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最終話

私と先生とピャーチに大小姉と女神様。

私達は揃って女神様の空間で、テーブルを囲んで寛いでいる。

虹玉を使った交信では、今ひとつ音声が聞き取りにくいらしく、「特別だよ」なんて言いながら、その場に居合わせた全員が招かれた。


「あっ…しまった…キングさん誘うの忘れてた…」


私が溢した一言に女神様はキョトンとするが、大小姉は互いに顔を見合わせて、気まずそうな顔を私に向けると、一緒に謝ろうと誓い合う。



「えっと…それじゃぁ先に、女神様が先程言われてたことを詳しく聞かせてもらえますか?」


なんせ相手は神様だ。すぐにでも隊長たちのことをお願いしたい気持ちをグッと堪えて、先ずは相手の話を聞くことにする。



女神様の言う困ったこととはこうだった。

事の起こりは私がこの世界に紛れ込んだ時まで遡る。

私が世界を渡る原因と成った神様たちの酒宴。

そこに参加していた、私が元いた世界の神様とその飲み友達の二人は、酔った勢いそのままに、私に試練を与えようと言う話で盛り上がりだす。

何でいきなりそんな話に成るのかと言うところだけど…なんでもその神様たち、神々の中でもトップ3の試練マニア?だそうで…私が居た世界の神様に至っては、「ワシが与える天災よりも、奴らが引き起こす人災のほうがデカくてつまらん…」何ていうのが最近の口癖だったらしい………。

仮に趣味が試練だったとしても、私個人にというのは腑に落ちない……



「つまりは、これから大地震とか、大洪水とかが起こるってことですか?!」


神様の試練と聞いて、誰でもが思い浮かぶであろう懸念を訪ねてみたが、そういう類ではないらしい。

この世界への干渉の痕跡を調べた所、一部の人間への精神干渉、スキルの貸与などが疑われるそうだ。私の身近な人間で、急に人柄が変わった者や、好戦的に成ったものが居ないか尋ねられたが、これと言って該当する者は思い浮かばない。


「あの王が当てはまるかも知れないねぇ…」


大姉がポツリと溢す。

元々愚かな王では有ったらしいけど、内に強く外に弱い。そんな性格だったあの王が、自ら開戦を望むことに違和感があり、国の最大戦力だった隊長を処刑するなんて事は、例え目の前で侮辱されようとも言い出す勇気を持てる人物ではなかったと当時を振り返る。

そして王城に居た、死を恐れない異様な兵士の行動も、王に与えられた何らかのスキルの力だとする方が納得がいく。


[ひょっとして、私とトーコを間違えたのもわざとだったかも知れませんね。]


そんな、先生の空恐ろしい言葉を聞いた女神様は、否定する事はできないと言っていた。



「仮に、あの王が干渉された一人だとして…他にも居る可能性はあるのでしょうか?」


そんな小姉の問に対しては、少なくとも10人近い人物への干渉の痕跡が有ると女神様は頭を抱え、今後は常にその可能性を念頭に置いて行動してほしいと私達に注意した。


「その…対応はしてあるということでしたけど、改善の目処は立ってるんですか?正直言ってあまり期間が長いと、疑心暗鬼に成って人間不信に陥りそうで…」


おずおずと手を上げて女神様に聞いてみる。


「私達の世界にも警察みたいな組織が有ってね、今回の件は重大なルール違反だから、彼奴等はすぐに罰されると思う。そうなれば私も修復に手を出せる様になるから安心して欲しいんだけど、問題は時間なんだよね…」


「結構掛かるんですか?」


「う~ん…移動や調査や逮捕や審議、そんな手順を全部ひっくるめたら、早くて二週間ってところなんだけどね…」


どうせ干渉を受けているのはそれなり以上の力や権力の有る者たちだろうから、1日も早くもとに戻してほしいのは間違いないが、二週間位なら何とでもなりそうだ。だと言うのに等の女神様はどうにもイマイチ歯切れが悪い。


「…実は、そっちの世界とこっちの世界では時間の流れが違うんだよね…大体そっちの一ヶ月がこっちの1日くらい…」


「えぇぇぇ!1年以上って、それはあかんでしょ!!!それ下手したら、国の1個や2個滅んでしまいますよ?!」


思わず机を叩いて立ち上がってしまう。

前回みたいな命がけの戦いを、何度もしなきゃならない可能性が有るとか勘弁してほしい。

それだけじゃない、あの騒動で一体どれだけの人が命を失ったことか…私が命を奪った人達も酔狂で操られていただけなのかと思ったら……

申し訳なさげにしている女神様を見る目にも力がこもってしまう。


「………まぁ、まぁトーコちゃん。女神様も出来る限りの努力はされているのでしょうから、そこは何とか私達で頑張ましょ」


そんな私を小姉が優しく微笑んで止めた。


「う、うん…それは分かってるんやけどね…小姉がそう言うなら……」


一番の被害者である小姉に止められたら、私にはこれ以上何も言えなかった。


「………女神様。一つお伺いしたいのですがよろしいでしょうか?」


小姉は小さく息を飲み込むと、笑顔を一転させ、真剣な面持ちで女神様を見つめて言った。

その気迫に押されたのか、息を呑みこんで小さく頷く女神様を見て小姉は続ける。


「今回の件で命を落とした者たちの……蘇生は叶いますでしょうか…」


「……………」


皆は、沈黙する女神様に視線を集め、一斉にゴクリとツバを飲み込んだ。


「……………申し訳ありません。それは重大なルール違反の一つに成りますので、叶えることは出来ません…」


「ッ…………」


小姉は、両手で顔を覆うとそのまま静かに顔を伏せ、大姉は、脱力するように深く椅子にもたれ掛かかり天を仰いだ。

私は、また勢いよく立ち上がり、吐き出せない思いを懸命に飲み込んで、ピャーチの胸に飛び込んで静かに泣いた。


誰も次の言葉を発することが出来ない、ピャーチの心音だけが私の耳に聞こえてくる。


[今回の犯人が捕まった後であっても、修復することは叶いませんか?]


