私は予定通りこの部屋の前で警備しています。」
「零架さん、ありがとう。よろしく頼むわね。雲雀、あなたは誰も呼んでないのね。」
「いるのよ、ここに。」
と雲雀学園長は自分の背中に向けて指をさした。
すると、雲雀学園長の後ろからゆっくりと1人の少女が姿を現した。黒くて長い髪を後ろで結び、どこか落ち着いた顔つきの少女は忠精学園の制服を着ていた。
「いつからそこに……、全然気付きませんでした。」
「この子の名前はは四ノ宮 花蓮、私の学園の2年生。人見知りだからあまり顔を出さないのよ。」
花蓮さんはペコリとお辞儀をすると雲雀学園長の後ろに隠れた。
「あなたは会議室に入れないから、零架さんとここの前で警備をお願い。」
雲雀学園長はそう言うと、吹雪学園長と目を合わせて頷き、会議室の扉を開いた。
会議室の中に入っていく2人の姿を見て花蓮ちゃんは扉の前に立った。
花蓮ちゃんはいったいどんな魔法を使うんだろう?
13,〜新メンバー⁉︎〜
ーーー「春香……どういうことだ?」
隣でにこりと笑う春香を見た。
「みんなで行った方が楽しいじゃないですか。なので待ち合わせしてました。」
「お、おはよう、春香ちゃん、秋翔くん、それに真冬さんも。」
「その……おはようございます。秋翔先輩、真冬先輩。」
「お、おぅ。おはよう2人とも。」
「おはよう。」真冬は分かっていたような口ぶりで挨拶を返した。
もしかして知らなかったのって俺だけ?
「なんで俺には何も伝えられてないんだよ?」
「サプライズです。ただそれだけです。」
……なるほど。そういうことにしておこう。
まぁ確かにみんなで行くことには悪いとは思ってないが……、詩織とは俺が特訓を始めた辺りから席替えで席が離れてしまったり、詩織が夏音の事についての本当のことを知らない、詩織を巻き込みたくないという思いから距離を置いてしまっていた。そんな行動をとっていたせいか詩織も俺とは距離を置くようになっていた。
ちょっとだけ気まずいんだよな〜。
「みなさん揃ったところで、お参りに早速行きましょー。」
春香はそう言って歩き出した。
詩織や今井さんも春香に続いて歩き出した。
「しゅうと、あなた詩織さんと何かあったでしょ?私には友達になろうとか言っておいて、自分から友達をなくすようなことしないでよね。チョー不愉快なんだけど。」
「お、おう。すまん。」
真冬の言葉が胸に刺さった。全くその通り過ぎて言い返すことすらできなかった。
ドッッ‼︎
真冬は俺の背中に蹴りを入れた。
「いてえっっ‼︎」
「あなたらしくない反応に腹が立った。……大丈夫よ。ちゃんと話せば分かってくれる人だってこと、この中であなたが1番知ってるじゃない。」
同じクラスだし、あいつの母親を助けたことだってある。確かにそれも全くその通り。真冬はちゃんと俺の事を知ってくれている。
俺も……しっかりしないと………。
それから暫く歩いて、目的地に着くまで結局詩織と話すことはなかった。
「ちょっと、しゅうと。あんたさっき詩織さんに話す決心したような顔しといて、何で一言も話してないのよ。」
「お、おれだって話しかけようと頑張ってたよ⁉︎けど、なんか、どう話しかけたらいいかわかんないんだよ。」
「それ、私に相談すること?アドバイスできないんですけど。ちょっと前までぼっちだった私には。」
俺は顔の前に手を合わせて頼んだ。
「まじで頼む。春香に聞こうとしても結果的にあいつの近くにずっと詩織と今井さんがいるんだぞ?聞けねぇよ。」
「しゅう先輩、真冬先輩。何やってるんですか、早くお参りしましょーよー。」
春香が俺と真冬の間に入ってきた。詩織や今井さんも近づいてきた。
「どうしたんですか、しゅう先輩?真冬先輩に手なんか合わせて。」
言われて気づき、とっさに手を後ろに回したが遅かったようだ。
「いや〜、これは……」
