精霊剣士の物語〜Sauvenile〜其の肆
今回2本目の投稿です。前書きは前回の(其の参)をご覧下さい。
それではどうぞ!
6,〜激闘・前編〜
ここが赤城さんから聞き出したガンマ都市の廃墟。3階建てだ。
「ここの地下に、悪魔が……。」
胸が高鳴り、自分でも抑えられなくなった。
「しゅうを傷つける奴は全員皆殺し。」
『君が言う秋翔くんの本当の笑顔は、もう何度も君は見てるんじゃないのか?』ふと頭にさっき赤城さんき言われた言葉が浮かんできた。
思い出さなくてもいいことをなんで……。
「本当の笑顔を見てる?そんなことない。しゅうは今も苦しんでる。」
「おやおや、来客かな?」
上の方から声がした。どうやら今の言葉を聞かれたらしい。
「苦しんでいる、か。とてもいい言葉だね。」急いで見上げると、3階建ての屋根の上に誰か立っていた。
「ってお前は1年前にボコった奴の仲間じゃねぇか。」
その口調には聞き覚えがあった。
「あなたは、レオ。だったかしら?よかった。私が1番会いたかった悪魔。」
「何言ってんだお前?」
「レオ、お喋りはほどほどに早く追い払わないと彼女が起きちゃう。」
レオの隣にもう1人、いや一匹でてきた。
「あなたはリブラね。彼女ってことはもう一匹いるのね。これで合計三匹の悪魔を倒せるって事ね。」
その言葉を言いきるとレオはこちらに向かって飛んできた。
「このアマ、ふざけんじゃねぇぞ。炎魔。」黒い炎が私を狙って放たれる。
「雷神の槍。」天空から突如として巨大な落雷が周りに落ちた。炎魔をあっさりと掻き消すと今度はレオを狙って放つ。
「こいつ……⁉︎」
「油断しちゃだめだよレオ。こいつ他の精霊使いとは何か違う。重力崩。」レオに当たるはずだった雷は急に曲がり私の方へ向かってきた。
「重力操作系の魔法ね。風神の剣。」風で形づくられた剣が雷を防ぐ。
「風神の矢、雷神の矢。」私の後方に無数の魔法陣が描かれ、風わ纏う矢がいくつも放たれる。
また、上空からは雷の矢が容赦なく降り注ぐ。
「おいおい、全部消すのはめんどくせぇ。リブラ、前のやつは頼んだ。後は俺がやる。」
「分かった。」
「炎魔獅子。」レオは上空に手をかざした。すると、そこから黒い獅子が姿を現し、上空を駆け巡り全ての雷神の矢を喰らった。
「空間曲。」空間が捻じ曲がり、風の矢はそれぞれが打ち消しあうように方向を変えられた。
「残念でした。君の攻撃は僕たちには届かない。」
「それはどうかしら?」
ドドドドッ!!
突如廃墟が崩れ落ち、リブラとレオは慌ててバンラスを保とうとする。その瞬間を逃さない。
「純水槍Ⅱ(シンオーランツェ)。」
純度を増した水の槍がレオとリブラに直撃した。
「ぐあっ⁉︎」
「くっ……バカな。」2人は地面に落ちてうつ伏せに倒れた。
「なぜ急に建物が崩れた?運が悪りぃ。」レオがそう言うとリブラは否定した。
「………違うね。君が故意に壊したんだろ?」
リブラは苦しそうな顔をしながら私を見た。
「えぇ、そうよ。地下があるっていうからそれごと天神の槍で貫いてあげただけよ。」
「くそっ……そういうことか……。」
レオの身体が透けてきた。リブラも同様に。
「これで二匹、あと一匹はどこかしら?」
(残念〜、レオもリブラもぴんぴんしてるわよ。)頭の中に誰かの声が響いた。
「誰?……もしかしてあなたがジェミニ?」
声の主に問いかける。
「よく分かったわね。そう、私がジェミニよ。ちなみに今あなたが戦っていたのは私の能力で作り上げたレオとリブラ。本物はここにいるわよ。」
空、上空に浮かぶ3つの人影があった。
レオとリブラ、そして見たことのない長髪で金髪の女がそこにいた。
あいつがジェミニ。
「私が造った偽物で楽しめたかしら?」
「いいえ、まだ足りないわね。」
「うふふ。そういうと思った。私が相手になりましょう。安心しなさい、本物よ。」
私に勝てるとでも思っているの?