そんな沈黙を打ち破り、実体化している先生が口を開いた。


「ごめんね。修復と言っても、その時悪影響を受けている物を正しく戻すことしか出来ないの」


[しかし、私の中にある全知の情報によると、著しい干渉を受けた場合世界再構築を認めると有るのですが?世界の再構築が可能ならその途中の過程まで巻き戻すことも出来るのではないですか?]


「え?嘘??なにそれ???ちょっとまってね!」


先生の言葉に、取り乱した女神様の声。

パラパラと紙をめくるような音が聞こえる。


「有った!これだ!!えーっとなになに……ふんふん……成る程……………」


”バンッ!”


激しく机を叩きつける音に、皆が一斉に女神様を注目する。


「行けるよ先生!これだったら何とでも言えるから大丈夫!!」


立ち上がった女神様はそう言って、机の上のひっくり返ったティーセットなんか気にもせず、先生の手を掴みブンブンと上下に振っている。


「ちょっと待った!先生どういう事?!!!」


先生達がなにか話しているのは聞いてたが、それどころじゃなかったのであまり頭に入っていない。先生の手を掴む女神様を引っ剥がして、先生の両肩を掴む。


[時間を巻き戻すんですよ、神々の干渉にまだ何の被害が出ていなかった所まで]


「え?巻き戻すってどこまで?!隊長達が生きてる時まで?!!」


「よし、それじゃぁ早速行くよ!!!」


未だ事態を飲み込めていない私を余所に、女神様は飛び跳ねながら早速行くよと両手を上げる。


「ちょ!ちょっと待った!!」


「大丈夫だよトーコちゃん!干渉を受けると分かってれば防ぐことは簡単だから!もう彼奴等には何にもさせないよ!」


待ったをかける私に向かって、女神様は軽やかにウィンクを返した。


「ちゃう!そうじゃなくて~~~~~~」


必死の叫びも虚しく、私の意識は一瞬にして暗転した。








”ガサガサガサ”


枝葉が擦れる音に目を覚ます。

目に飛び込んできた、森の景色になんとも言えない懐かしさを感じる。


(あぁ~ここか…)


森なんてどこでも似通った物のはずなのに、何故かこの場所が何処なのか一瞬で理解することが出来た。


犬 、

デカイ、

生意気に四足で立っている、

その癖私より大きい。

涎だらだら垂れている、

空腹です!そんな思いが言葉の壁を超えて伝わってくる。


以前は身を隠していた私だけど、今は堂々仁王立ちだ…


「ここからかいなぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」


渾身の思いを込めて言葉に乗せる。

私の突然の叫びに、犬が一瞬ビクッと成ったのを見て一気に走り出す!


(昔の私とは違うんや、お前なんか一瞬で振り切ったる!)


大姉の厳しい訓練を乗り越えた記憶が私に自信を与える。

100メートルだって7秒を切れるだろう。

1.500メートルだって1分30秒で走れるかも知れない。

肉食動物の瞬発力がなんだ、あの頃の私で逃げ切れたんだ、今の私なら鼻歌交じりで逃げてやる!


ゾクッと背後から殺気を感じて反射的に身体を捻った。


(熱っ!)っと頬に感じた瞬間、鋭利な爪を付けた巨大な犬の手が、ズバーンと激しい音を立てて地面をえぐる。


(全然距離開いてないやん、どういうことなん?!)


爪での攻撃を空振りした犬が、少しバランスを崩したので僅かな距離が開いたが、気配を探るとみるみる距離が縮まってくる。


[時間が巻戻ってるんですから当然身体能力も当時のものですよ]


「先生!!!!」


[ほら、声出して余裕はありませんよ、右に避けて]


”ズバーン”


[ほら走って走って、もっと必死に逃げないと逃げ切れませんよ。ハイ、しゃがむ!]


”ブオン!”


[ちょっと効率よく逃げすぎましたね…予定より早いので少し迂回しましょうか]


(迂回ってなんやそれ!!)


[もう少し左です。そうそこ、そのままジャンプ!]



渾身の力で崖を飛ぶ。

見渡す限りの砂浜と、エメラルドグリーンの海がとても綺麗だ。

緊張もなく、極々自然に自由落下に身を任せると、やがて身体がフワリと浮いた。


「トーコちゃん!!!」


「小姉!!!!!」


聞こえた小姉の声に振り返り、目にした小姉の姿に涙が溢れた。


(良かった、小姉も記憶残ってて…)


例え記憶が残って無くても、小姉は小姉だから問題ないんだけど、やっぱりこの喜びを分かち合える人が居ると居ないでは大きく違う。

ホッとした瞬間、身体の浮力がなくなり一気に落ちる。


「えっ?!ちょ!わーーーーーーーーー」


”ズドーン”…………………


8メートル程の自由落下の末、鈍い音共に砂浜に落下した私は、悶えることも出来ない痛みに息が止まる。


「ごめんね、トーコちゃん。ここで落ちたときに先生の意識が芽生えたって言ってたから落としてみたんだけど…………大丈夫?」


小姉はそう言いながら回復魔法をかけてくれる。


「……あ、有難う……先生はもういるから大丈夫や………ただ小姉……今回落とす高さ…高すぎや………」


1年と1ヶ月、ようやく完結を迎えることになりました。

鈍亀更新にも関わらず、気長に見守っていただいた皆様には感謝の気持ちで一杯です。

貴重な時間を割いて読んで下さった皆様、ありがとうございました。


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