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精霊剣士の物語〜Sauvenile〜  作者: 伊藤睡蓮
精霊剣士の物語〜Sauvenile〜
16/23

精霊剣士の物語〜sauvenile〜其の拾陸

大変お久しぶりです。作者の伊藤睡蓮です。まさかこんなに遅くなってしまうとは自分でも驚きです。これからも、多分また顔を出す機会が少ないと思いますが、投稿はしていきますので、お待ちいただけると幸いです。


それでは続きをとうぞ

其の拾陸

28,〜要塞学園γ(フォートルガンマ)〜


「拡張術式展開、要塞学園γ(フォートルガンマ)。」

花蓮ちゃんはそう言っていた。そんな魔法は聞いたことがない。一体どんな魔法なの?


「花蓮ちゃん。こんな規模の術式よく展開出来たね。ほんとにすごすぎ。」

花蓮ちゃんは2度目の褒め言葉を言われると、ある意味今までの自分を思い出したのか、急に顔を少し赤らめてこう言った。

「実際にはこの術式は既に展開可能だったというか、襲撃者用に雲雀学園長に言われていたので。時間を稼いでもらっていたのは、あくまでも生徒や先生方が避難できるまでの時間です。本当にすみません。」


ペコペコと再び頭を下げだした。

この子って一体何者?雲雀学園長は花蓮ちゃんのこの力について知っているのよね?だとしたら雲雀学園長に聞けば何か分かるかもしれないけど。


「だーかーらー、いいのよそんなに謝らなくていいって。というかさっきその作戦は直接聞いてたし。まぁ、私もこのままやられっぱなしじゃ癪だから、バックアップぐらいはさせてもらうわね。」


「はい。」花蓮ちゃんは少し笑って頷いた。


「お話し合いは終わりか?そろそろ退屈になってきたぞ。」

ガハナは黒き炎を手に宿している。いつでも攻撃できたぞ、と相も変わらずの余裕っぷり。


「別に待ってなんて言ってなかったけどね!…………普通に疑問なんだけど、どうして攻撃しなかったの?」

率直な疑問。普通に攻撃してもおかしくないよね。これって。


「私の命令はお前達を倒すことではなく、あくまでもこの学園を潰すこと。まぁ、お前達は単なるお遊びに過ぎないという事だ。少しは本気を出してしまったが、やはり所詮はあの程度………今のこの術式も、所詮は子供の浅知恵だろう。」ガバナはそう言ってニヤリと笑う。


花蓮ちゃんはそんなガバナを見て表情が変わった。と同時に右足を軽く上げてその場に下ろす。まるでその場で足踏みをしたかのように。


その瞬間、ガバナの頭上に何かの術式が展開される。


「複合術式発動。雷炎風槍(トリニティランス)Ⅴ。そこの悪魔!"この子"を馬鹿にするな!」


なにあの魔法!?炎属性に風属性、それに雷?3つの属性の槍が降り注いでる。ガバナも咄嗟に避ける。しかし、避けた足元に別の術式が複数展開されている。


っていうか今この子って言ってなかった?


