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月と草むらと勘違い

時計を見ると23時を回っている、木々の隙間から土星のような月が見えている、

この世界の月は大きく明るい、林の中でもそれなりに照らしてくれている。


ハァハァと肩で息をする踊り子さんのような姿の女性を見る、背は160センチ位だろう、何重にも折り目の入ったカラフルな足首まで隠すスカートにこれまたカラフルな袖の短いへそ出しシャツ、そして綺麗な模様の入った長いスカーフのような物で頭全体を覆い髪を隠している、どこか凛としていて高貴な佇まいをしている。

少し日に焼けたような肌に整った顔立ちと額に小さな丸が描かれている、ボタンさんと同じ文化の人なのだろうか、どこと無く顔立ちも似ている気がする。


[危ないところをありがとうございました、助けて頂けたのですわよね?」

両手でスカートの裾を広げ片足を引き、西洋風レディーのようなお辞儀をし、様子を伺いながらハニカミ私の顔を覗き込む。


「あはっ、そんな警戒しないで下さい他意はありませんから、多分追手は無いと思いますが気を付けてください。それでは。」

ヒラヒラと手を振って数歩後ろにさが、、、

「あん、嫌ですわ私の家までまだ距離がありますの、一人でなんてとても怖くて怖くて。

お礼も差上げたいので家まで送って下さいません?」


後ろ手をくみ、しなりを付ける 同性から見ても眩みそうな可愛らしい仕草、

上目使いで見つめてくる。


「あらいやですわ、私ったら自己紹介も未だでしたわね、キャバリアと申します宜しくお願いしますわ。」

再び両手でスカートの裾を広げ会釈する、しかし上目使いが外されることはない。


「あぁははははぁ、、、トーコです、

キャバリアさん怖いって嘘ですよね、、、多分かなりお強いと思うのですが、、、、、」


今度は私が警戒する、一瞬の隙を付いて兵の首を切ったり矢に反応して盾にしたり、明かに戦い慣れている、私には真似できない動きだ。

それに一人目の兵を思い出せばナイフには毒が塗ってあったのだろう、そんなナイフを持ち歩く一般人なんて流石のこの世界でも聞いたことがない。


ジリジリと後退するもジリジリと詰められその距離は変わらない。

たらりと汗が顔を流れる、

噛まないから大丈夫だよと、ライオンの前に対峙させられている様な心境だ、、、、、、


「うふふふ、ご免なさいトーコ様そんなに警戒なさらないで、トーコ様の事はベンから聞いておりますわ。」


「えっ??」


突如出された皆の名前に余計混乱した。


「いつも兄がお世話になってますわ。」

三度スカートの裾を広げ深く頭を下げた。


自称ボタンさんの双子の妹だというキャバリアさん、事情があって別の街に暮らしているがたまに連絡を取り、近況を報告しあっているそうだ。

皆のことを質問してみる、好きな物や嫌いな物、癖や趣味など。

いくつかのやり取りをしてふと思う、あの四人は有名人だ、芝居小屋では四人の冒険活劇が演じられていた。

そんな四人の好みや趣味なんて少し調べれば直ぐ分かるだろう、助けておいて何だけど見た目にそぐわない戦闘力を持った女性、ある意味大小姉も同じなんだろうけどそんな人はゴロゴロ居ない。

手放しで信用できない程度にはこの世界に良くも悪くも慣れてきた。


いつまでも警戒を解かない私にキャバリアさんが痺れを切らす様に言った。

「ベンの竿の裏にはハート型の黒子(ほくろ)がありますわ」


「竿????」

何の事かと思考をめぐらす、、、、、、?、、、、!!!顔が熱くなる。


「いやちょっと、竿ってあなた、第一そんなの見た事も見る機会もありませんから」

いきなりディープな特徴を振られてなぜ私が赤面しなきゃいけない。


「あらそうですの、残念ですわ。」

とぼけた顔で首をかしげる。

「そうですわね、、、、トダトーコ様、私にお礼差し上げる機会を頂けません?」


四人と出会ったあのダンジョンから帰還して直ぐに、五人で打ち上げをした、

そのときポロッと出た私のフルネーム、そのとき以外で口にしたことは無い。


ふう、息を吐き半ば諦める様に警戒を解く、疑い出せばきりは無く、ボタンさんに良く似たと思えなくも無い顔立ちを信じる事にする。


キャバリアさんの家に向かう、3時間ほど歩く必要が有るそうだが追手の可能性も考えるとゆっくりもしてられない、バイクで走るにも夜とはいえ目立ちすぎる、仕方なく肩を並べて歩く。


もくもくもくもく、、、、、、黙々と歩く。

途中色々質問を投げかけてみたのだが、「家でゆっくり話しますわ」と流されてしまい会話が続かない。


キャバリアさんは鼻歌を歌いながら楽しげに歩いている、今にもスキップしだしそうだ。

仕方なく黙々と歩く、空を見上げる、土星のような大きく明るい月が眩しくてあまり星が見えない。


「あの輪っかなんなんやろなぁ、、、、、」

ほんの独り言がこぼれた。


「あれは神の使途と言われておりますわ。

 女神様はまだ幼い頃にこの星をお作りになられましたの、しかし余りにも幼すぎる女神様に父神様が心配し幼い女神様を護るように御殿の周りに使途を配置したと言われておりますわ」


この世界でもっとも一般的な観念らしい。

しかし、使者は外敵から人類を護るためだとか、人類に審判を下すためだとか、それぞれ都合の良い解釈が成されて様々な宗教が乱立し対立しているのはこの世界でも同じらしい。


「って事はあの月が神様の家なんですね、、、」

お姫様な神様を思い出す、どうせなら月から見た宇宙とかも見たかった、、、、、、


「トーコ様は女神様にお会いになったのですよね?」


そんな事まで知っているのかとも思ったが、王様の前でも話していた事を思い出す、

しかし改めて他の人の口から聞くと、、、、、事実とは言え痛々しい発言だ、、、、、、。

そんな自分に赤面していると、キャバリアさんが突如私の手を取り道の脇に連れ出した。


「トーコ様こちらに」


そう言って草むらで私の手を引き下げる、その手は力強い。

私だって片手の指だけで自重を支えることが出来る程度には鍛えている、 

それでも単純な腕力だけでも負けそうな気配がその手から伝わってくる、、、、、。


結局背の低い草むらに押し倒され馬乗りに胸を合わせて来る、耳元の息がこそばい。


何が起こった?

そんな予兆はどこに??


急に迫られてもそっちの趣味は持ち合わせていない、しかし私が本気で抵抗したとして対処出来るのか疑問が残る、じわじわと目に涙が溜まり始める、


「キャバリアさん、その私こう言う事は余り経験したくないというか、、、、、」


「あら?そうですの?まぁ確かに普通はそうですわね、、、」

少し残念そうにキャバリアさんが呟く。


「分かって頂けましたか、でもけしてキャバリアさんが嫌いとか言うのではないんですよ?」

変なところで恨みを買うのも嫌なのでフォローは忘れない。


「分かりましたわ、全て私に任せてトーコ様はじっとしていて下さい」

重大決心するかのように私の頭を抱え込み、まっすぐに見つめてくる。


「いやいやいやいや、そういうことでは、、、、」

                      「大丈夫ですわ、人数次第では有りますけども何とか時間を稼ぎますのでトーコ様はお逃げください」



「逃げ、、、、、?」










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