詩織と話すためのコツを聞こうとしてたなんて、詩織の近くで言えるわけがない。すると真冬が、
「しゅうとが財布に小銭が入ってないから賽銭する小銭を頂戴とねだってきたのよ。」と言った。
ナイスフォロー真冬。小さく手でグーサインを出すと真冬は呆れたような顔をした。
「なるほど、そうだったんですか。でもそれなら心配いりませんよ。ここの神社にあるのはお金が必要ない、自分自身の意思を固くするためにあるのですから。鈴を鳴らしたら自分がやりたいことを思い浮かべるんです。」
そういうことか。でもそれなら決意はとっくに出来てるけど……。
「それじゃあ、しゅう先輩、鳴らしてください。」
「お、俺が鳴らすのか?」
「はい。ぜひお願いします。"私たち"チーム192のリーダーなんですから。」
今井さんと詩織は違うはずだが……、まぁいいか。
ゆっくりと鈴を動かした。お世辞にもあまり綺麗とはいえないような音だった。でも……どこか、心温まる音だった。
みんなと一緒にまた、ここに来てみたいな。
「みなさん、お願いちゃんと思い浮かべられましたか?」
「うん、その様子だと春も出来たみたいね。」今井さんはそう言った。
「私も大丈夫よ。」
「わ、私も大丈夫……だと思う。」
「俺も……あ、」
「どうしたんですか?……しゅう先輩?」
いや、間違ってはいないと思う。今のが俺の本心なんだと思った。
「俺も大丈夫だ。」
またみんなでここに来る。絶対に。
「みんな大丈夫そうですね。それでは私は……お守り買ってきまーす。行きましょう、"真冬先輩"、"美希"も。しゅう先輩と詩織先輩、お願いがあるのですが、あそこの展望台のところで、写真を撮ってきてくれませんか?それじゃあお願いしますねー。」
「お、おい⁉︎なんだよそれー!」
2人を連れて春香は走って売店のある方へと行ってしまった。まったく……。
まったくもって気まずい。
とりあえず流れで展望台には着いたものの、やっぱり何を話したらいいか分からなかった。
「景色、とっても綺麗。」詩織が独り言のように言った。けれどどこか寂しそうな感じでもあった。もしかしたら詩織も俺と同じように……。
「そうだな、春香たちも一緒に見たら良かったのに。まるで俺たちを2人きりにさせ……よう……と。」
そういうことか春香のやつ。なぜか急に照れくさくなって顔が赤くなった。詩織の顔を見てみると、詩織も同様に顔を赤らめていた、そして暫くすると、詩織は笑い出した。
「あははっ。秋翔くんったら、せっかく2人きりにさせられたこと黙っていたのに口に出しちゃうなんて。それに言った本人まで顔赤くしちゃってるし。」
「顔が赤いのはお前も一緒だろ。……ったく。はははっ。」
おかしくなって2人で笑ってしまった。
「………私ね、ずっと秋翔くんと話がしたかったんだ。」
やっぱり詩織も同じだった。
「私、何か秋翔くんに悪いことしたのかなとか、色々考えちゃってたんだ。でも分からなくて……春香ちゃんに聞いてみても上手い感じに誤魔化されちゃって……。」
春香に聞いてたのか。だから春香の側にいたんだな。
「違うんだ、詩織。これは全部俺が悪いんだ。俺がちゃんとお前に伝えられていたら良かったことなんだ。すまん。」
頭を下げると詩織は動揺してしまった。
「な、なんで頭を下げるの⁈周りの人も見てるし……は、恥ずかしいからやめて。」
顔を上げると俺は一言だけ口にした。
「夏音、今どうしてると思う?」
「えっ?もしかして夏音さんが関係してることなの?」
俺は黙って頷いた。
「体調が悪いんだって1年前に聞いてたけど、流石に長過ぎるなーって思ってた。クラスのみんなも、他のクラスの子に聞いても知らないって言うし。夏音ちゃん、今どこにいるの?」
真剣な眼差しで俺を見ていた。
そうなるよな、他のクラスは3年1組くらいしか知らないし、他言するなとも言われている。