「風神の剣。」風を纏う剣をジェミニの上空に落とす。
レオとリブラはニヤニヤと笑いながらそれを見ていた。
「うふふ、いい技ね。もーらった♪」風神の剣にジェミニは怯むことなく触れた。その瞬間、風神の剣は跡形もなく消えた。
違う、奪われた。どういうこと?そんな魔法聞いたことない。
「今度は私の番ね。風神の剣Ⅴ。」
間違いなく風神の剣。それも私のよりも威力が桁違い。
「風神壁Ⅹ。」咄嗟に自分の周囲に防御魔法を張り巡らせた。
風神の剣がぶつかり、周りは暴風が吹き荒れ、雲の流れも早くなり、天候すら変えてしまうほどだった。
なんとか防げた。けど、次に同じ技を使われたら負ける。けど攻撃魔法を使えば触れられただけで消され、ジェミニのものになる。あれは魔法じゃなくて悪魔が持つ能力?
「色々と考えてるみたいね。多分あなたが考えてる通りよ。私たち悪魔には魔法とは違う特殊な能力があるわ。そうね、あなたたちの知るアクアリエス、彼女にも攻撃魔法は効かないわよ。私は手で触れた攻撃魔法を私のものとして使うことができる。そしてこれは圧倒的戦力差からのお情け。コピーした魔法はもう1度触れない限り使えないわ。」
つまり、触れた魔法を使えるのは1度きり。それでも十分恐ろしい能力。それに、レオやリブラに関してはその能力すら使ってない。
「あなたの負けよ。」
違う、私は負けてない。
「雷神の槍!雷神の矢!風神の矢!」ジェミニのいる場所の全方位を囲む魔法陣を張り巡らせた。
「これならあなたは躱せないし、コピーするのも両手で最大2つのみ。どれか1つの魔法は必ずあなたに当たる。」
「考えが雑になってるわね。別に能力だけで戦うなんて言ってないわよ。双光爆。」全ての矢を光が包み、爆発した。
「はい、これは返してあげる。雷神の槍。」
そんな……、魔力の量は確かに私の方が高いはずなのに。
「精霊がいればもう少し楽しめたのだけど、残念ね。」
精霊、私にはもう……。今はいない、私と契約をした精霊が頭の中に浮かんだ。
悪魔一匹にすら勝てなかった。雷が私を目掛けて空から降り注ぐ。魔力の差ではなく、経験と戦略の違い。ただそれだけ。
「させるかーっ!炎狐の尻尾v!」
紅く、そしてどこか優しい炎は私を狙う雷を相殺して消えた。
「いやー、飾さんから作ってもらった刀、すげーしっくりくるなイグニ。」
「おう!まじ絶好調だぜ。」
………しゅう。
ーーーなんとか間に合ってよかった。さっきから雨になるや急に晴れるやでめちゃくちゃだった。原因の状況を見ればなんとなくわかった。
「夏音、悪魔を倒すんじゃなかったのか?もうへばって諦めてわけじゃねぇだろうな?」
正直、俺1人じゃ絶対勝てない。レオとリブラ、それに知らない悪魔は俺を見ても表情を何一つ変えなかった。
「しゅう、私とあなたは敵同士よ。」
「俺はそんな事考えてねぇ。今でも俺はお前を仲間だと思ってる。」
「………今だけは特別に手を貸すわ。」
今は夏音と出会えた事でよしとしよう。とり敢えず目の前の敵をどうにかしねぇと。
「しゅう先輩!夏音先輩!」
空の方から声がしたと思った瞬間、背中に衝撃が走りそのまま地面に叩きつけられた。
「あちゃー。すいません真冬先輩、着地失敗しました。」俺の背中に乗っかってるやつ一人目。
「何やってんのよ、春。」そして二人目。
「春……真冬、重い。」
そう言った瞬間、真冬に容赦なく足で踏まれた。
「あんた、女子に向かって重い、は禁句よ。」
「あなたたち……どうして?」
夏音は信じられないような顔をして2人を見ていた。
何事もなかったかのようにゆっくりと真冬は俺の背中から降りると、黙って夏音を見た。
そして1つ、ため息をつくと、
「しゅうとを助けるためだけど?そこに偶然あなたがいて偶然共闘しようと割り込んだだけよ。……なんかいい感じの空気だったのも気に入らなかったし。」そう言った。
