精霊剣士の物語〜Sauvenile〜其の弍
どうも、久しぶりです。作者の伊藤睡蓮です。
遅くなってしまい申し訳ありません(投稿することを忘れていたのに気づくのが遅かった)。
2,〜来客者〜
アルファ都市、そこにある特務部隊の本部に今日は珍しく来客予定が入っていた。正直面倒だったが、断るわけにもいかない。
来客用の部屋は用意されてない。だとするとやはり我々の部屋に案内することになるが、ゆっくりと扉を開く。
「こんな所で話は聞けないよな。」
机の上には所狭しと書類の山、隅にはダンボールが積み重なっている。
「あ、おはようございます。赤城さん。」
「おはようございます。」
「おはよう。……それより光明くん、このダンボールと書類の山、どうにかしてくれないかな?いくら何でもこの量だとお客さんには申し訳ない。」
「だから言っただろ、光明。お前がもっと整理整頓を心がけろと。」
「なんだよ、俺のせいにするつもりか、暗闇。」
この2人は4月から新しく特務部隊に所属してきた千葉暗闇くんと、天津光明くん。武精学園の出身で元々顔見知りでもあり腕前も中々だったので私の部署に誘ってみたが……。
「おい暗闇、ちょっとだけ手伝ってくれないかな。これ、この山をどかしてくれるだけでいい。」
「断る。」
「ったく、少しぐらいいいじゃねぇかよ。そう思いますよね、赤城さん。」
失敗したかな。目の前で睨み合いが続く。……この2人本当にコンビだったのかと疑ってしまうレベルだ。まぉ喧嘩するほど仲がいいとも言う。おそらくそれだろう。
「2人とも、喧嘩は一先ず後にして。暗闇くん、悪いが光明くんを手伝ってもらえないかな。もうすぐお客さんが来るんだ。」
2人は暫く見つめあい、暗闇はため息をついて了解した。
「わかりました。」
「その代わり、光明くんはお昼を奢りなさい。それでチャラだ。」
「マジッすか⁉︎やば、金が……。」
暗闇くんはニヤリと笑い、
「ちょうど腹が減ってたんだよな。」とだけ言った。
暗闇くんが手伝ってくれればなんとかなるだろう。
「それより1ついいですか?」
光明くんは片付けを始めながら言った。
「なんだい?」
「その、来客って一体誰が来るんですか?」
「それが、僕にもよくわかっていなくてね。どんな用件かも分からないんだ。なんでも昨日急に電話で頼まれたそうで、女性ということしかわかっていないんだよ。」
「怪しすぎませんか?」
光明くんのいう通り、怪しいと言えば怪しい。
「そうだね。しかし、本当に何か頼みたい方であれば無視も出来ないだろう。それに、万が一にも特務部隊を憎んでいる人だとしても、ここはアルファ都市の特務部隊本部だ。警報がなって他の都市にもその情報が渡り、逃げ場はない。そもそも我々が逃さない。」
「な、なるほど。そこまで言われると流石特務部隊って感じがします。」
「光明、お前もその一員なんだぞ。」と暗闇くんはぼそりと呟いた
。
数十分後、あらかたダンボールを畳んで小さくし、私も書類の提出を手伝い、なんとかお客さんが来ても問題ないレベルの部屋ができた。
「よし、こんなものだろう。2人ともお疲れ様。」
「ふーっ、やっと終わった。」
「昼ちゃんと奢れよ、光明。」
「わかってるわかってる。」と軽く手を振った。
タイミングよく、電話が鳴った。
受話器を手に取ると、
「赤城さん、お客さんが来られました。」との連絡だった。
「分かった、通してくれ。」
「来るんですね、美人だったらいいな〜。」
「光明、これは立派な仕事なんだ。もうちょっと気を引きしめろ。」
「まったく、暗闇は堅すぎるんだよ。」
本当に仲がいいな〜、と2人を眺めていると