「罠術式発動、連鎖爆裂(チェインクラスター)。絶対に後悔させてやる。」順番に足元が爆発していく。

煙の中からガバナは飛び出して私たちの方へと向かってくる。


「どういう理屈か分からんが、貴様が危険な存在だということは理解した。」目の色が明らかに変わってる。確実に倒すつもりだ。


炎魔獅子(フーフェルレオール)Ⅴ!これが私の隠し玉!止めれるものなら………。」


「多層術式発動。全属性壁(フルミュール)Ⅹ。"花蓮"が最初に言ったはずよ?」

黒き炎の獅子が放たれると同時に、それらは様々な壁に阻まれている。


「ばかな………貴様、何者だ!?ここまでの力はありえない!これは、精霊使いの中でも………いや、そんな馬鹿な!さっきまでは……。」

ガバナはまた先程までとは明らかに違う表情を浮かべている。


「勝手に移らないでよ………。ガバナ、これが子供の浅知恵だと言うのなら、あなたはその知恵に負ける。」


「………"アテナ"、決めるよ。」


「そうだね。ワタシも花蓮が馬鹿にされるのは見てられなかったからつい"移っちゃってごめんね"。」


「もしかして、精霊が憑依してるの?花蓮ちゃん?」

黙って花蓮ちゃんは頷いた。その瞳は、いつもと変わらない青い瞳だったけれど、もう片方の瞳は、光のような黄色の瞳だった。


「零架先生………その………。」

花蓮ちゃんは少し下を向く。俯いた頭をポンと叩く。

「話は後でも出来るでしょ?私は花蓮ちゃんを信じるよ。光槍(ラーランツェ)Ⅴ。」

光の槍をガバナに放つ。


「今さらその程度の攻撃、痛くもかゆくもない。」


「あっそ。だったらこういうのはどうかしら!瞬時強化(クイックアップ)Ⅱ。」

ガバナに弾かれる直前に魔法の威力を上げる。躱せる距離じゃないから、もちろん防ぐしかない。


「花蓮ちゃん、やるなら今がベストタイミング!」


「はい、零架先生!無双術式発動。神域刃γ(ゴッドリード・ガンマ)!」


ガバナの全方向に術式が展開される。

「なるほど………これは完敗だな。まさかこれほどまでの実力だとは。しかし、私が負けても次の仲間が必ず貴様らを討つだろう。それまでせいぜい足掻くがいい。」


術式からは無数の刃のような白き衝撃が撃ち放たれる。ガバナの身体が黒き光となって消えていく。


「なにこれ………圧倒的すぎてあたしのサポートなくても良かったんじゃないかってレベルでダンチなんですけど………。」

呟くようにそう言うと、花蓮ちゃんは何度も首を横に振って否定した。


「違います!違います!違います‼︎零架先生がいてくれなかったら私はここに来ることも、仮に辿り着けたとしても勝つことは出来なかったです。だから、ありがとうございます!」

なんで私がお礼言われてるの?という率直な疑問はあるけど、それは後からでも聞けそうだから、今は今やるべきことをする。


「花蓮ちゃん、忠誠学園の先生たちに報告してくれる?ガバナを倒したって。私はこれから学園長たちのところにもう一度戻るわ。万が一ってこともなくわないわけだし。」


「それなら私も行きます。すでに先生たちには連絡してあるので。私がこの拡張術式を使った時点で既に何名かの先生はこの学園に戻ってきているかと思いますし。それより、………私に聞くことないんですか?かなり私、隠し事してますよ?」

花蓮ちゃんは申し訳なさそうな顔でこちらを見ている。花蓮ちゃんの手際のよさには驚きです。

「よく分かんないけど、花蓮ちゃん、可愛いから。それに優しいし。」


「理由になってませんよ。」


「そっか。うーん。そりゃ私だって、隠し事の1つや2つや3つや4つ、あるわよ。人ってそんなもんよ。秘密って言っても色々あるし。好きな人とか嫌いな人とか、何回キスしたことあるとか、初めてだとか、誰かの役に立つための秘密………とかね。だから別に気にしなくていいのよ。話したいときに話してくれればいいわ。私はそれで十分よ。私は花蓮ちゃん、それにアテナちゃんも信じてるし。」

花蓮ちゃんは、うっすらと目に涙を浮かべていた。

「ありがとうございます。今はまだ話せませんけど、いつかちゃんと、話します。だから、それまで待っていてくれますか?」


「もっちろん!さて、イプシロンに戻りましょう。みんなのことろに行くわよ。」

花蓮ちゃんは大きく頷いた。


29,〜最悪の序章・sau〜

「なるほどね………。だいたい分かったわ。神崎さん、それに花蓮さんもご苦労さま。」

一通りの話を聞き終わると、雲雀学園長は2人にそう言った。花蓮の精霊についても気になるけど、この子は悪そうな感じもしないし、その内話してくれそうだから今は何も言わないでおいた方がいいな。