「真冬先輩何言ってるんですか!しゅう先輩、学園長との話し合いが終わったので急いで武精都市に向かって赤城さんたちから話を聞いて来ました。」
「話し合い?……そうか、早速で悪いけど悪魔との戦いだ。気を抜くなよ。」
2人は俺の横に立ち、さっきまでの表情とは変わって意気込んだ顔つきでこちらを見た。
「もちろんです。」
「ようやくあの時の仕返しが……ってアクアリエスはいないのね。まぁいいわ。」真冬はまた溜息をつきながら言った。
「おいおい、まさか人数が少し増えた程度で勝てるなんて思ってないよな?」とレオが挑発的に言う。
「レオ、だから彼らを甘くみないほうがいい。分身体のようにやられても助けてやれないよ。」とリブラは冷静に答える。
「ねぇレオ、リブラ。私にあの男の子と戦わせてもらえないかしら?少しだけ興味が湧いたわ。」
レオとリブラはその瞬間、ジェミニを驚きを隠せない目で見た。
「珍しいね、ジェミニ。君が人に興味を示すなんて。」
「いいじゃない。確かめたいことがあるの。」そう言って俺を見た。
「夏音、春香、真冬。あいつは俺をご指名のようだからレオとリブラを頼めるか?」
「しゅう!それは無茶よ!あの女の悪魔、ジェミニは触れただけで魔法を奪うの。しゅうの攻撃は通らない。」
夏音は必死に俺を止めた。
「だったらあなたが秋翔を助けなさい、夏音さん。」真冬はそう言った。
「春、私と一緒にレオとリブラを倒すわよ。2対2でのチームプレイなら私たちの方が上、でしょ?」そう言って真冬は春香の方を見ると、春香も頷き、
「はい、分かりました!しゅう先輩、夏音先輩はジェミニをお願いします。」
春香と真冬、2人はそれぞれ剣を抜き、レオとリブラに対峙した。
「さっきから随分舐めた口聞いてるじゃねぇか。お前ら精霊使いの見習いが悪魔に勝てるわけねぇだろ。それも2人だけで俺とリブラを相手に?笑わせんなよ。」
「超加速。天神目。」春香は風を纏い、そのままレオの方へと駆けた。
不意を突かれたばかりでなく、圧倒されるほどのスピードにレオは反応が少し遅れ、そのまま崩れた建物の瓦礫へと叩きつけられた。
「レオ!まったく……だからあれほど甘く見るなと言ったのに……。」
「あなたもよ、リブラ。絶対凍結斬。」
レオを見ていた一瞬の隙を突き、真冬はリブラの懐に入り、刀を振るった。
斬りつけたところから前方は全てが凍りつき、白銀の世界と化した。
「へぇ〜。あなたたち意外とやるじゃない。」とジェミニは拍手していた。
春香、真冬。俺がだめだって言う前に行動に移しやがった。
「夏音、俺とお前であいつを倒す。前にあったこと、今は忘れろ。俺も今は忘れてやる。」
夏音は俺の顔をじっと見て、少しにやけた。
「ふふっ、馬鹿じゃない。でも、とってもしゅうらしい。」
久しぶりにこの笑顔を見ることができた。
「しゅう、さっきも言った通りジェミニには手で触れた魔法を自分の魔法にする能力をもってる。」
改めて考えてみれば恐ろしい能力だ。悪魔はそれぞれそんな能力を持っていたとしたらかなり厳しい戦いになる。
「でも、魔法を奪えるのは一定時間みたい。現に今は風神の剣を使えるようになってる。奪った魔法はもう1度触れない限り使えない。それにね、……しゅうとなら誰が相手だって勝てる気がする。」
「あぁ、そうだな夏音!火纏Ⅱ。」
ジェミニに走り寄り、火を纏う刀を構える。
「しゅうに報告。今の私に魔力枯渇なんて絶対にない。常に魔力が供給されてるから。どんどん強力な魔法撃つから気をつけてね。風魔核。」
丸い小さな風の球体はゆっくりとジェミニに向かって放たれる。
それよりも「魔力が常に供給されてる」か。わけが分からない。
「2人ともいい感じね。双光爆。」
ジェミニは自身の周りを爆破させ、姿をくらました。
「無駄よ、風神の剣。」ジェミニのいた場所の上空から風の剣が地面に向かって突き刺さった。
何度もあの魔法を見たが、どう考えても防ぎようのない理不尽な技だな。
