苛立った
遠距離からの狙撃で女性像の四肢を砕くと、直ぐに駆け寄り破片を革袋に収納していく。
別にダイヤに目が眩んだ訳じゃない。
飛び散った破片がもぞもぞと女性像に引き寄せられ、自己修復しようとしているからだ。
「さて、危険は無くなったと言ってもどうするかねコレは…砕くにしても私の鉄扇じゃらちが明かないよ。」
四肢を失い修復する部品も無くなった女性像は、尚も、もぞもぞと這いずってくる。
彼女に感情があるのかは知らないが、あまり見ていて気分のいいモノじゃない。
「お、大ハンマーでも買おっか…そう言えばお金ないなぁ…ダ、ダイヤ売ろっかな…」
[そんな言い訳がましく言わなくても誰も責めませんよ…]
「う…うるさい…」
なんとなく後ろめたくて言い訳がましい言葉になったんだけど、先生にあっさりと見破られて恥ずかしい…
気を取り直してポソクレジットを起動する、ダイヤモンドは重量別に分別されていてリストの数が途方も無いことになっている。
[2kgまでの物だけでも総額3億近いですね、幾らほど売却しますか?]
素早く先生がリストを纏めて計算してくれた。
「ん~とりあえず100万位かな?…うわ、10kgの塊とかそれだけで5億とかなってるで…」
[宝石の類は基本的に大きくなればなるほど高価になっていきますから。]
ざっと大きめの塊のものを見ても総額三桁億ポソに達してる…
それじゃぁ、手足の大きな塊は一体どれだけの値段が付いているのか、少し気になったので探してみた。
「…これかな…243kg……あれ?値段の所、----ってなってるで?」
[それは売却不可能という事ですね]
「え?!値段つかへんの???」
[いえ、おそらくはこの世界の流通金額を超えているのだろうと思われます。]
「流通金額超えてるって…どんだけなん………。」
大姉とキングさんに大ハンマーを渡し、女性像を細かく砕だいて収納していく。
最終的に女性像一体分の金額はいくら位なのかと先生に尋ねたら
[少なくともトーコが即位している間は、税金をとらずに国家運営可能な額です]
なんて答えが返された。
虹色の玉は女性像が当初そびえていた台座の上に置かれてた。
それを回収してダンジョンを脱出し、3ヶ月が経過した。
「よし、これで行けると思う。」
小姉は巨大な魔法陣の中心にある虹色の玉に、数式を書き込み筆を置く。
何度もテストを繰り返し、ようやく別次元への通信機が完成した。
「それじゃあ、トーコちゃん。出来る限り大きな声で呼び掛けてみてね。」
小姉の言葉に無言で頷く。
本来ならば、強い思念を言葉に乗せれば、言葉を声に出す必要は無いらしい。
だけど言葉に思念を乗せると言われても、私にはさっぱりで…取り敢えず大きな声を出せば思念も増幅するだろうと言うことになった。
気合いみたいな物かと訪ねてみたが、それとも少し違うらしい…。
大姉ならば強い思念を乗せた言葉を発せられるんだけど、直接会話したことの有る私の方が適任なんだそうだ。
雑踏のなかで名前を呼ばれるにしても、知らない声より知った声のほうが気が付きやすいだろうという細やかな努力だ。
先生が無数の演算を繰り返し、小姉がその結果を呪文のような言葉で虹色の玉に入力していく。
玉の中の虹色が、ゆっくりと無規則に動き出す。
ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる、徐々に速度が上がって色が混じり合う。
完全に色が混ざり合い、虹色の玉が薄紫色になったとき、魔法陣全体から無数の光が打ち上げられた。
[トーコ今です。]
先生の合図に声を張り上げる。
「めーがーみーさーまーあああああぁ。きーこーえーまーすーかーーーー」
一度の叫びで、喉がガラガラに成ってしまいそうな声を絞り出す。
一度で駄目なら、二度・三度。
5度目の叫びでムセこんでしまい、慌てて口を覆った掌に、血が混じっているのを発見した。
「ごべん、だぃえぇ。じぢょぅやぐじょうだい…」
ゴメン、大姉。治療薬ちょうだい。と言ったつもりの言葉なんだけど、言ってる自分の耳でもとてもそうとは聞こえない。
にもかかわらず、「ほら」と言って、大姉はすぐに差し出してくれて有り難い。
私の喉は治療薬で何度でも治せるんだけど、小姉の体力が持ちそうにない。
計算結果を入力するだけと言っても、魔力的なアレがアレするので長時間は出来無いと言われていた。まだ10分程しか経過していないにも関わらず、小姉の顔色は悪い。
大きく深呼吸して、再び声を絞り出す。今度は一度で血が出るくらい、限界を超えて大きく叫ぶ。
「めーーがーーみーー…」
『さっきからなにか聞こえると思ったら、もしかしてトーコちゃん?!そっちから声を届けるって………うわぁ、そんなんで良く届けられたね…。でも、丁度良かった。トーコちゃんそっちで変わったことは起きてない?!こっちで結構困ったことが起きてさ、直に被害を受けるのそっちの世界だから、トーコちゃんの事が心配だったんだけと、中々様子伺う時間もとれなくてさ。直ぐとは言えないんだけど一応は対応してあるから、なんとか凌いで欲しいんだけど大丈夫?』
限界を超えて張り上げた声の副作用と、女神様に繋がった喜びと、そのまま一方的に意味の分からないことを話しだされた驚きと、私達の努力の結晶をそんなん扱いされた悲しさが相まって、吐血する勢いで噎せ込んでしまう。
大姉から渡された治療薬を、お茶がわりに喉を潤していると、
『トーコちゃん風邪引いてるの?』
なんて事を女神様が言うので、少し苛立った。