コンコン、とドアをノックする音が聞こえた。
「2人とも、お喋りは……。」
2人は黙り、ドアを見た。
……流石にもう言わなくても分かるか。
「どうぞお入りください。」
そう言うと、ドアがゆっくりと開いた。
そこにいたのは、つばの長い白い帽子をかぶり、水色のワンピースに身を包んだ女の子だった。
「こんにちは。今日は突然お伺いしてすみません。」とお辞儀をされた。
「いえいえ、こちらこそ散らかっている部屋ですみません。とりあえずソファにでも座って下さい。」
女性は言われた通りにソファに座った。
向かいのソファに座り、光明くんたちには少し離れたところにいてもらった。
目の前に3人いても嫌だろうし……。
「それで、今回はどのような件でこちらに?」
「はい、私の友達が……悪魔に誘拐されたんです!」
その発言を聞いて、目を見開いた。
後ろの2人も少し動揺していたような気がした。
「それは、実際に見たんですか?悪魔を。」
女性はコクリと頷いた。
「はい、戦おうとしたけど、全然手も足も出なくて……。お願いです!悪魔を、友人を見つけて下さい!」
「おうよ!あなたの友達は俺が必ず見つけてやる。」光明くんが即答した。
「待ちたまえ、何故君が返事をするんだ。現状、我々も悪魔についてあまりに手がかりが少なくてね。もう少し詳しく教えてくれないか?」
妙な違和感を覚えていた。この女性、何か引っかかる。光明くんたちの言う通りになるかもしれない。
「はい……、・・・・・というわけです。」
大体は理解できた。確かにあり得ないことではないとも思った。
「私が、友人を助けたいんです!悪魔の居場所を、本当に知らないんですか?」
「私たち特務部隊が可能性があると考えている場所が一箇所あります。」
またこの子は……。頭に手を当てた。
「光明!それは外部には漏らしてはいけない事だ。」
暗闇くんが止めに入った。それが適切な判断だろう。
「やっぱり、知ってるんですね。赤城さん。」
………、
「もう少し早く気付くべきだったね。」
違和感の正体が分かった。最悪な形として。
「気付くって、どういう事ですか赤城さん?」
「光明くん、暗闇くん。彼女は僕らがよく知っている人物だ。初めから違和感はあったんだ。誰かは分からなかったけど。」
女性は黙って座っている。
「まず、友人は悪魔に誘拐されたのに君は何故誘拐されなかった?下手したら殺されてもいただろう。そして、友人の発見を優先するよりも、悪魔の居場所を優先しているように思われた。」
「どういう意味ですか、赤城さん?」
彼女の問いかけにもう答える必要はない。
「友人など、悪魔になど襲われていないのだろう?君は自分の手で悪魔を倒すつもりだ。葉月夏音。」
「なっ⁉︎夏音⁉︎」
女性はゆっくりと立ち上がり、クスクスと笑った。
「あーぁ、もう少しで聞き出せるとこだったのに。流石に赤城さんにはばれちゃったか。」
さっきまでの顔はおそらく魔法で変装していたのだろう。
そこには、正真正銘、葉月夏音の顔があった。
「光明くん、暗闇くん。非常警報を。葉月夏音を拘束する。」
「でも……。」2人はためらっている。このままでは逃げられる。
「夏音をここで逃すことは、秋翔くんたちにとっても良いことではない。彼らに会わせるためにも……ここで捕らえる。」
2人は暫く考えた後で、覚悟を決めた顔つきになった。君たちらしい、いい眼だ。
「私は逃げるつもりはないですよ。悪魔の居場所さえ教えてくれればそれだけでいいんですけど。」
「残念だがそれは無理だ。外部の者には言ってはならない決まりになっているし、今の君には尚更話せない。」
ビーッ!ビーッ!ビーッ!