零架先生が口を開いた。

「雲雀学園長。北、西、東の学園の状況はさっき聞きましたが、南の刻精(デルタ)学園はどうなっているのですか?」

そういえばさっきは言ってなかったな。


「あ、それなら言わなくていいと思って言ってなかったわね。それに関しては全く問題ないわ。第1位が到着する前にその学園の生徒達が倒してたみたいだから。」


「「…………………。え?」」

全員が驚きを隠せない。

刻精学園にそんなに強い人達がいるのか………確かに優秀だとは聞いてるけど。


「さてと、みんな色々と知りたいのは分かるけど、病院にも着くし、後は検査が終わってからゆっくりと話しましょうね。…………雲雀学園長、少しいいですか?」

神崎先生が雲雀学園長を呼ぶ。その顔はさっきまでの顔とは違ったように見えたが、すぐにいつも通りの顔でこちらを見て微笑んでいた。


ーーー

「雲雀真純学園長。改めて、あの子達を助けていただき、ありがとうございます。」

軽くお辞儀をすると、雲雀学園長はにこりと笑って答えた。

「いいのよ。私の生徒もあなたのおかげで助かっているし。」

私ってほとんど何もしてない気がするけど。


「どちらかというと花蓮ちゃ……花蓮さんがいてくれたのが大きいと思いますよ。」

そう言うと雲雀学園長は首を横に振る。


「それは違うわ。彼女もそんなこと思ってないでしょうし。」

花蓮ちゃんにも似たようなことを言われてた気もする。


「そう………ですかね。あ、そういえばさっき刻精学園の話をしてましたよね?生徒が悪魔を倒したって。」

雲雀学園長は頷いた。

「えぇ。さっき晴明さんからの報告があったわ。それがどうかしたの?」


「いえ、私が聞いてたことと違っていたので、どうしてかな?と。」

不思議そうにこちらを見る雲雀学園長。私も正直不思議といえば不思議。

「私の友達、いえ、私が生徒会長を務めていた時、副会長として一緒にいた生徒からなんですけど、そいつ、少し前まで刻精学園にいたんです。一応逃げるか学園守るか時間稼ぐかしとけって連絡してみたんですけど、"悪魔は来てない"とさっきメールが来たんです。」

雲雀学園長は驚いた表情でこちらを見つめる。

「………神崎さん、少し手伝って欲しいことがあるわ。"私の予想、外れてて欲しいわね"。」

最後に呟くように言った言葉は、どこか嫌な感じがした。


ーーー

「もしもし。こちら雲雀です。はい、とりあえずは検査ということで全員入院中です。かなり傷だらけでしたが、みんな無事です。」

電話越しに聞こえた安堵のため息。


「少しお聞きしたいことがあります。"神谷晴明さん"。」電話越しの相手は精霊使い第1位、神谷晴明(かみやせいめい)


「おやおや、フルネームで呼ぶ必要はないと思うが。雲雀くん。何だね?」


「刻精学園に向かった悪魔を倒したのはあなたの学園の生徒で間違いありませんか?」

電話越しの晴明は少し間を空けてから答えた。


「そうだとも。とても優秀な子達で私も大変嬉しい限りだよ。もちろん中級悪魔に対する術は教えてある。さっきも報告したと思うが………それがどうしたのかね?」

神崎さんから聞いたこと、晴明さんの言っていることはやっぱりそれぞれ違っている。


「私の知っている限りでは、中級とはいえ中々の魔力量、そして技術。確かに刻精学園の生徒は優秀かもしれませんが………。」

私が全てを言い切る前に晴明さんは答える。


「武精学園にも、レオを倒せる生徒や中級悪魔を倒せる子達がいるみたいだね。最近の子供たちは本当にたくましく育っているよ。君の学園からも優秀な子達がいるみたいだね。とてもいい事じゃないか。」