「………夏音は、………今は俺たちの敵側になってる。」
「え?どういうこと?敵側ってなに?」
「1度だけ戦った。完敗だったけどな。」
詩織は信じられないと言った表情で俺をみていた。
「どうして?」
「きっかけは1年前、武精祭の数日後、チーム192で忠精都市に俺の壊れた刀を作り直してもらおうと雲雀学園長お墨付きの鍛冶屋に行った帰りだった。夏音が誰かに呼ばれた気がしたらしくて、1人でどこかに行っちまったんだ。見つけた時、夏音は橋の下で倒れてて、保険の小林先生に診てもらったんだけど、その時は特に異常がないって言われたんだ。確かにその時はまだ俺たちの知っている夏音だったし。俺もそこまで気にしてなかった。」
詩織は黙って俺の話を聞いてくれていた。
「けど、そこに奴らが現れた。」
「奴ら?」
「あぁ、Dr.レイク、それに荒井龍馬。」
「荒井龍馬って……荒井先生のこと?あの人確か急に家の事情でこの辺にはいられなくなって別のところで働くことになったって学園長が言ってたよ?」
俺は頷いた。
「あの人が実は敵だって知っても、誰も信じないだろうし、俺たちのように目撃してた人や、一部の人だけにしか伝えられていなかったんだ。騒ぎを避けるために。」
それから俺はこれまで遭ったことの全てを伝えた。俺たちが修行をしていた理由や、悪魔のこと、今年の夏、7月に夏音が時渡りの儀式を発動させて過去を変えようとしていること、その全てを。
「そうだったんだ。私そんなことが起きてるなんて全然知らなかった。悪魔のことは少しだけ噂にはなってたけど、まさかしゅうとくん達が戦っていたなんて。それに夏音さんも……。」
ひどく落ち込んでいるようだった。
それはそうだ。夏音が敵になって、もしかしたら戦うことになってしまう、いや確実に戦うことになるなんて思ってもいなかっただろう。
「ほんとうならもっと早く話すべきだった。すまん」
詩織はゆっくりと首を振った。
「違うよ、私はお礼が言いたいくらいだから。本当のことを教えてくれてありがとね。確かに夏音さんが敵ってことはびっくりしたけど、そんな危ないところに夏音さんがいて、秋翔くんは助けようとして一生懸命頑張ってたんでしょ?だったら、近くにいて気づけなかった私の責任でもあるから。私も夏音さんを助ける。」
詩織は少しだけ笑みを浮かべてこちらを見た。
「春香ちゃんが私を“誘った"理由がようやく分かった気がする。」
すると、詩織は携帯を取り出し、どこかに電話をかけた。
「もしもし?私だけど。……うん。ごめんね。………ありがとう。これからもよろしくね。」
そう言って電話を切った。
「誰に電話してたんだ?」
「あ、……じ、実はね……」
「あ、いました!真冬先輩、美希。こっちです。」
その声に遮られ、詩織の答えを聞きそびれてしまった。
春香たちが来たらしい。
「春香、お守りは買えたか?」
「はい、ばっちりです。」
春香はビシッと決めポーズをしてお守りを見せた。
「何のお守りを買ったんだ?」
春香の身体が一瞬固まり、顔を少し赤くしていた。
「ひ、秘密です。そ、そうでした。お二人の分も買ってきましたよ。どうぞ。」
両方の手にお守りがあった。真冬は俺に近づいてきて耳元で呟いた。
「中身は開けない方が叶うらしいから開けない方がいいわね。春、すごく真剣に悩んで買ってたから大切にしなさいよ。」
「お、おう。分かった。」何のお守りなんだよこれ。まぁ大切にするのは変わりないけど……気になるだろ。
「ありがとね、春香ちゃん、大切にするね。」
詩織はにこりと笑った。
「それと春香ちゃん、私決めたよ。」
詩織の顔はさっきの笑顔とは変わって、真剣な表情だった。
「え、もしかして……。」春香は多少驚いてはいたが、少し嬉しそうでもあった。
詩織は頷き、また笑顔を見せた。
さっき俺に詩織が何か言いかけていたことと関係があるのか?