警報が鳴り出した。よくやった。
「 あーあ、面倒なことになっちゃったなー。仕方ないか、ちょっと準備運動を。」と言い、夏音は屈伸を始めた。
「火纏。」
(ここは屋内、それに5階建て。夏音も自分を犠牲にしてまでの攻撃をするはずがない。ここは慎重にいこう。)
「甘いですよ、赤城さん。」
夏音は不気味な笑みを浮かべた。
まずい。
「崩壊の序章。」
地属性の最上級魔法の1つだと⁉︎
建物全体が大きく揺れている。このままでは……。
「なるべく死者は出したくないんですけど、悪魔の居場所を教える気になりましたか?」
仕方がない……か。
「分かった。教えよう。その代わり魔法を解くんだ。」
「ありがとうございます、話が早くて助かりました。」
「……現在我々が掴んでいる悪魔の拠点の1つだと思われている場所は、4学園の内の1つ、デルタ都市の東側の使われていない廃墟になった雑貨ビル。その地下だ。そこに潜伏している可能性が高い。」
夏音は腕を組んで考えていた。
「なーんだ、それじゃああの情報屋は間違ってなかったのね。何人いるかなー、多い方が楽しいけど。」
情報屋だと……?特務部隊の機密情報だぞ。まさか……我々の仲間の中に……。それに、
「夏音ちゃん、1人で悪魔と戦う気かい?」
「それがどうかしましたか?私は退屈しのぎに秋翔を傷つけた奴を倒しに行くんです。……それから、ちゃん付けは不愉快ですよ。」
このプレッシャー。さっきまでとは比べ物にならない。
「私は絶対に過去に戻ってナイトメアを倒します。邪魔をするなら手は抜かないので覚悟してください。」
「君の魔力量は本物だ。だが、それは使い捨ての魔力。つまり、過去に戻る魔力が蓄えられているということ。下手に強力な魔法は撃てないはずだ。」
そう言うと夏音はパチパチと手を叩いた。
「そうですよ、その通りです。……ですが、なら何故“崩壊の序章”を使おうとしたと思います?」
最初からハッタリのつもりだった、だろう。
「『最初からハッタリのつもり。』みたいな事考えてますよね、違います。別に使ってもいい事になったんですよ、この魔力全部。」
使ってもよくなった?許可をもらった。誰に?
一体どうやってそんなに多くの魔力を……。
「………。やっぱりあなたが生きていることは今後厄介になりそうなので……消えてください。崩壊の序章。」
私たちの知る彼女はもういないのか。
建物が崩れていく。夏音自身は風の膜のようなもので覆われて浮かんでいる。
「夏音!やめろ。光斬!」
「影斬。」
崩れ落ちる中でバランスを取りつつ、向かっていく。
「面倒な人達ですね。重力変化。」
重力が異様なほどに身体にかかった。
建物の壁や床も地面に勢いよく落ちていく。
このままではここにいる全員が死ぬ。
「火炎壁Ⅴ。」
少しの破片ならこれで焼き尽くせる……。
「さようなら、赤城さん。風神の剣。」
まさか、ここまでとは。
突如に巻き起こる強烈な風を止めることができなかった。
ーーー「真冬いるか〜?」と3年1組の教室を覗きながら呼んだ。
すると、奥の方の机から立ち上がる真冬が見えた。
めんどくさそうにこちらに歩いてくる。
「なに?今からお昼ご飯食べようとしてたんだけど。」
「そりゃちょうどよかった。春香がみんなで屋上でご飯食べようってさ。まぁ本人はもうお前が来ること確定みたいだけど。」
真冬はため息をつくと、
「春香なら確かに勝手に決めそうだわ。まぁ今回だけは一緒に食べてもいいけど。」
お、なんか意外な反応だな。断るかと思ってたけど。
「秋翔、あなた今私が断ると思ってなかった?」
「は⁉︎いやいや、ないない。」
こいつ何者だよ……。
「そ、それより早く行こうぜ。な?」
「………分かったわ。」
少し怪しいと思われていたが、なんとかなった。
「春香、ずっとあなたに会いたいって言ってたのよ。」
「あぁ、さっき会った時もそんな感じだったな。なんでだろうな?」
「……秋翔、あなたやっぱり1年経っても成長してないわね。」
「どういうことだよ。」
「言葉の通りよ。」と言うと真冬は少し早歩きになって階段をのぼっていった。
後を追うと、ちょうど春香たちが鍵を開けるところだった。
「春香、随分早いな。」
「はい。なんか屋上でお昼ごはん食べたいですって学園長に言ったら鍵を渡してくれましたよ。」