「はい………。そうなのですが、私が疑問に思っていることがあるのです。晴明さん。」

晴明さんの声はいつもと変わらず誰にでも優しいような声だ。


「なにかね?」

言ってしまっていいのか?今、ここで。4学園会議を開き、再び聞くことも出来る。それでも、さっきの彼らの話。それから我々の中に内通者がいるとの話も秋翔くんから聞いた。それも元悪魔刻(デモンシア)のジェミニから聞いたみたいだけど。


「今回何故あなたは自らの学園に向かったのですか?先程の話からしても、中級を倒せる力を持っているとお考えでしたら、そもそも自分の学園よりもイプシロンにいる悪魔刻(デモンシア)の十二星座の2人を倒すべきだったのではと考えたので。」

晴明さんは「ふむ。」と少し考えるような声を口にした。


「なるほど。君の言いたいことは分かった。しかし、いくら中級悪魔に対抗できる生徒がいるとはいえ、私も生徒のことを家族同然に考えている。見捨てるようなことは出来ないさ。」再び穏やかな口調で返してくる。


「そうですか……。実はですね、元武精学園生徒会長の神崎零架さんからある情報をいただいたんです。"悪魔は刻精学園には来ていなかった。"と。」


「・・・・。」何も言葉が返ってこない。


「晴明さんの報告が間違っていると言っているわけではありません。ただ、神崎さんが嘘をつくとも思えないのです。もしかしたら何らかの術式が展開されている可能性もありますし。」


「その言葉に私が同意したところで、君はもはや私が嘘をついていることを知っているんだろう?私が同意してしまえば、"第1位が術式展開されていることに気づかないはずがない"とでも言ってね。」

話し方が変わった………。


「やはり、嘘なんですね。晴明さん。」


「君に質問しよう。どうして刻精学園に向かった悪魔はいなくなったのか?私は君達と結界の中にいたはずだ。」


「悪魔は倒されていません。おそらく、その悪魔には別の命令か何かが下りた。と今のところ考えています。」

電話越しに笑い声が聞こえる。


「そうかそうか。まぁ大体君の言っている通りかな。私の部下に命令して帰ってもらっただけだよ。」


「晴明さん………いや、晴明。あなたは一体何者ですか?何を企んでいるのですか!」

また笑い声だけが聞こえてくる。携帯を持つ手に力が入る。春香さんを、みんなを傷つけた張本人が、のうのうと笑っていることが気に入らない。


「君に答える必要はないよ。真純くん。」

その言葉の後から、電話越しに遠くからもう1人の声が聞こえてきた。


「そうですか、神谷晴明"元"学園長。ならば、私たちに聞かせてくれませんか?」

間に合ったみたいね。吹雪。


「時間稼ぎありがと、雲雀。おかげで発見できたわよ。今から私の位置情報送るから私の学園の生徒に転送させてもらって。」

全て、うまくいった。携帯を耳から遠ざけ、後ろを振り返る。


「炎真くん、風音さん、氷架さん。この位置に転送して。お願い。」


「もちろんです。そのために僕たちが呼ばれたんですから。」

炎真くんは返事をして頷くと、3人が手をつなぎ、光り輝く。


「「「空間転送(ラオード)。」」」

一瞬にして、病院の前から刻精学園の前へと辿り着いた。


「ありがとね、3人とも。」

3人は軽くお辞儀をする。横には吹雪だけでなく、額に汗を浮かべて動揺する忠精学園の霧崎千、そして精霊使い第4位とのジャック・ノワールさんもいた。その後ろには、花蓮さんと神崎先生もいる。


