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アジト

「トーコ、前方よりかなりの速度で何かが近づいて来てます、、、、、、恐らくキャバリア様は、、、、」

  「先生、ストップ!ハウス!sit down!それ以上言わんとって!!!」


「ど、どうされましたトーコ様???」


思わず声に出ていた、、、、、

「す、すこし気合を入れました驚かせてごめんなさい、

 流石に一人で逃げるなんて出来ません。でもさっきも言ったように争い事は苦手なので出来る限り  穏便にお願いします」


「分かっております、先ずはここに隠れてやり過ごせるのが一番ですわ」


(よし!!誤魔化しきった!!!!!)


心の中で両手を高く上げ勝誇る、そんな事をしていると漸く(ようやく)私の耳にもゴロゴロと何かが転がる音が聞こえてきた、キャバリアさんのが凄いのか私が鈍いのか、、、、、。


次第に音は大きくなり肉眼で姿を捕らえる事が出来る、軍用荷車だ。

馬荷車と軍用荷車の違い、それは荷車を引く生物が違っている、馬荷車は名前の通り馬っぽい生き物で荷車を牽くが、軍用荷車はアルマジロの様な生き物が牽いている、荷車に付けられた軸棒を体に巻き込みタイヤの様に丸まって回転することで前後に進む。

アルマジロの外皮は弓矢を弾き、戦場内でも高い走破性を誇るらしい。


息を殺し草むらに潜む、

目前に迫った時、突如キャバリアさんが街道に飛び出し両手を広げ立ち塞がる。

御者は慌てて手綱を引く、

アルマジロは身体を伸ばし地面を掴む、

私の口はぽっかりと開いて声もでない。

予想外の行動に唖然とするしかない。


なんなんあの人?

阿保なん?

それともやっぱり嵌められたん?


いつまでも放心していられない、気を取り直してハンドガンを構える、どちらにでも反応出来るように、キャバリアさんと軍用車の中間に銃口を向けて息を殺す。


「トーコ様警戒なさらないで大丈夫ですわ、私の仲間です」







「姫様ご無事でしたか!!」

御者の男性が飛び降り駆け寄って行く。

続けて荷車から、二人の男性も出て来てキャバリアさんの前に跪く。


手招きされて姿を表した私に、三人の男性は即座に身構える、

「兄の仲間のトーコ様ですわ、失礼の無いように」

その一言で三人は私の前で跪き、「失礼しました」と声を揃えた。

とたん背中がむず痒い、お嬢様にでも成ったかのような勘違いをしそうになる、執事喫茶に嵌ってた友人の気持ちが少し分かった気がする。


「どうぞ」と促され軍用車に乗り込みキャバリアさんの家に向かう、

車中で三人の紹介を受けた。


”チャールズ”と呼ばれ御者をこなしながら振り向き軽く会釈をする、焦げ茶色の革のパンツに、革のジャケット、どこと無くスーツを思い起こすデザインの服装を着る痩せ型の男性は腰にボタンさんが持っていたのと同じような刀を吊るしている、この人は絶対に執事的なポジションに違いない。


”キング”と呼ばれ片膝をつき頭を下げる、同じく焦げ茶色の革のパンツに上半身だけ緑色の鉄?の鎧を着込む筋骨隆々の男性は背中に四角い盾を背負い脇に三又の槍を置いている、なぜか小刻みに震えていて、併せて馬車も揺れている。


”スパニエル”と呼ばれ後方の哨戒をしながら頭を下げる、白い麻のパンツと鮮やかな柄の入った詰襟のロングコートは非常にゆったりとした作りで体型を隠している、背中一面に幅広の矢筒を背負い弩の様な弓を携えてる、この人の目線だけ何故か厳しい、初対面で睨まれる覚えは無い、視力が悪いのだろうと思っておく。


因みに全員褐色の肌と額のボタンは標準装備だ。




車は街道を反れ、森を抜け山脈の麓の岩場を走る、窓越しに切り立った山の岩肌を眺めながら、セユーズの景色を思い出し懐かしむ。

頭の中でルートを構築する、月明かりの下細部も見えず、そんな環境でのオブザベーションになんの意味も無いが、山があるならばどう攻略するかを考えるのは習性みたいなものだった。


そうして流れる景色に幾つもの登頂ルートを頭の中に描いていると車が止まった。

「トーコ様ご覧になって」と促され御台から外を覗く、

目の前には巨大な岩壁があるだけだ、

(もしかしてここ上るのかな?)と心が少し弾んだ。


”ピィーーーーピッ”

何処からか笛の音がする


”ピィーーピッピィーピッ”

チャールズさんの指笛がなる。

同時に車が進みだす


「ちょっ、ちょっ、ぶつかるよ?!」

軍用者を引くアルマジロ君はゆっくりと岩壁に向かい歩き続ける。


壁が迫り

(あー、、、)


速度は出て無いので痛くは無いだろうけど、やっぱり動物、言うこと聞かない事も有るんだ、なんて勝手に評価していると、アルマジロ君は溶け込むように岩壁に埋まっていき、車も”ぬとん”と泥沼に沈むように壁に引き込まれていった。


再び車が止まる。

スパニエルさんの合図で車から降りると洞窟の中の広い空洞だった。

直径30メートル、高さ10メートルは有るだろうかドーム状の空間だ。

天井には幾つか巨大なルイディエ鉱石らしき物が光っている。

目をパチクリとさせ、入ってきただろう荷車の後方の壁と荷車と空洞を何度も見返す。


「おほほ、驚いて頂けて何よりですわ」

キャバリアさんは悪戯を成功させた子供のように満足げだ。


「あはは、コレも魔法ですか?」

少し照れ笑い尋ねる、いい加減慣れないといけないんだろうが、こういった出鱈目感に戸惑う。


「これは我がロットワイラー家に伝わる遺物の力ですわ、岩の幻影を映しているのではなく本物の岩を通り抜けているのです。さて、お疲れでしょうお部屋にご案内しますわ」


そう言って私は洞窟の奥へと通された。

最初の空洞は、天然の洞窟に馬小屋や見張り台の様な物と幾つかの通路が作られていた、そのうちの一本に進む。


通路は狭く私の身長では少し頭を下げないといけない、横幅も人二人並べば肩が擦れる。

通路の岩肌はまるで(かんな)で削ったかのように真っ直ぐに切り取られ、元の世界でも見た事の無い採掘技術の高さを感じた。

幾つもの交差点を曲がり階段を上り下りし、迷路のような通路を歩きようやく一つの扉の前で立ち止まった。





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