すると上空へと飛ぶ光が見えた。
「そこか!紅翼。」
光へと一直線に向かう。
間違いない、ジェミニだ。
この距離なら当てられる。
「炎狐の尻尾Ⅱ。」
刀を勢いよく振り下ろした、狐の尻尾を模した炎はジェミニに直撃した。
その瞬間、炎狐の尻尾は弾けて消えた。
「本当に厄介だな。」
「何度も同じことの繰り返し、炎狐の尻尾Ⅴ。」
今度は俺に向かって放たれる炎。
計算通りだ。
「夏音!」
俺は光に包まれ、一瞬にしてジェミニの背後を取っていた。
「これでもくらっとけ!炎狐の尻尾Ⅹ。」炎はジェミニを包み、地面へと叩き落とした。
地面へと落ちたジェミニは確実にダメージを受けていた。
「くっ………どういうこと?確かにあなたはついさっきまで私の目の前にいた。」
「夏音の魔法さ。空間転送っていう空間を入れ替える魔法だ。」
「その魔法で私としゅうの場所を入れ替えて、私が炎狐の尻尾ⅴを受け止めたってわけ。」
やっぱり夏音と一緒に戦っていると負けを考えなくていい。武精祭の時もそうだった。
「なるほどね、確かにこれは一杯くわされたわね。やっぱりあなた、面白いわね。でも残念、リーダーからのお呼び出しだから、これで失礼するわね。」
そう言うと、ジェミニの身体は急に光り始めた。
夏音は何か分かったような顔をして、苦い顔をした。
「あいつ、さっきの煙幕の中で分身を作ってたんだ。そして本体は………おそらくもうこの近くにはいないわね。しゅうに興味があったのも多分嘘。時間稼ぎってところかしら。」
夏音はそう言った。
逃げたのには間違いないが、俺にはジェミニがまた俺の前に現れるような気がしてならかなった。
ーーー「くそがーーっ!」レオは誰から見ても怒り狂っていた。不意打ちでダメージを負った自分への苛立ちなのか、人間にやられたという苛立ちなのか、またはその両方なのかは私には分からない。
「真冬先輩、リブラは?」
そう言うと真冬先輩は両手をあげて呆れた顔をした。
「凍ってるわよ、ほら。」
真冬先輩の目の前には確かにさっきまで見ていた光景とは全く違う、白銀の世界が広がっていた。
これが真冬先輩の力。
「おい人間共、このまま生きていられると思うなよ?」
レオの身体から魔力が溢れ出す。
「俺の能力は自身の魔力を倍にするって能力だ。今までは能力を使わずに50%の力でいてやったんだ。今度はあたらねぇ。」
自分の力を倍にする。単純な能力けどかなり危険な能力じゃない?
「真冬先輩、しゅう先輩たちが来るまで時間稼ぎしますか。」
「……無理ね。おそらく秋翔はこない。」
真冬先輩ははっきりとそう言った。
「どう言うことですか?」
「おそらくここにはもうレオしか悪魔はいないわ。ジェミニとリブラは逃げた、もしくは何かしらの命令でこの場を後にしてる。私が倒したのはジェミニの分身だと思うわ。そして、秋翔や夏音さんももうそろそろ気づくんじゃないかしら?春香、周りを見てみなさい。」
周りを…見る?………⁉︎
そこは身に覚えのない全く別の場所へと移動させられていた。
「ど、どこですかここ⁉︎」
「さっきいた場所から10kmぐらい離れた場所ね。ここには私と春、そしてレオしかいないわ。」
冷静に分析する真冬先輩、すごく安心出来る。
「そういえば、どうやってここがさっきの場所から10km離れた場所って分かったんですか?それに、どうしてこんな所に私たちが……?」
真冬先輩に指で口を閉じられた。
「質問が多い。あのビルさっき私たちが上空を通ってる時に見たのよ。そこからさっきいた場所の距離のおおよそを計算してこの場所とあのビルと、今いる場所を結んでまた計算した、と言ったところかしら?私たちがここにいる理由は、おそらくレオに聞けば分かると思うわ。」
………半分分からなかった。けど、取り敢えず真冬先輩がすごいということが分かった。
私には考えもつかなくて、真冬先輩の足を引っ張ってるだけなんじゃ?