「おやおや、雲雀学園長。お久しぶりです。」深いお辞儀をするジャックさん。


「はい、お久しぶりです。すみません、お忙しいところ来ていただいて。」

パチパチと拍手をして、二人の会話を遮った男は、4人を前にして余裕の表情で立っている。


「いやいや、流石は精霊使いのトップだ。まさかこんな事でバレてしまうとは思ってもいなかった。」

穏やかな口調は変わらずだったが、明らかに雰囲気が今までとは違う。ジャックさんはとても残念そうに口を開いた。

「晴明くん。私を推薦してくれたのは大変嬉しかったが、こんな形で再会はしたくなかったよ。」


「晴明さん………。」千はようやく口を開いた。


「千くん。君はもう用済みだ。"本"もジャックくんによって今は手に入れられそうにない。」どこか怒りのこもった口調にも感じられた。確か忠精学園にあった魔導書は夏音さんが持ってるのよね。


「私はあの子の目を信じただけだよ。霧崎学園長にも伝えてある。彼女が道を間違えているのなら、それを正す者は私ではない。さてと、神谷晴明。君を悪魔との関係、および今回の悪魔の襲撃への関わりを持つ者として拘束させてもらう。」

ジャックさんは手に持つステッキを地面に一度ぶつける。波紋のようなものが広がって学園一帯を包み込む。


「サルーム。今この瞬間、この空間は隔離された。君はもう逃げられないぞ。」


刀のストラップをベルトから取り、握りしめる。一本の刀が手に収まる。

吹雪も長刀を既に手に持っていた。

「晴明さん、あなたには失望しましたよ。もう、二度とあなたを見る事はなくなる。」

千の体の前に歪な槍が現れる。先端が複雑に分かれた槍だ。初めて見た時と感想は変わらない。

「相変わらずその趣味の悪い形変えたら?」

そう言うと、千は恥ずかしいのか顔を少し赤くして答える。

「うるさい!俺だって本当は嫌なんだ!」

千はその槍を乱暴に手にすると、躊躇なく晴明に向けた。気持ちを切り替える早さだけは褒めて上げよう。


千本槍雨(サウスラッシュ)。」

無数の槍が晴明に向かって飛んでいく。


「なるほど。それでは少し遊んで行くか。(ミュール)。」晴明の前に半透明の壁が作り出される。それは槍を全て防ぎきるとすぐに消えた。

流石は第1位ってところかしらね。


ーーーとある病院の病室で6人の怪我人がそれぞれ顔を見つめ合っている。秋翔、春香、真冬、詩織、美希、そしてジェミニ。


「ちょうど6人部屋空いてて良かったな。色々と話ができそうだ。」


「はい。雲雀学園長が交渉してくれたみたいですよ。本当に助かりました。」春香も顔を縦に動かして頷いた。


「私はここにいていいのかしら?いや、もちろん治してくれるのはありがたいし、私から仲間になりたいって言ったけど。一応悪魔なのよ?」ジェミニはさっき俺に言った言葉に似たような事をみんなに尋ねた。


「秋翔が大丈夫って思ったなら多分大丈夫じゃない?まぁ、いつでも斬りかかれる準備はしておいてるから、安心して。」

真冬も最後の発言はおいとくとして、ジェミニのことを仲間だと思ってくれてるみたいだし、大丈夫だろう。

詩織も問題ないな。さっきからジェミニにリンゴをぐいぐいと押し付けるように渡そうとしている。お前も一応怪我人の筈なんだけどな。


問題は、美希かな。さっきから不服そうな表情でジェミニを見ている。ジェミニもそれに気がついたらしく、俺と一瞬目を合わせてから、もう一度美希の方を向いた。


「美希さん、だったかしら?何か私に言いたいことがあるみたいだけど。よければ聞かせてくれない?」

美希は少し驚いたような表情でジェミニを見て、そこからさっきの不服顔にまた戻り、その表情通りの言葉を発した。

「……………。私たちは死にかけました。春は、私をかばいながら3人の悪魔と戦おうとして死にかけました。本当に、本当に。それもあなたの計画だったのですか?」

口調こそ穏やかではあったが、怒ってもいた。


「…………そうね。そうなるわ。完全に私の計算ミス。"本来であればすぐに"学園長が到着出来ていた筈だったわ。ごめんなさい。」ジェミニは美希に、そして春香に深く頭を下げた。