「春、あんたなんであんなに学園長と簡単に会話できてんのよ……。」
春香と一緒に屋上の鍵を貰いに行った今井美希さん。春香と同じクラスの友達らしい。
それより、………吹雪先生。真面目に仕事してんのかな。
「こんなとこで話してないで早く屋上行きましょ。」と真冬が唐突に言った。
もしかして、実は1番楽しみにしてたり……ないか。
春香は屋上のドアを開けた。そこから射す光は一瞬目を眩ませたが、すぐに目の前にアルファ都市が綺麗に見えた。
春香は走って屋上の端っこまで行き、
「わぁ〜、きれいですね〜。」と言った。
「春、そんなに走って転んだら大変だよ。そんなに焦らなくても……って本当にすごいね。」
今井さんも楽しんでいるようでなによりだ。
「さて、適当に座ってお昼ご飯でも食べるとするか。」
「そうですね、早く食べましょう。お腹ぺこぺこです。美希も早く。」
と美希の手を取り、俺たちの方へ近寄って来た。
適当なところで腰を下ろし、それぞれ弁当箱を広げた。
「先輩たちと一緒にご飯食べるの初めて。」と美希が言う。
「そうだよな、そんなに一緒に食べる機会なんてないし。みんな大体は自分たちのクラスとかで食べるから確かに俺も春香以外となら初めてだな。」
「私はしゅう先輩の家で一緒にご飯食べていたので全くそんな気はしませんね。」
「秋翔先輩の家で……一緒に?もしかしてそういう関係?」と美希は呟いた。すると春香は即座に否定した。
「違う違う。チームで無理矢理ゅう先輩の家に泊めてもらっただけです。」
「泊まったのね……ま、まぁ別にいいんじゃない?そういう関係なら。」
……さっきから今井さんが言ってるそういう関係ってなんなんだ?春香はなんか嫌がってるし。
「しゅうと、あんた大馬鹿ね。」
真冬にも何故か馬鹿にされる。
春香はポケットから猫のストラップを手に取った。
「アイさん!美希に分かるように説明して!」春香が顔を赤くしながらそう呼ぶと、猫のストラップは姿を変え、猫の姿の風の精霊、アイが現れた。
「はいはい分かったわよ。と言いたいところだけど、私は残念ながら秋翔くんとは一緒に暮らせてなかったからね〜。説明は無理よ。」
「そんな〜。」春香は肩を落とした。
「あら?そう言えば挨拶まだしてなかったわね。秋翔くん、真冬さん。お久しぶりです。いつも春香がお世話になってます。」
礼儀のいい精霊だこと。それに比べて俺の精霊は……。現在魔力大量消費により爆睡中。当分起きないな。
「……ライム、今日は特別。ちゃんと挨拶しなさい。」
真冬も水の精霊、犬の姿をしたライムを呼び出した。
「みなみなさまー‼︎お久しぶりだZEI!というか何気に君と君は初めて会う気がするZEI!俺の名はライム。よろしくだZEI。」
そう言ってライムは俺と美希を指?足?で指した。
「確かに……真冬の精霊は初めて見るな。なんか予想してたのと全然違うな。とりあえずよろしくな。」
「よ、よろしくお願いします。」
「ライム、もういいわ。戻りなさい。」
「は、早くないか?まぁいいけど。俺も呼びたいとこだけど、あいにく爆睡中だ。当分起きそうにない。」と狐のストラップをぷらぷらとさせた。
すると真冬が、
「今井さんは精霊、宿してるの?」と聞いた。
「いえ、まだです。春やみなさんが羨ましいです。」
「いや、多分俺たちは珍しい方じゃないかな?別に焦る必要なんかねぇよ。自分の力を信じて努力してればいつか精霊が答えてくれる。」
「……は、はい。ありがとう……ございます。」
あれ?泣いてる?なんで……俺なんかしたか?
「美希……、そ、そうだ。ご飯食べましょ。というか皆さんのご飯分け合って食べましょ。」
「唐突ね。けど、確かにそれ面白そうね。私は今井さん、美希さんの卵焼き、食べてみたいわ。」と真冬が言うと、今井さんは顔を上げた。
「はい、私のでよければどうぞ。」
「ありがと。私はこれあげる。」
……やばい。なんかぼっち感。けど、誰かを支える時はやっぱり女子の方がとても頼りになる気がする。
「そろそろ俺も食べるか。いただき……。」
いただきます。そう言いかけた時、春香が急に立ち上がった。
「アイさん、風の流れがちょっと変わった。」
「うん、そうだね。アルファ都市の方。明らかに風の魔力の介入のせい。」
風の流れ?魔力?