「そこの嬢ちゃん、頭がきれるようだな。先に殺るのはお前の方がこっちにとっても都合がいいな。それよりも……リブラとジェミニの野郎、俺をこんな場所に運んで何のつもりだーー!!」
レオの身体から放たれる黒い炎は森を一気に黒く染めた。
レオはリブラとジェミニに怒っていて、その矛先が私たちに再び向いた。
「お前らがここに来たせいで面倒なことになったじゃねぇか。たっぷりと苦しめてやるから、死ぬなよ?」
殺気と共に伝わるレオの魔力。
恐怖で足がすくんだ。
「春、私はあなたと2人で戦えば勝てない相手じゃないと思ってるけど、あなたは違う?」
真冬先輩はさっきまでの冷静に考えている顔つきではなく、私に優しい声で話しかけていた。
「真冬……先輩………。」
「本気じゃなかったけど、学園長を倒したのよ、私たち。それに春だって本気まだ出してないじゃない。私と春のコンビネーションを見せてあげましょう。あの怒り狂った悪魔に。」
初めて会った時の真冬先輩。周りのみんなを敵視するそんな目は、どこか悲しく、寂しかった。
けど、今の真冬先輩の目は、とっても暖かくて、とっても頼りになる目をしていた。
8,〜激闘・後編〜
春香、真冬。
「おそらくジェミニの魔法ね。私たちと2人を引き離して、確実に2人を殺そうとしてるわね。」
夏音はそう言った。
「だったら早く見つけてやらねぇと。」
「………ねぇ、秋翔。あたしと一緒にこない?そうすれば2人の場所に連れて行くけど。」
「何言ってんだよお前?」
夏音はこちらを向くと、さっき見せた笑顔と同じ笑みを浮かべた。けれどさっきとは全く違う感情が入っていることに俺はすぐに気づいた。
「私たちの組織に来て、しゅう。そうすればしゅうのお父さんもお母さんともまた幸せに暮らせるの。」
「夏音、俺は時渡りを使うことはやっぱり止めるべきだと思ってる。」
時渡り、禁忌の魔法の1つ。過去に飛び、その過去を変えれば今の時間まで変化し、あったものがなかった事に。なかったものがあるようになる。
夏音はその魔法を使い、俺の両親を蘇らせるつもりらしい。
「どうしてなの?しゅうには得でしかないのよ!あなたは両親とまた暮らせる。それに、真冬や春香さんを今助けに行ける。」
「そうだな。確かに得でしかないな。けど、お前はどうなる?その借り物の魔力、デメリットが全く無いと言い切れるか?時渡りで確実に両親をナイトメアから救えるのか?春香や真冬を、本当に助けたいと今思っているのかよ?」
夏音の口調から、春香や真冬を“今”助けに行くという感情を感じ取ることができなかった。おそらく、時渡りだろう。それを使って助ければいいと安易に考えている。
「しゅうなら、分かってくれると思ってたのに。またあの時と同じだね。私を止める?」
「もちろん止める。けど、今はその時じゃない。今は春香と真冬のいる場所を教えてくれるだけでいい。頼む。」
まだ夏音が時渡りを発動するまでには約3ヶ月の猶予がある。
それならやることは一つ。春香と真冬の元に行く。絶対に死なせない。
「私じゃなく、2人のために、しゅうは動くんだね。でも、それでも私は……。」
夏音は風に包まれ、そのまま消えてしまった。
春香、真冬……。
ーーー「真冬先輩、すいません。ちょっと分かんなくなってました。」
「えぇ、だからわざわざ励ましてあげたんじゃない。手間かけさせないでよね。」
本人は厳しく言ったつもりかもしれないけど、私にはとても暖かく、心配してくれている気がした。
「アイさん、行くよ。最高速。」これが私の1番速い魔法。
私だけの目じゃそのスピードについていけない、だからアイさんがサポートしてくれる。
「天神目ⅴ。」これで最高速でも自由に走り回れる。
「ライム、新技行くわよ。」
「おっけいだZEI!」
「精霊は悪魔には勝てない!俺がはっきりと証明してやるぜ!炎魔。」レオの手から黒い炎が放たれる。
半歩踏み込んでレオに近づく。
「なっ⁉︎いつの間にっ⁉︎」
「一瞬の間に、です!疾風斬。」
双剣によりレオの身体を十字に斬った。雲雀学園長から教えてもらった技。私の最高速に合わせることで威力を増すと雲雀学園長は言っていた。
だめだ、浅い。踏み込むタイミングが速すぎてレオの腹を僅かに斬っただけ。
「まだまだー!炎魔獅子Ⅴ。」
黒き炎で造られた獅子が現れた。
この攻撃は受けられない!