「ジュミニ、今の言葉どういう……」


「謝って済む問題じゃありませんよ。私はあなたを許しません。絶対に。」俺が話終わる前に、美希が静かな口調で言った。


「美希………。」春香もなんて言葉をかけてやればいいか分からず戸惑っているようだった。


それから暫く誰も話すことない部屋。それを最初に切り裂いたのは、

「ふあぁーー。シュウ。飯。」俺の精霊、イグニだった。イグニは棚に置いてあったストラップから形を変え、紅い狐へと変化すると、ベッドで横になっている俺の身体の上に乗って目をこすった。

今、全然そんな空気じゃなかっただろ。と心の中で呟くが、イグニにつられたのか皆んなの精霊たちも現れる。


「真冬、俺も腹減ったzei!ご飯はまだなのか、だzei!」

「あんた、いつもは食べないくせに何でこんな時に………。」ライムは棚の上でお座りする。真冬は呆れたようにため息をつく。


「春、それじゃあ私もお腹空いたわ。えぇ。たったいまね。」

「アイさんまで?戦闘で疲れたからですかね?でも、この間雲雀学園と特訓してた時には」

「春、ご飯。」春香の言葉を遮って精霊アイは無理やりご飯をねだる始末。一体どうなってんだよ。


グゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ。とお腹の鳴る音がする。


「まったく、お腹鳴った精霊はどいつだ。」と冗談混じりに口にする。精霊はそれぞれ互いに目を合わせていたが、誰でもないようだった。


「この子よ、この子。」そう発したのは、美希の上でプカプカと浮かぶ魔道書、アクアだった。すると、再確認とばかりにもう一度お腹を鳴らす美希。


「だ、大丈夫です。お腹なんて全然減ってませんから!」

顔を赤らめる美希。そんな美希にみんな笑い出した。


「もう、美希ったら。あと少ししたらご飯も来るだろうからそれまで我慢だよ。」と春香が少しからかいながら言う。

「リンゴ、食べる?たくさん剥いたから。」

と山のように皿に盛られた皮の剥かれたリンゴを差し出す詩織。

「生理現象だから、仕方ないわ。」と真冬がさらりと言う。さらに顔が赤くなる美希。

「アクアさん、何で言っちゃうんですか。」


「ごめんごめん。恥ずかしがるあなたが見たくなっただけよ。」魔道書のアクアはクスクスと笑う。


「リンゴ、いただきます。」と少し膨れた顔で詩織の持つリンゴへと手を出そうとする。が、届きそうにない。すると、1つのリンゴがプカプカと浮かんで美希の手元へと近づいて、落ちた。美希は不思議そうに周りを見渡し、あるところで視点が定まったように、見つめていた。ジェミニか。


ジェミニは片方の手を開いて美希の元へと向けていた。どうやらジェミニが魔法を使って浮かせてリンゴを運んだようだった。


「あ、ありがとう。」

美希は少しためらいながらもお礼を言う。


「どういたしまして。」とジェミニは少し笑いながら答える。ジェミニなりに少しでも美希と仲良くなろうと頑張ってる。美希も少しは分かってくれてるかな?と考えていると、

アクアが美希の頭の上から目の前に前に移動した。「美希。ジェミニだけじゃなく、私からも謝っておこうかしらね。」魔道書が少し傾く。


「ど、どうしてアクアさんが謝るんですか?」美希だけでなく、春香も不思議そうな顔をしていた。


「私は、あなたと契約を一時的に交わし、あなたに力を貸した。それに関しては私は間違っていないと思ってる。」美希も頷く。


「けど、私がもっと考えられていれば、あそこで増援が来ることが分かっていたら、2人があそこまで恐い思いをする事にはならなかったはずだから。ごめんなさい。」

慌てて首を振る美希。


「違うよ、アクアさんは悪くないよ。アクアさんは一生懸命頑張ってくれて、春も頑張ってくれた。私が力不足だっただけだよ。」


「頑張ったっていうのは、それは美希にも言えることなんじゃないか?ここにいるみんなが頑張って戦ったからこそ、こうやってみんなで話せてる。もちろんジェミニもな。」

ジェミニを見ると、微笑みながらこちらを見ているジェミニがいた。ちょっと恥ずかしいなこれ。と考えていると、春香が口を開いた。

「しゅう先輩の言う通りです。誰か1人でも欠けてたらきっと勝てなかったと思います。私も美希に助けられて、アクアさんにも助けられた。そして、雲雀学園長にも。みんなが支えて、守ってくれたから今、私がここにいられる。と私も思いますよ。」