「なに……あれ?」今井さんは手に口をあて、少しだけ恐怖に引きつった顔をしていた。
その方角はアルファ都市の中心。
何かおかしいことに気づき、俺と真冬もその方を向く。
「……確かに、普通の風じゃないな。」
すると、学園中に放送が入った。
「みなさん、アルファ都市の中央付近で突如竜巻とが発生しました。外にいる学生は速やかに中に入って指示を待ってください。」
竜巻?あんなものが竜巻なわけがない。あれは……剣だ。剣が地面に向かって刺さっている。
そしてもう一つ、最悪なことに気づいた。
「あの場所……まさか⁉︎」
「どうしたんですか、しゅう先輩?」
「狙われたのは、特務部隊本部‼︎」
赤城さん……。
「イグニ、起きろ!行くぞ!」
狐のストラップをぶんぶんと回すと流石に起きた。
「おぇ、吐きそう。なにしやがる。って何だこの気持ち悪い魔力。」
「その根源を調べに行くぞ。」
「私も行くわ。」真冬は俺の前に立った。
「私も行きます、しゅう先輩。」
「お前ら……。いや、俺だけで……。」真冬の後ろに白い光が降る。
俺の行く手を阻むように。
「みんな行かせないわよ。もちろん秋翔くん、あなたもね。」
こういう時、ちゃんと仕事してくれないで欲しかったな。
「吹雪先生……。」
3,〜それぞれの想い・前編〜
ちょっと前まではこんな事になるなんて思ってもいなかった。吹雪先生も同じだろうけど。
「吹雪先生、あそこは特務部隊の本部がある所です。……赤城さんがいます。」
「それが何か?放送であった通り、あなたたちは教室に待機していてください。私たち教師が動きますから安心してください。」
確かに吹雪先生や武精学園の先生が現場に行くとなれば想定外のことがない限り大丈夫だろう。
「学園長、あの魔法は最上級魔法の一つ、風神の剣。生半可な精霊使いが使える魔法じゃありません。」
真冬は落ち着いた声でそう言った。
「その通りよ。流石は私の娘。だから尚更行かせたくないのよ。」
真冬が魔力を解放するのが分かった。
「やめておきなさい。私には勝てないわ。」吹雪先生はそれだけ言うとアルファ都市に巻き起こる風を見た。
「しゅう先輩、行ってください。」
「春香?」
春香も魔力を解放し、吹雪先生の後ろに立った。
「1人じゃだめでも2人でなら。」
「……まったく。やっぱりこうなっちゃうのね。言っておくけど手は抜かないわよ。」
吹雪先生から俺たちに向けて殺気や魔力とはまた違う何かが発せられている。
「春、やめておいた方がいいよ。なんでそんなに秋翔先輩を危険なところに行かせようとしてるの?」
美希は不安そうに春の手を掴んだ。
危険なところか。確かにその通りだ。けど、あの魔力はイグニのいった通り、気持ちの悪い魔力だ。
そして、どこか懐かしい魔力。
春香も真冬も気づいてる。そしておそらく吹雪先生も。
「あの魔法の発動者は、夏音。ですよね?吹雪先生。」
吹雪先生は何も言わず、俺達の方を見ていた。
「俺があそこに行って、夏音を説得すればそれまでです。」
「もう夏音さんは既にいないと思うわ。行ってもなんの意味もない。」
「あります。何か夏音の居場所を知る手がかりがあるかもしれません。それに、赤城さんやあそこにいた人たちも心配です。」
「だから、それは私たちがやると言ってるでしょう。いい加減にしなさい。」
このままだと埒があかない。
「だから行きなさいと言ってるでしょ。しゅうと。あなたは馬鹿なんだから馬鹿なりに自分の目で確認しなさい。」
「しゅう先輩、必ず私たちも後から追います。だから、今は急いで。夏音先輩の手がかりを一つでも多く。」
真冬、春香。ありがとう。
「イグニ、紅翼。」
紅い翼を広げ、アルファ都市中心を向く。
「行かせると思う?アルファ。」
首にかけていた鷹のネックレスが光る。
「ライム、特訓の成果を見せるわよ。」
「アイさん、よろしくお願いします。」
美希はその場に立ち尽くしていた。
無理もないか。
「頼んだぜ、2人とも。」
全速力で吹雪先生の上を通過する。
「光の羽。」無数の光の羽が俺を追ってくる。
「氷飛斬。」
全ての羽を氷の刃が断ち斬った。
「学園長、あなたの相手は私たちです。」
ーーー「真冬、春香さん。本気なのね。」
一瞬でも気を抜いたら負ける。全身の感覚を研ぎ澄ませる。
