精霊剣士の物語〜Sauvenile〜其の参
どうも作者の伊藤睡蓮です。少し間が空いてしまってすいません。また、今後も少し間隔が空いてしまう場合があるので、1ヶ月に1本投稿が難しくなる可能性があります。最近リアルが忙しくなってしまって……(´・ω・`)
そんなわけで間が空いてしまったお詫びとして今回は2本連続投稿します。
後書きは2本目にまとめて書きたいと思います。
それではどうぞ!
4,〜それぞれの想い・後編〜
「それが……、1組、天津風音、2組、児玉氷架、そして3組の山崎炎真の3名が学園のどこを探してもいません。」
「それは、まずいわね。」
武精学園の学園長、時雨吹雪は呟いた。
「その……学園長、今言ってた3人って誰なんですか?」
学園長にやばいと言わせる人達、でも聞いたことがない名前ばかりで混乱した。
すると、隣にいた学園長の娘で私の憧れの先輩、真冬先輩が顔色一つ変えず、
「その3人、新入生ですね。まだ新入生全員の名前を覚えきれてませんし。新入生にそこまで焦っている学園長を見るのは初めてです。ということは、普通の生徒とは少し違うんですね?」と吹雪学園長に聞く。それはもう、親子の関係ではなく、生徒と学園長としての質問だった。
学園長は何も言わず黙っていた。
っというか真冬先輩は学園中の生徒の名前を覚えてる⁉︎
「ね、ねぇ。私さっきから何がなんだか分かんなくなってるんだけど。」
「あ、美希。……だ、大丈夫。私もあんまりわかってないから。」
と自分の頬を人差し指でかきつつ、言った。
私と同じクラスの今井美希。先輩達と屋上でお昼ご飯食べようとしてたら何故かアルファ都市の中心の辺りが急に風が舞い上がってしゅう先輩が行こうとしたから私も行こうとして……そしたら学園長が目の前に立ち塞がって私と真冬先輩が時間を稼いでた。まぁそれも学園長の計算通りだったけど。
ざっとこんな感じ。そして今に至ってるけど、美希のいう通り訳がわからない。それに学園長は言っていた。
"私たちが1年間特訓していた間に得た夏音先輩の事"と。
「さて、どうしたものかしら。まぁ秋翔くんは大丈夫として、問題はいなくなった3人ね。」
「学園長。春香さんと真冬さんにもやはり話しておいた方がいいのでは?」
副学園長はもう既に誰かに話してあると言わんばかりの言葉遣いをしていて、誰に話していたか、大体分かった。
「そうね。秋翔くんにだけ話しておいたけどあなたたちにも伝えた方がいいわね。事態が事態だし。」
やっぱり。しゅう先輩。
「夏音さんの事については少し後回しにさせてもらうわ。3人を連れ戻したら詳しく話すから。それでいい?」
出来れば夏音先輩の事を先に聞きたかったな。けど、そっちの方が最優先事項、危険ということなのかな。
「夏音さんの事が先に知りたかったですけど、学園長がそう言うのなら仕方ありません。その3人をとっとと縛り上げましょう。」
……真冬先輩どストレートですね。それに縛り上げるって。
「そうね、下手したら縛りあげないといけないけど。」
そんなに危険な子達なんですか……。
「その前に……美希さん、教室に戻っていてくれるかしら?それとここであったことは誰にも話さないように。」
学園長は美希を見てそう言った。
「えっ、あの……。」
かなり混乱しているようだった。
「訳がわからないのも無理ないわね。それでもそのまま我慢してもらえると嬉しいわ。これ以上あなたまで巻き込むわけにはいかないの。副学園長、この子を教室へ。」
「はい、わかりました。」
美希は少し教室に戻ることをためらったように見えた。けど、副学園長はそっと美希の肩に手を添え、2人で屋上を後にした。
「ごめんなさいね。あなたたちの友達を仲間外れにするような事しちゃって。あんまり巻き込みたくもないのよ。」
「いえ、美希も多分、分かってくれると思います。……その3人について教えてください。」
「えぇ。と言ってもよくわからなくてそれを調べて欲しくて秋翔くんにその3人について調べてもらうつもりだったけど。」しゅう先輩に調査を頼んだ、ということみたい。
「学園長なら生徒の記録とか見れるので疑問などはないと思いますけど。」
真冬先輩は言った。
「それもまとめて解決できるからその3人の事をまずは話すわね。まず1人目、1年1組の天津風音さん。この子ね。」と言って写真を見せた。見せられた写真に写っている子は見覚えがあった。
「あっ!この子。」
「知ってるの?」
「あ、はい。顔を見ただけですけど。美希と一緒にトイレに行って、戻ろうとトイレから出たんですけどその時この子にぶつかってしまって。」