春香は最後まで言い終わると、笑顔で2人を見つめた。


「春、ありがとう。アクアさんもしゅうと先輩もありがとうございます。」ぺこりと頭を下げる美希。

そして、次にジェミニの方を向いた。

「ジェミニ………。」


ジェミニも名前を呼ばれて、美希の方に身体を向ける。

「やっぱり、私はあなたを許すことは出来ません。」

美希は真っ直ぐな瞳で、ジェミニを見て、そう言った。


ジェミニは何も言わず、ただ頷いた。

「春を傷つけたこと、先輩たちを傷つけたこと。それは紛れもなくあなたのせいです。」

また頷く。

「だから私は許しません。でも………先輩たちを守ってくれた。そ、そ、そこに関しては………あ、ありがとう。」

少し頬を赤くして俯く美希。その言葉にジェミニは少し驚き、しばらくして微笑んだ。

「美希さん。ありがとね。」

グゥゥゥゥゥ。美希のお腹がもう一度鳴った。みんながその音に笑った。


「わ、わらわないでください!本当にお腹減ってるんですから仕方ないじゃないですか!」


そっとリンゴを2つ渡すジェミニ。顔を見るとクスクスと笑っていた。


「ジェミニ、あなただけは絶対にゆるさないからーーー!」顔を真っ赤にして照れる美希がどこか嬉しそうに見えた。


ドタッガタッバタッ!!

突然、廊下の方で何かが落ちる音がする。

「なんの音?ご飯にしては早いような気もするけど。」

廊下が騒がしい。看護師の慌てている声も聞こえる。

ベッドから起き上がり、ゆっくりと入口へと近寄り、扉を開く。そこには数人の患者と、床に倒れた5人の姿があった。


その顔は、誰もが知っている顔だ。


「神崎先生!花蓮!炎真、風音、氷架!」

慌てて、ベッドから起き上がり、神崎先生と春香の友達、花蓮の元へと走り寄る。近くで見ると服がボロボロでその服には血もついていた。


「真冬、ナースコール!」


「もう押したわ!じきに看護師さんが来る。それより、どういうこと?どうして神崎先生が……」

近くにいた男性が見ていたようで、俺たちに近づい来る。

「急に天井に穴が空いたと思ったらこの子達が降ってきたんだよ。」と答えた。

炎真たちが転送魔法で飛んで来たという所までは分かった。けど、どうして?


春香が慌てて駆け寄る。

「花蓮ちゃん!しっかりして、花蓮ちゃん!」

花蓮は眠ったように横になっている。


「……春。大丈夫。これ、私たちの血じゃないから。」

そう言葉に出したのは花蓮だった。今春香が抱きついたことで目が覚めたらしい。


「何があった?」

少し前までは俺たちと一緒にいて、それから雲雀学園長と何かを話していた。その事に関係しているのか?


花蓮は俺たちを見て、言葉に発するか少し迷い顔を逸らす。しばらく考え込むと、再び俺たちを見て言った。


「………学園長たちが危ない。」

改めまして作者の伊藤睡蓮です。

チーム192、なんとか無事に一難乗り越えることが出来ました。もう少しでsauvenileの方は終わりを迎えますが、まだまだ精霊剣士の物語は続きますので、そちらもぜひ見ていただけるとありがたいです。


twitterなどでも告知はするので、そちらも確認して頂けるとわかりやすいかもです。@suiren110133


それではまた!

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