「春香、相手は精霊使い第3位。多分私たちがいくら強くなったとはいえ勝てる可能性なんてほぼ0%。」
「それは、学園長が本気を出したらの話です。ここは学園内。私の力の一部は、この学園を壊す心配はありません。」
真冬先輩も今の意味で分かってくれたみたい。
足をしっかりと地面につけ、力を込める。
「行きます、天神の目Ⅳ。超加速。」
思いっきり踏み込み、一瞬で吹雪の真後ろについた。ちゃんと天神の目で速度に追いついていけているおかげで目への負担も少ない。
背後に回れば学園長も行動が少し遅れるはず。超加速の攻撃に追いつくのは不可能。
「いきなり超加速に行くのね。確かに少しは成長したみたいね。光の太陽。」
突如目の前に光が発生し、目の前が真っ白になる。
「うっ……目が。」開けられない。これじゃあ私が今どこにいるか、学園長がどこにいるか分からない。
「まだまだ足りないわ。」
耳元でそう囁かれた。
その次の瞬間、胸の下を蹴られたような感覚があり、少し飛ばされて床に転がり倒れた。
「春‼︎大丈夫⁉︎」
美希の声がする。でも、目を開けられない。分からない。
少し遠くで何かぶつかっている音がする。
おそらく学園長と真冬先輩が戦ってるんだ。私も……。
「春、だめ。ここでじっとしてて。春たちは間違ってるよ。お願いだからこれ以上傷つかないで。」
泣いてるのがすぐに分かった。必死に目を開けようとするけど、やっぱり目の前がチカチカしてしばらくは開けられそうにない。
これが実力の差。手も足も出ない。
それに友達まで泣かせた。最低だ、私。
「ごめんね、美希。本当はこんなつもりじゃなかったんだけど。楽しく、みんなで笑いながらご飯食べたかったのに。 けど、もう後悔しないと決めたんの、美希。いつまでも後悔してたらそれこそまた後悔しちゃう。」
私はそんなの嫌だ。
「美希、ごめん。もう少しだけ待って。すぐに、また楽しく話そう。」
「うっ、きゃあっ!」
真冬先輩の声が聞こえた。やっぱり1人じゃ勝てない。
「アイさん、今どんな状況か分かる?」
「うん、真冬さんが圧倒的に押されてるよ。」
「ごめん、聞き方間違えた。私が今いる場所と、この屋上の見取り図、教えて。」
これしかない。
ーーーやっぱり無理があった。春香が戦えなくなった今、ライムと私で二手に分かれて戦ってたつもりだったけど、隙が全くない。全く生まれない。
「どう?諦める気になった?」
母さんは息一つ乱れてない。けど、まだ諦められない。敵意の目を向ける。
「そう。分かったわ。気がすむまでかかってきなさい。」
やっぱりおかしい。
「………どうして母さんは、学園長はあそこへ急いで向かおうとしてないの?」
「あなたたちを行かせないため。」
「なら私たちを気絶させるなりして他の先生に監視してもらえばいい。しゅうとを追わないのも気になってた。まるで私たちを試してるみたい。」
もしそうだとしたら、これは。
「真冬先輩、離れててください!」
その声を聞き、私は咄嗟に学園長から距離をとった。
「春香、真冬さんは学園長から約2メートル後方へ下がったわ。ここから学園長までの距離、およそ約6.5メートル。後ろが柵だから気をつけて。」
「了解です。」
春香はそう言って足を力強く地面につけ、踏み込んだ。
まさか、春香はアイからもらった情報のみで学園長の位置を確認してるていうの?
「真純ったらこんな事を春香さんに教えたのね。しかもそれを完璧にこなす子もすごい。」
学園長は少し左にずれ、春香を撃つ構えをとった。
「春香、学園長は24度左へずれたわ。角度調整しっかりね。それからこっちを見てるから攻撃にも対応できるように。」
「了解。」
春香も成長していると実感させられた。いきなり超加速まで使ったり、目を開けられない状態でも精霊と力を合わせて立ち向かう姿。
でもそれは、あなただけじゃない。
「雲雀ったらいい事するじゃない。」学園長がそう呟いた。
春香は踏み込んで学園長の元へと近づく。
「光墓場。」
春香の前に突如、光の穴?のようなものが出現した。
「これに入ったら私が許可するまで出ることのできない光の狭間に閉じ込められる。今のあなたのスピードでは回避できないわよ。」
「春香、これちょっとやばいかも。」
「……アイさん、私は1人で戦ってるんじゃありません。私は信じてます。初速。」
チャンスは一度きり。お願いします、真冬先輩!