間違いない。あの子だ。でも、
「別に悪さをしそうな子じゃないと思うんですけど。」
「そうね。そして2人目、1年2組、この子は児玉氷架さん。この子よ。」
別の写真を私たちに見せた。
今度は知らなかった。
「あ、この子私知ってる。」
「真冬先輩、本当ですか。」
コクリ、と真冬先輩は頷いた。
「職員室の前ですれ違っただけよ。"退屈"って小声で言ってたからちょっと気になってたのよ。」
「あなたたちは自然とそういうものを引きつける力でもあるの?……秋翔くんよりこの子たちに先に話すべきだったかも。」
学園長は呆れたような顔をして言った。
「それじゃあこの子も知ってる?1年3組、山崎炎真くん。」
3枚目の写真を見せられた。赤黒い色の髪色。どことなく幼い感じがする。
「初めて見ました。真冬先輩はどうですか?」
「私も知らないわね。」
真冬先輩も流石に知らなかった。
「この子たちがどうかしたんですか?」
「うん。私がこの子たちを調べてる理由、それはこの子たちが3人とも武器に精霊を宿してるって点よ。」
「秋翔も同じようなものでしょ?」と真冬先輩が言う。
確かに、しゅう先輩も武精学園に入学する前から精霊宿していたと言ってた。
「確かにその通り。でもこの3人と決定的に違うのは精霊と出会った期間よ。秋翔くんはおそらく何ヶ月も彼の精霊、イグニと一緒にいたと思うわ。けれどこの子たちは約1ヶ月。
そんな短期間で武器に精霊を宿すなんて相当なこと。」
「あの〜、私とアイさんは1日で精霊と契約してアイさんを武器に宿したんですけど。」
と少しずつ手を挙げた。
「あぁ、それは少し間違った解釈よ。春香さん。そうよね、アイちゃん。」
すると手に持っていた猫のストラップが光り、風を纏う猫、アイさんが姿を現した。
「学園長の言う通りです。私は春香をずっと、何ヶ月も見てきたわ。武精学園に入学する前から。他にも何人か見ていたけどあなたのような優しくて見込みのある子はいなかった。だからあなたに決めたの。」
そうだった。
「それじゃあ、実際は1日じゃなかったって事ね。それなら確かに奇妙ね、その3人。」
「おそらくその3人は秋翔くんが向かったアルファ都市の特務部隊の本部に行ったはずよ。そこにいなければ帰ってきてよし。」
「えっと……特務部隊の本部にその3人が行く理由が分からないんですけど。」
誰かの携帯が鳴った。
学園長の携帯だった。学園長は画面を見るとすぐに電話に出た。
誰かと話をしている。
「ごめん2人とも。私はこれから緊急に開かれる4学園会議に出席しなければなりません。……その3人をここに連れ戻す。お願いできますか?詳しくは戻ったら話します。隠してるってわけじゃないの。まだ確証もないから大きく話せないの、それだけは理解して。」
そう言ってそそくさと屋上を後にした。
「春香、あなたはどうするの?」
「とりあえず行きましょう。それが私たちのためでもある気がします。」
真冬先輩はクスッと笑って、
「そうね、あなたの言う通りよ。それならこんな所で話してられないわ。行くわよ春香。」
「はい。」そう言って真冬先輩の手を握った。
「加速、天駆羽。」
「ちょっと、春香?」
焦る真冬先輩よりも一刻も早く特務部隊の本部に行くことを優先していた。
「真冬先輩を連れて行くとするとやっぱり加速が限界かな。行きますよ真冬先輩。」
屋上の柵を飛び越え、そのまま空を駆け出した。
5,〜空間転送〜
目の前にある光景は見るも無残に残された建物の瓦礫ばかり。野次馬が溢れ警察や特務部隊の人たちが必死に押さえていた。
「危ないですから下がって!」
「まだ犯人が近くにいるかもしれません。速やかに避難を!」
赤城さんの姿は見当たらなかった。
「なんでこんな事になってんだよ。」
今日の朝、俺は赤城さんと話してた。けどその後すぐにこんな事になるなんて。
「くよくよしてる暇あるの?大丈夫よ、この建物の中にいた人は全員生きてはいるから。」
と声がした。慌てて振りかえって見たが誰もいなかった。
「あれ?確かに声が……。」
「ここよ。あんたもしかしてまたバカにするつもりじゃないでしょうね?」
声は下の方からした。下を向くと、小学生くらいの子が、こちらを見ていた。
「うわっ……って、飾さん⁉︎どうしてこんな所に?」
そこにいたのは俺がガンマ都市で刀を作ってもらうことをお願いしていた鍛治職人、飾 麻耶さんだった。
飾さんはガンマ都市の特務部隊に所属し、赤城さんとも親しい仲で過去を見ることのできる魔法を得意としている。そして凄腕の鍛治職人でもある。