左に避ける。
「だめよ春香!前後左右、それに上も。囲まれてる。」
アイさんに直接頭の中に今の状況を伝えられた。
周りには5体の黒き獅子がこちらに向かってきている。
これじゃあいくらスピードがあっても逃げ場がない。
「そのまま真っ直ぐ構えてなさい、春。」
真冬先輩の声がした。
「行くわよ、ライム。氷衣。」
真冬先輩の身体の周りを雪の結晶が包む。
結晶が砕け、そこにいたのは、氷のように透き通った瞳に、氷の羽衣を纏った真冬先輩だった。
「あまり長く持たないから、一発だけ。絶対零斬。」
黒き獅子は白き獅子へと一瞬で姿を変え、粉々に砕け散った。
そして私の目の前には驚いてこちらを見ているレオがいた。
真冬先輩の力、やっぱりすごい。私はスピードで縦横無尽に駆け巡るだけだったのを真冬先輩が戦略を考えてくれるおかけで私も本当の意味での全力を出せる。
「アイさん、私たちも!」
「えぇ、分かってるわ。」
深呼吸。大丈夫、1人じゃない。
「天駆羽。」
「そしてこれが私の最上級魔法。爆速20%(オーバートップ)。」
暴風のような風が私の身体の周りに吹く。
レオは一瞬だけ動揺したが、また冷静を取り戻した。
「お前に触れただけでアウトってわけか。」
力強く踏み込み、レオの元へと一気に近づく。
「けど残念だな、もうお前のスピードは目で追える。それに、お前の攻撃じゃあ俺は倒せない。」
レオが手を前にだし、防御の構えをとる。
「それはどうでしょう?」
確かに攻撃は読まれてたけど、防ぎきれる威力じゃない。
レオはまた、吹っ飛んでいった。
「ばかな、なぜここまでの力がお前に……。」
「爆速、この魔法はちょっと変わってるんです。元々は私も最高速よりも速くなる魔法だと思ってました。けど実際は、“最高速とあまり変化がなかった”です。むしろこの魔法は、徐々にギアを下げる、つまり私の魔法、最高速、超加速、加速、初速という風に自身のスピードを遅くする魔法だったんです。」
「自身のスピードを遅くする?なるほどね。」真冬先輩が近づいてきた。
「スピードを下げる代わりに、あなたの攻撃力を上げているのね。」
「さすが真冬先輩ですね。そうです、今は超加速まで下がってます。つまりあなたが目で追えていたのは超加速、最高速は多分見えないでしょうね。」
「なるほどな、目で追えていたつもりになっていただけか。だが種がわかればそれを避ければいいだけだ。」
私は頷いた。
「はい。避けられるのなら。」
今の私のスピードは加速、レオなら簡単に避けてしまう。
「凍結封。」
真冬先輩のその言葉と同時に、レオの下半身は氷漬けにされていた。
「なんだ、身体がうごかねぇ。」
「いきなさい、春。」
「はい!」
私のスピードを代償にした一撃。
「やめろ。そ、そうだ、お前たちの話を聞こうか。悪魔の場所とかも教えるぜ?な?」
考えてることがすぐにわかる。
レオの元へと走り寄る。
「お断りします。爆速斬。」
レオに渾身の一撃を振り下ろした。
「くそぉぉおおおっ!」
黒き獅子の怒号が響き渡る。
「いいか?お前ら人間ごときに俺たち悪魔は止められない。必ず復讐してやる。」
そう言うと、レオは黒く灰のようになって消えていった。
「これまでの消え方とは違うわね。レオが死んだととらえていいみたい。」
真冬先輩はそう言った。
「やりましたね、真冬先輩。ってあれ?力が入らない……。」
「魔力切れね、ほら私の手を掴みなさい………。」
バタッ。真冬先輩もその場に倒れた。
