再開
「大丈夫、、、、?」
「す、すいません大丈夫です。」
木の根に足を取られ、キングさんが盛大にスッ転んだ後の会話だ。
密林と呼んで差し支えないほどに険しい森で、思ったほどに距離が進まず目的地を目前にすっかり暗くなってしまった。
小さなライトで足元を照らしソロソロと進んでいく。
大きなライトを使えば良さそうな物だが、夜、森、ライトとくれば必然的に虫と成る。
忘れてしまいそうだが、私も一応冒険家を名乗っていた訳で、好んでジャングルなどに潜っていた以上、虫如きにピーピー言うつもりはない、人の頭ほどある蛾とかざらにいたし幼虫を生で食した経験もある。
だけど、これも忘れかけていたけどここは異世界、虫の定義がまず想定異常だった。
私を心底恐怖に陥れた虫は、エイのような外見で背中の部分にはカブトムシのような硬い殻に覆われた羽が生えている、エイ鰭にあたる部分には小さな鉤爪が無数についており干物にされたエイの様な顔をしたそれがヘッドライト目掛けて跳んできた。
すんでの所でキングさんが叩き落してくれて事なきを得たのだけど、この虫?は鉤爪で身体に取り付き尻尾を突き刺し卵を産み付けると聞かされて心が折れた。
「これ、虫じゃないでしょう、、、、、」
「いえ、この羽の形状は虫です。」
唯一虫っぽい羽を指してキングさんは断言するが、昔映画で見た顔に取り付く宇宙からの侵略生物だと言われた方がしっくり来る。
「特殊な音を出しながら飛んできますので注意していれば大丈夫です」
高音の笛を吹くような音を出して飛んで来るという、そういわれれば聞こえたような、、、、?
光に過敏に反応すると言う事なので、周囲から呼び寄せないようライトを小さくした、
更にはそのライトもキングさんに託し、私はその後に続く。
暫く進んでいると、そんな私を気遣って後方ばかりに気をやるキングさんが再び蹴躓き、数歩加速する。
「むぐっ!」
突如私の口と腹部に何かが巻きつきキングさんと更に引き離される。
さっき自分で想像した宇宙生物が頭をよぎり、半ばパニックになりながら口を覆う物体を掴み引き剥がそうとする。
「死にたくなければ大人しくしろ」
口を覆う何かに私の爪が食い込んだ瞬間、耳元で声がした。
振り返るキングさんの持つライトで、咽元に突きつけられた剣が見えた、
ライトの逆光と顔の動きを制約されているため良く見えないが、私の動きを拘束している人の手が2本しかないならば、最低二人はいる事になる、非常に不味い気がする、、、
ピャーチの唸り声が聞こえる。
「お、王子!」
キングさんがとてもじゃないがこの場に似合わない単語を発する、 ”社長好い子居ますよ”
見たいなノリで油断でも誘う作戦だろうか?それでも密林で王子とか無理がある。
「その声、、、、キングか?」
剣を持つで有ろう人の居る方向から声が返ってきた。
剣を下げ私の前に回る、
「トーコ何故ここに」
私を知っている?誰だ??
声に聞き覚えは、、、、、ない。
ってか、キングさん眩しい。
拘束を解かれたので、ランタンを取り出し周囲を照らす。
「ボ、ベンさん!!!!」
危うくやらかしかけるが、持ち直す。
誤魔化すように抱きついて再会を喜ぶ。
流石にこのあだ名は洩らすと気まずい、自分で言っといて何だけど、聞き様によっては悪口に聞こえるし、何よりこの場に居る私以外全員ボタン装着済みだ、、、。
ひとしきり再会を喜び、ランタンを中心にぐるりと座る。
私とキングさん、ボタンさんとその一派が8人で合計11人。
簡単に経緯を説明しあう。
ボタンさん一派の8人は、元々首都で情報収集に当っていた偵察班の面々で隊長や小姉が捕らえられた日に全員捕まったそうだ。
激しい拷問の体を装ったいたぶりが繰り返され3人が帰らなくなるが、駆け付けたペルーさんによって救出される。
その逃亡の際4人の仲間が倒れ、ペルーさんまでもが捕まる。
残った8人でペルーさんを奪還すべく準備をしていたところ、大姉と分かれて行動を始めたばかりのボタンさんと偶然遭遇し、ペルーさんを取り返したようだ。
ペルーさんに掛けられていた魔法の件を尋ねると、隊長と小姉が開発したアイテムの効果だそうで、隊長たちに何か有った場合にと、回復魔法を使えないボタンさんと大姉に渡されていた物だそうだ。
「あんな高度な事、奴らにしか出来ない。」
ボツリとただ一言ボタンさんが呟いた、因みに此れまでの説明もボタンさんの横の人が話してくれた事で、ボタンさんはしゃべっていない。
金を掴ませた行商人にペルーさんを運ばせ、以後は小姉救出のためにボタンさんを手伝ってくれているそうだ。
「情報の集まりはイマイチですが時間は有限です、我々は今からウェルシュ様の救出に向かうところです。お会いできて早々では有りますがこれで失礼します」
説明係の人が立ち上がり深々とお辞儀をする、それを合図にボタン一派は立ち上がり歩き始めた。
「エドラドで待ってて。キング、トーコを頼む」
すれ違い様に私達の肩を手で叩きボタンさんが呟き立ち去った。




