1000キロ
「ご馳走さまでした」
すっかり空っぽになった大きな鍋から目を逸らし、両手を合わせる。
お肌がプリプリと言えばコラーゲン、コラーゲンと言えば鍋でしょう。そんな私の一言で調理方法が決定した。
買い揃えた野菜と一緒に 2センチほどに切りそろえたサイコロ状の肉を 投入していく、淡いピンク色をしたその肉は自重で押しつぶれる事もなく、切られたままの形で自立した。
30分程煮込んで蓋を取ると溶け出たコラーゲンが鍋の表面を覆うなんて事もなく、白っぽい肉の見た目から鳥鍋や ホルモン鍋を連想させる。
少し肩透かしを食らいながら蛇肉に手を伸ばす、感覚としては鶏肉に近い筋肉質な箸触りで、コラーゲン的な要素は微塵も感じ取れない。
少し不満を懐きながら蛇肉を口に入れた。
食感は、箸で触ったときよりも硬い印象で、噛みちぎるのに少し力が必要だ。
心の採点表に-1を書き加えながらぐっと力を入れて肉を噛むと、プツンと弾けて、中からトロトロの肉汁が湧き出てきた。
「あふっあふっあふっ」
餡かけの様な熱々の肉汁が口の中に広がって、危うく火傷しそうになる。
ハフハフしながらなんとか肉汁を冷まし残った肉を噛もうとしたら、さっきまでの硬さは既に無くサクリサクリと、まるで繊維質が解れるようにバラバラと解け消えていった。
周囲を見ると、みんな夢中でハフハフしてる。
「コリッコリのサクサクやぁ、、、、。」
思わず漏れ出た言葉に、小姉が無言で微笑んだ。
結局当初切り分けた 道の輪切りをペロリと平らげ、さらに追加で切り出して平らげた。
[美容とは何なのでしょうか、、、、]
ポッコリと膨らんだ私のお腹を見て先生が、呆れたように呟いた。
「う、、、煩いわ、、、。」
その後の探索も、なんとか順調に階を進めていった。
密林のようなエリアや砂漠のようなエリア、氷雪地帯になったり、溶岩地帯に成ったり。
問題らしい問題と言えば、キングさんの金属鎧が凍りついたり、熱されすぎたりして殆ど装着出来なかった事位で、各階層のボスも重機関銃の前には呆気なく倒していくことが出来た。
ダンジョンに入ってから一ヶ月と半分ばかり、ようやく目的の階層に辿り着く。
「やっとついたぁ。ここに小姉が探してるやつが有るんやね?」
[そうです、捜索対象は直径50センチ程の水晶のような球形物です。特徴は中心部に虹色の光が渦巻いて居るので間違うことはないはずです。目的地迄も誘導可能ですのでご安心下さい。]
「とは言ってもね、、、、ここに来てこれは移動するだけでもゾッとするね、、、」
大姉がげんなりしながら、そんな愚痴をこぼしてしまうのも無理はなく。
私達の目の前に広がる景色は干上がった泥池を巨大化したような、無数の切立った谷で構成された荒野だ。目の前に有る谷も100メートル近い高低差が有るだろうか?
幾つの壁を上り下りすればたどり着けるのか、、、流石の壁好きの私でも流石にこれはお腹一杯になる。
「言うててもしゃーないし、とりあえず進もうか、基本は谷進むんやろ?」
「はぁ、、やっぱりここを降りるのかい?正気の沙汰じゃ無いね、、、、、、」
意外にも大姉が二の足を踏んで居る、怖い物なんて饅頭の類しかないと思い込んでいたけれど、高所が苦手だったんだろうか?
「あら、高いとこあかんかった?大姉やったら岩肌蹴りながら降りれそうなイメージやったのに」
なんて、若干優位に浸りながら意地悪なことを言ってみると。
「馬鹿だね、そんな事余程のことがなきゃしないよ」
なんて言葉を呆れたように返された、、、。
「余程のことがあったら出来るんや、、、、、」
それから3週間近く、ひたすら谷を進む。時には崖を登って高台を歩き、また谷に降りる。
時折出て来る敵も大した問題はなく行程は順調に進んでいる。進んでいるんだけど、私としては頭がいたい。
ここの階層は、いつか見たデスワームさんの故郷なようで、同郷のデスワームさん達が2~3日に一度くらいの頻度でお礼参りにやってくる。
以前遭遇した時は、ただその場に居ただけだったけども今回は違う。
武器をも溶かすデスワームさんの体液も、私の放つ鉛玉の前には何の意味もない。更にはその鉛玉も数日離れれば消えて無くなるエコな仕様だ。
なので、先も言ったように敵は問題ではなく、私が一番恐れていた事が起きつつ有った。
この三週間で4回ほど壁を登ったわけなんだけども、昔危惧していた通り、皆のクライミング技術が半端なく上達してしまった。
勿論、まだまだルート選びは危なっかしいし、行動一つ一つも無駄な部分が多すぎる。
だけど、それを持って有り余る基礎体力の違い。間違ったルートも、無駄なホールドも私から言わせれば強引に、当人たちにとっては何のこと無くクリアーしていく。
大姉は勿論、キングさんや、少姉まで。私よりも早く登頂出来るようになるのも時間の問題だろう。
まぁ、少姉に関しては時折魔法で自分の体重を軽くしていたりしてたんだけど、どっちにせよ、この世界での私の唯一の優位は失われてしまった。
[私が付いてますから大丈夫ですよ]
なんて事をポソリと呟いてくれて、ちょっとグッと来た。
「ありがとう先生、嬉しいわ、、、でも、、、勝手に心読まんとってくれたらもっと嬉しいわ、、、、」
「トーコ様どうかされましたか?」
後ろを歩いていたキングさんが、声をかけてくれる。
「いや、独り言。なんもないですよ。」
「そうですか、ところでトーコ様、、、、目的地には一体いつになれば付くのでしょうか?、、、、、。」
「あーやっぱりそれ気になりますよね、、、、」
この階層に入って既に三週間。今まではどれだけ長くても4日もあれば抜け出すことが出来ていたので、この階層の三週間は長過ぎる。
「先生が言わへんかったから敢えて聞かへんかったんやけど、、、実際どうなん先生?」
[聞きたいですか?]
「流石にそろそろゴールが分からんとモチベが辛いわ。」
[、、、、、、、、、、、、、、、、、です。]
「ん?なんて???」
[、、、、、、のこり凡そ1000キロです!]
「はぁ?!なんだって!!」
先生の言葉にいち早く反応したのは先頭を歩く大姉だった、、、、、。