「ちょっと寒くなるけど我慢しなさいよ。氷場。」真冬先輩は剣先を地面につけると、そこから氷の膜が張り巡らされ、一瞬で屋上はスケートリンク場のようになった。
「これで学園長の光墓場は効きません。」
「そうね、でもあなたの得意とするスピードも出せないんじゃない?」
「地面以外で走ればいいだけです。天駆羽。」上にジャンプし、空を駆ける。
「加速。真冬先輩、少し時間稼ぎお願いします。」
「無茶言うわね。まぁいいわ、頑張ってみる。氷影。」
真冬先輩と学園長が再びぶつかり合った。
「氷影、あなたの得意とする魔法の一つね。けどその魔法は私には通用しないわよ?」
「はい、これは私の分身でしかないです。氷影Ⅱ。」真冬先輩そっくりの分身が何体も造られている。
「真冬先輩、もう少し……、超加速。」
「無駄よ、いくらそんな動かない人形ごときに騙される私じゃないわよ。光球。
」学園長は光の球体を造り出し、氷影へと放った。
氷影は粉々に砕け散った。光の球体はそのまま別の氷影を砕く。
「操作可能魔法の一つよ。覚えておきなさい。いつかはあなたに当たるわよ、真冬。」
「いいえ、当たりません。氷罠束。春香、私もあなたを信じてるわ。」
「はい、真冬先輩!最高速。」
もうしっかりと見えるまで回復した。これなら、
真冬先輩に向かう光の球体を一瞬で叩き斬った。
ーーー やっぱり超加速とは全然違うな〜。
「アイさん、天神目Ⅳ。これなら完全にコントロールできます。」
「来なさい、春香さん。あなたの全力を私にぶつけなさい。」
さっきは真後ろに飛んで光の太陽を受けた。
真正面に一瞬で入って……違う、それでもおそらく何か仕掛けてある。
「春香、あなたは私を信じてるんでしょ。ちゃんと考えなさい。」
………真冬先輩。そっか、氷罠束。
どこかに仕掛けてある。どこ?真冬先輩が仕掛けそうな場所。
あそこしかない。
「学園長、私の新必殺技で倒れてもらいます。」空中を走り、学園長の遥か上空に立つ。
「新必殺技ねぇ、最高速で新必殺技の重ね掛け。ちょっと危なそうだからその技を出す前に終わらせてあげる。光翼。」
こちらに向かって飛んでくる。
すると、学園長の周りに突如術式が現れ、氷の鎖が学園長の手を拘束した。
「どうしてこんなところに……。」
「真冬先輩が仕掛けてたんです。地面ではなく、空中に。」
真冬先輩に手を振る。
「あーぁ、負けちゃった。すごいわねあなたたち。ここまで出来るようになるなんて思ってもいなかったわ。」
学園長はいつもの明るい笑顔でそういった。
すると、氷の鎖は解け、いつの間にか屋上の氷も溶けていた。
私と学園長はゆっくりと降りると、真冬先輩が言った。
「本気って、あなたの本気は4割出すことですか?」
……え?
「いやいや、5割くらい出してたわよ。流石に危なかったから。」
「ど、どういう事ですか?私たちを止めるなら最初から全力で止めてるんじゃなかったんですか?それに、それならしゅう先輩を止める事も簡単だったんじゃ……?」
学園長は私の口に手を添えた。
「落ち着きなさい。確かに出来ればしゅうとくんには行って欲しくなかったけど、遅かれ早かれどうせ知らなければいけない事だしと思ってね。あなたたちの力を試すことを優先させてもらったわ。」
試すって、どうして?
「私たちを試す意味、それってもしかして夏音さんに関わること、ですか?」
「そうよ。それに、悪魔とも関係してる。」
悪魔……。
「これから、あなたたちが1年間特訓してもらっている間に得た夏音さんに関することを話すわ。」
学園長がそう言うと、いきなり屋上のドアが開いて、副学園長が現れた。
「学園長、大変です!」とても焦った表情をしていてただ事ではないとすぐに分かった。
「何があったの?」
「それが……、新入生の1組、天津風音、2組、児玉氷架、そして3組の山崎炎真の3名が学園のどこを探してもいません。」
「それは、ちょっとやばいかもね。」
改めまして作者の伊藤睡蓮です。やっぱりこの人が来ないと今回Sauvenileとサブタイトル的なものをつけた意味が無いですね。夏音の登場です( ´ ω ` *)
今後彼女がどう動いていくのか要注意。
他にもどんどん新旧キャラ登場予定なのでお楽しみに。
それではまた!