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2.7GHz

台地の真裏に回り込み、ヘッドライトの明かりを頼りにスルスルと崖を登っていく。

高さこそそれなりに高いが突起が多くルート選びに困らない、5分程で登りきり木にロープを縛り、数本垂らす。

再び下に下り数名にハーネスをつけて使い方を説明する、そもそも身体能力は私よりも格段に優れた人達だ、初めこそ恐る恐ると言った感じだったが落ちても落ちない?と解ればスルスルと登りだした。

本気を出せばまだ負けないと言い聞かせながら、複雑な心境で皆を見守る。


一時間程で全員が登りきった、皆初めての体験を乗り越えて若干テンションが上がっているようだ、にこやかに各自の上り自慢を繰り広げている。

ロープを回収し降下場所へと移動する、

夜間の降下は正直私も好きじゃない、暗闇に降りていくと言う感覚がもう、色々と不安にさせる。

笑っているのも今のうちだよとほくそ笑む私は狭量なんやろうな、、、


でもだってやっぱりちょっと悔しいんやもん、、、、、、



大きな木の枝にロープをかけて、軽く降下の練習をする。

無防備な王宮の裏手とはいえ灯りは使えない、弓張月の薄明かりを手掛かりに初降下させられるこの人達を思えばもう少し時間をかけてあげたいが、明るくなっては意味がないので気合いで乗りきってもらえる事を祈る。


「さて、ここからは後戻り出来ませんよ」

王宮と街を見下ろしながら確認する。

額の脂汗が月明かりに照らされてとても平常心では居られない様子が見て取れるが、皆の目の光は強い、この辺りの覚悟の持ち方が流石だなと感心する。


三本のロープを垂らし順に降りていく、下に付いたら渡したライトを一瞬光らせてもらいそれを合図に次々に降りていく。

数名が少々手間取ったようで予想より大分時間を食ってしまったが何とか全員王宮裏に降りることが出来た。


王宮の裏はちょっとした庭園になっていて、腰ほどの草木に隠れるように腰を落とし今後の動きを確認する。


「我々が捕らえられていた外部の牢はペルー救出時に見渡しましたがウェルシュ様と思われる方は居られませんでしたので、先ずは王宮の地下牢を目指します。」

王宮の地下牢は元々やんごとなき方々や世間に影響力の強い者達を収監する為の場所な為、その所在は秘匿されている、辛うじて王宮の東側が怪しいと言った情報が掴めただけだそうだ。

ザックを開けてピャーチを抱える。


「頼むよ、先生とピャーチが頼りやしね。」

”ワフッ”

と、かすれた様な声で小さく応える、緊張感無く振られる尻尾が「本当に分かってるのだろうか?」と心配になるが、まぁ大丈夫だと信じよう。


レーダーはというと、1階に居ようが5階に居ようが全て二次元上の地図に反映するため役に立たない、そもそも100M程度の倍率までしか下げれないため王宮内は赤い塊にしか見えなかった。先生の動体感知機能も壁一枚程度なら平気だけど、曲がり角の先の様に直線で見て壁が二枚以上で構成されている場所への精度はかなり落ちるらしい。

ピャーチの鼻と先生を併せてなんとかやり過ごすしかなかった。

王宮の壁に張り付き人の気配を探る、人気の無い窓を見つけそこから進入する事にする。


「ここ、よさそうやけど、、、、あかんわ格子付いて、、、、、」

言い終る間もなく軽く飛び上がったボタンさんがシャキンシャキンと鉄格子を斬り飛ばした。


暫し呆然、、、、、(鉄格子いみねぇぇ!)

叫びたい気持ちを抑え、皆に続いて窓によじ登る。


夜の室内は当然のように真っ暗で、薄い月明かりでは何も照らしてくれない。


「トーコ様お手を」

戦闘状態に入ったキングさんには何時ものぎこちなさは無く、貴公子のように私の手を引いてくれる。

20歩程進んだところで停止する、何かあるのかとじっと待つ。


[扉の向うに移動物は確認できません]


「あ、っと、うん、人は居ない様です」


[、、、、、、、、]


(うるさい、、、、)


[、、、、、、、、]



そっと扉を開け外を確認する、扉の向うは左右に長い廊下になっている、廊下の左右に幾つもの扉が見える他曲がり角すら無さそうだ。

そっと扉を閉める。


「これ、人が来たら確実に見つかりますよね、、、、」

ゴクリと誰かがツバを飲み込んだ。


”ワフッ”ひときわ小さな声でピャーチが吠える。


[向かいの部屋にも人の気配が有るそうです]


(もしかしてバルザヤ語辞典みつかったん?!)


[つい先ほど発見し、現在インストール中です]


(おぉ、なんか初めて先生の全知が役立った気がするわ)


[それは言い過ぎです]


(いやだって、バルザヤ語有るのに、王宮の見取り図無いってごっつ中途半端やん!)


[、、、、、、、、、、、、あっ]


(あ?あって言うた?)


[、、、、、、、トーコ聞いてください、現在私は全知情報の解凍、考察、区分、再圧縮、ならびに各種センサーの起動、解析する事によって移動物の反応を探りながら、トーコの体調データ類を監視しもって、トーコの視覚、聴覚、嗅覚、触覚データを分析しながら、トーコの会話に対応しているのです。トーコに出来ますか?]


(いや、無理やけど、、、だから忘れてたん?)


[忘れてなど!!!いいですか、クロックアップしても僅か2.7GHzのオクタコアでこれほどの情報を同時処理しているのですよ、そもそ、、、、、、]

                     (分かったごめん先生、しようが無い、しょうがないよね)


[、、、、、、人間誰だって忘れる事はあります、、、]


(うん、はい、ごめん、、、、、)


先生とコントしてる間に目が慣れてきた。


[コントじゃありません]


(はい、、、ごめんさない、、、)


目が慣れた事によって全員の視線が集まっている事に気づく、


「すいません、今更とても言い難いのですが、、、タブン見取り図見つかりました、、、、」

小声で呟きながらスマホを取り出す。


「なッ!むぐっ!」

叫びかけた説明係さんの口を素早くボタンさんが封じた。


暫く水曜日更新になります。

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