「真冬先輩もじゃないですか。」
「私たちの200パーセントを出し切ってやっと悪魔1匹、レオみたいな奴が一斉に襲ってきたら大変なことになるわね。」
「私たちが倒せるなら精霊使いの方たちでどうにかなるんじゃないですか?」
仰向けになりながら聞いた。
「春香、それは違うわよ。」アイさんが答えた。
「あなたたちは特別よ。そこら辺にいる精霊使いよりもあなたたちは強くなってる。それに、今回は敵の油断もあったし、何よりもリブラがいなくなってくれていた。これが1番の幸運ね。」
「絶対にとは言えないが2対2で勝つ確率は相当低かったZEI。リブラはおそらくまだ能力を使っていない。つまり本気じゃなかった。レオはおそらく見放され、その場の時間稼ぎと言ったところだろうZEI。」
真冬先輩の精霊、ライムさんもいつものテンションとは違って話しているのを聞き、よほど危険なことだったと知った。
「レオは性格的にも物事を冷静に判断するタイプじゃないし、倒せてもおかしくない。って事ね。それでも、私たちの勝利に変わりないけどね。」
真冬先輩は笑みを浮かべながら言った。
「はい。」
アイさんやライムさんも頷いた。
「2人とも無事かー!」
この声。
しゅう先輩が空から降りてきた。
「やっと見つけた。イグニがレオの魔力が消えたっていう方向に来たらやっぱりお前らだったか。」
「はい、私とアイさん、真冬先輩、ライムさんでレオをやっつけました。」
「まぁ一歩も動けないほどボロボロだけどね。」
気になったことがあった。
「あの……夏音先輩は?」
しゅう先輩は俯いて、
「ごめん。」とだけ言った。
私もなんとなくしゅう先輩が1人で来た時点で気づいていたはずだった。
それに、きっと私たちのために慌てて来てくれたのがすぐに分かった。
隠しているつもりか分からないけど、汗をかいていて、今にも倒れそうなほどだった。
息遣いも普段と変わらないように見えるけど……きっとそれも違うんだろうな。
私たちと同じく、魔力切れ。
「しゅう先輩、大丈夫です。まだ時間はあります。必ず連れ戻しましょう。3人で。」
「そうよ。あんたもそう考えてここに来てくれたんでしょ。秋翔、あなたの考えは間違っているなんて言わないわ。」
真冬先輩、本当に変わってくれた。しゅう先輩に冷たい言葉しか浴びせなかった1年前を振り返ってみても、いいチームに纏まってきている。
「2人とも、ありが……。」
急に緊張が途切れ、しゅう先輩もその場に倒れてしまった。
「お礼ぐらい最後まで言ってから倒れなさいよ。っていうかあんたが起きてくんないと助け呼べないじゃない。」
そうだ、この状況どうしよう。暫く動くことは出来ないし。動けるようになってもしゅう先輩を運べる力が出すことは無理だと思う。
「大変そうですね。私たちが手伝いましょうか?」
と後ろから男の子の声がした。
「あ、あなたたちは⁉︎」
私が気づいたすぐ後に真冬先輩も理解した。
「あなたたち、どうしてこんな所にいるのかしら。」
私たちが時雨吹雪学園長に連れ戻してくるように言われた3人組。
天津風音。児玉氷架。山崎炎真が、私たちのすぐ近くに立っていた。
どうも、改めまして作者の伊藤睡蓮です。
かなりごちゃごちゃにしてしまった感じが……。
今回はみんなの実力を見せる感じの回にしてみました。次回の投稿の次あたりに振り返り会などのようなものを作ってみようかと考えています。
ぜひそちらも見ていただけるとありがたいです。
それでは今回はこの辺で。|彡サッ!