「2人ともさっきから何の話をしているの?」真冬も知らなかったのか。ということは詩織と春香だけしか分からないのか。
「実はですね、昨日の放課後に生徒会長から1チーム5人まで組むことができるようになったと聞きまして……。」
「あぁ、そういえばそうだった。チームとしての連携を高めるためだとかなんとか。前のチームはそのまま残してもいいし、新しく加えてもよし。抜ける時にはメンバーの許可が必要、だった気がする。」
「あら、しゅうとのくせにちゃんと覚えてるみたいね。この調子で勉強にも活かしてもらいたいわね。」
真冬はこちらをチラッと見てまた視線を外した。
今度のテストでは真冬が驚くような点を取ってやると心の底で誓った。
「……まてよ?5人?」
「はい。というわけで紹介します。新しくチーム192に加わっていただくことになりました。上林詩織先輩です!そして、夏音さんが戻ってくるまで、美希にも加わってもらうことになりました。」
「しゅ、しゅうとくん、真冬さん。改めてよろしくお願いします。」
「よ、よろしくお願いします。先輩方!」
詩織と今井さんはぺこりと頭を下げた。
そういうことだったのか。今日この2人が呼ばれていた理由がようやく分かった。ただのサプライズか……確かに驚いたな。
「さっきの電話は元いたチームから脱退するための電話だったのか。けど、いいのか?俺たちがこれから戦う相手は……。」
「悪魔……ですよね。」
今井さんが口を開いた。
「春から聞きました。本当は私を巻き込みたくないとも言っていました。けど、これ以上見ているだけは嫌なんです。1年前の武精祭の時、私実はあの会場で逃げ遅れて観客席の辺りで倒れていて、気付いた時には悪魔と先輩たちが戦っているのが見えて……怖くて助けに行くことすら出来ませんでした。この間の屋上の時もそうです。ただ見ているだけ。春がボロボロになりながら一生懸命頑張っている姿を見てるだけ。でも、もう春やみなさんが傷つく姿を見ているだけは嫌なんです。だから、私も戦いたいです。」
そんな思いが、考えがあっただなんて知らなかった。今井さんも苦しかったんだろうな。目からは涙が溢れていた。
「精霊もまだいないですけど、みなさんの大切な方を助けるお手伝いを私にさせてください!」
「やめておいた方がいいわよ。詩織さん、あなたも。」
真冬は真剣な眼差しで2人を見ていた。
「悪魔の力がどれくらいか、美希さんは見ていたなら尚更、分かるでしょう?この間だって、私と春が偶然悪魔を一体倒せただけなんだら。あなたたちでは力不足よ。」冷たく2人に言い放った。おそらく、2人を心配しての言葉だ。これ以上巻き込まないようにしている。
「これでもまだ力不足?チーさん!」
詩織の魔力が一気に高まる。詩織の肩に何かが乗っている?だが、髪に隠れてよく見えない。しっかりと捉える前に消えてしまった。
「詩織……精霊と契約できたのか⁉︎」
詩織は頷いた。
「うん、少し前にね。恥ずかしがりやであんまり出てこないけど。ようやくこの子の魔法の使い方が分かってきたところだけど、まだまだこんなものじゃないよ。」
詩織は得意げにそう言った。
「なるほどね、確かに魔力の高さはなかなかだと思うわ。ごめんなさい、あなたの力が知りたかったとは言え、挑発地味たことをして。」
「そんなことないよ。私たちのために言ってくれたんでしょ。ちょっと怖かったけどね。」
詩織は笑ってそう言った。
「今井さんもごめんね。」真冬は頭を下げた。
「え……?どうして謝るんですか。私に関しては魔力がないのは事実です。」
答えは一つ。詩織が精霊を出す前、美希の目を見ていたから真冬も分かってるだろうな。
「あなたの決意は本物だったから。それだけ。これから少しでも強くなればいいから。春もそんな感じだったし。」
真冬は笑ってそう答えた。
「ありがとうございます。夏音先輩が戻ってくる間までですが、みなさんよろしくお願いします。それと、これからは美希って呼んでください。今井さんのままだとなんだか距離感があって……。」
「おう、分かった。よろしくな美希。」
この時は、まだ俺たちがこれから起こる悲劇を知る由もなかった。
改めまして、作者の伊藤睡蓮です。
今回は、チーム192に新メンバーを加えよう!な回でした。詩織&美希がどんな武器&魔法を使うのかはまた後ほど……。お楽しみに!
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それでは!