「どうしてって、アルファ都市の特務部隊の本部が襲撃されて、他の都市の特務部隊にも急行するよう命令が下ったから来たのよ。でもまさかここまで酷い事になってるとは思ってなかったけど。」
「そうですか……。赤城さんは!他のみなさんは無事なんですか⁉︎」
飾さんは急にジャンプし、俺の頭を思いっきり叩いた。
「いたっ!何するんですか!」
すると今度は鞘に収まった1本の刀をこちらに向かって投げた。もう少しで顔面に当たるところだった
「あ、あぶねー。」
「さっきも言ったでしょ。全員無事よ。だからそんなに焦らないの。あせったら何も見えなくなる。」
飾さんの冷静な目を見て、少し落ち着くことができた。
「全員無事って。あんな巨大な魔法で誰1人死ななかったんですか?こんなこと言うのおかしいですけど、信じられません。」
「えぇ。私も驚いてるわ。綺麗に建物は崩れていたのに崩れる前にもう全員別の建物に転送されていたのよ。けれど、そこにいた特務部隊の中で誰もそんな転送魔法を発動したと人はいなかった。」
「どういうことですか?」
「そのままの意味よ。特務部隊の本部を襲った人が特務部隊の人を助けたということよ。まったく……何を考えてるのかはさっぱり分からないけど。」
たぶんその答えは……。
「赤城さんは今どこにいますか?」
「あそこの救急車で手当てを受けてる。事情聴取も一緒に受けてると思うわ。」
「分かりました。ありがとうございます。それと、この刀も。本当にありがとうございます。」
さっき投げられた刀、鞘から取り出して見ると赤黒い刃が綺麗に光りを反射し、黒い鍔。そしてこの手に持った時のなじみやすさ。
「あんたに合わせて作ったオリジナルよ。大切に使いなさいよ。1日で折るとかはなしよ。」
「はい、大切にします!」
飾さんの元を後にし、赤城さんのいる救急車の元へと走った。
「命も同じくらい大切にしなさいよ、秋翔。」
同じ場所にいくつか救急車が止まっていてどこに赤城さんがいるか分からなかった。
「イグニ、赤城さんの魔力はどこから感じる?」
「人がちょっと多すぎるし、最近なぜか魔力を感じ取れなくなってきてる。」
「おい、お前の一番の長所である嗅覚的、魔力探知が使えないなんてありえねー。」
「一番のってどういう事だしゅう。ここまで飛んできたのは誰のおかげだ!」
半分俺で半分イグニ。それにイグニはまた魔力を切らしてしまっている。
本当に使えない。口には出さずに心の中で呟いた。まぁそれでも、少しくらいはこいつにも感謝しないといけないこともあるのは事実だし、感じ取れなくなったものは本人も原因が分かってないようだし、おおめに見とくか。
「ん?秋翔か?やっぱりそうだ!」
と声がした。声のする方を向くと、頭に包帯を巻いていたが、そこには懐かしい顔があった。
「光明先輩⁉︎どうしたんですかその怪我?」
「そうか、お前たちには言ってなかったな。俺と暗闇は今年から特務部隊に所属して活動してたんだよ。それから部署を移されて赤城さんと同じ部署で仕事する事になったんだ。まさかこんな事になるとは思ってもなかったけどな。」
そうか、先輩たちは特務部隊に。
ということは元生徒会長や副会長も特務部隊に入ったのかな?
先輩のこと俺たち何も知らないな。
「お怪我は大丈夫ですか?」
「心配ないさ。ちょっと掠っただけだし。暗闇は足をやられたから近くの病院に運ばれたけどちゃんと話せるし無事だ。」
よかった。
「あの、赤城さんは?」
「私ならここだ。」
と車椅子で誰かに押されて赤城がやってきた。
「赤城さん!」
「心配をかけてしまったようだね。命に問題はない。安心したまえ。」
光明先輩は顔を下に向け、ずっとお辞儀?をしていた。
「秋翔くん、私たち特務部隊の本部を狙ったのは夏音だ。」
「はい、何となくそんな感じはしてました。」
「君にあの時起きたことを話そう。」
赤城さんの口からはとても信じられないような内容を聞いた。
5,〜襲撃〜
「風神の剣だと⁉︎夏音、君は一体どれだけの魔法をその体に溜め込んでいるんだ?」
私の魔法では相殺するどころかここにいる皆んなを守ることすらかなわない。
夏音は風神の剣を躊躇なく地面へと発動し、特務部隊の本部はどんどんと崩れていく。
こんな所で死ぬわけには……。
「空間転送。」
その言葉が発せられた瞬間、崩れていくビルの中にいたはずだったが、全く別の使われていないビルの中へといつの間にか移動させられていた。
転送させられたのは私だけ?
「他の人たちはまた別のビルへと移しました。今ここにいるのは私と赤城さん、あなただけです。」夏音は剥き出しになったビルの柱に寄りかかってこちらを見ていた。
「どういうつもりだ、夏音。なぜ敵である我々を助けた?」
「私があなたに会いにきた理由は悪魔の居場所を確定づけるため、そしてあなたと話すことです。」
「私と話す?何をだ?」
「悪魔について、はもういいです。今から話すのは私のいる精霊神協会についてです。」
精霊神協会だと?夏音はなにをしようというんだ?
「君が自分のいる組織のことを話すメリット、それとそれが真実なのか、これが分からない以上まだ君は信用できない。」
「私が話すメリット、ですか。あなたのためです。」
私のため?
「私は特務部隊本部に乗り込む前に、精霊神協会のトップの補佐の人に命令されました。“特務部隊に所属の赤城さんの抹殺”を。」
つまり、私が精霊神協会のトップから狙われているということだろう。
「なら君はどうして私を殺さなかった?今の君なら私を殺すことなど簡単だろう。」
夏音は柱から離れ、窓際へと歩いて空を見た。
「私はあの時、あなたに助けられました。その恩返し、と言ったところでしょうか?」
“あの時”、11年前に起きたイプシロン遊園地での爆破事件の事だとすぐに分かった。
「私は本当に誰も殺す事なく、時渡りをしたい。しゅうの本当の笑顔を取り戻すために。」
その覚悟は本物だった。
しかし、「私はそれを認めるわけにはいかないぞ。それに君が言う秋翔くんの本当の笑顔は、もう何度も君は見てるんじゃないのか?」
一瞬、夏音の手がピクっと動いた。
「……ちがう………違う!あれは私たちのために頑張ってるだけ!」
感情的になってきている。これなら、
「どうして言い切れる?君は秋翔くんではないだろう?」
「それは……。」
「本人に聞いて見たのか?両親のいない今を。」
「………。」夏音は黙って下を向いた。
「夏音、もう一度秋翔くんと話すべきだ。必ず君の力になってくれるだろう。」
「赤城さん、話はもう終わりです。それから、当分表には出ない方がいいですよ。生きていると知ったら私たちのトップは必ずまた狙いますから。……さようなら。」
「まつんだ、かの……!」
次の瞬間、さっき転送された時と同じような感覚があり、目を開けると周りには怪我をした仲間たちがそれぞれ手当てをしていた。
急に身体が動かなくなり、その場に倒れこんだ。
「赤城さん!無事だったんですね!」
「光明くん、それに暗闇くんも。」
足の骨が何本か折れていた。
さっきまでなぜ立てていたのか…?
「夏音、まさか君が……。」
あの子はやっぱり変わっていなかった。進むべき道を少し間違えているだけだ。誰かがそれを教えてあげさえすれば。
ーーー「その後、私たちは特務部隊の本部の前まで行くと救急車やら他の都市の特務部隊がいたので救助を求めたというわけだ。」
今の話を聞いて、より一層夏音に会うべきだと思った。
「赤城さん、俺……。」
「夏音に会いに行くんだろ?言っておくがかなり危険なところだ。それでも行くのかい?」
「……はい。行きます。」
赤城さんは口元に笑みを浮かべ、ゆっくりと頷いた。
「分かった。ただし、行きて帰ってこい。私から君への命令だ。」
「はい!」
赤城さんが一枚のメモ用紙を渡してきた。
「おそらく夏音はここに向かったはずだ。我々が掴んだ悪魔の根城の一つ、デルタ都市の東にある使われていない廃墟に地下がある。そこにいると思われる悪魔は三匹だ。くれぐれも注意を怠るなよ。」
「三匹……1年前に襲ってきたやつとは違うんですか?」
「二匹はそうだ。レオとライブラ。残りの一匹は未だ不明。と言ったところかな。」
「分かりました。ありがとうございます。」
夏音、もうすぐお前に会いに行く。色々言いたい事があるから大人しく待ってろ。