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覚悟

街を抜け田園地を抜け木々の間の小道を走る。

追っ手の姿は無い、80km/h以上で走ってきたのだから距離は十分稼げたと思う。

途中何度か人々を抜いたりすれ違ったりしたし、砂地や草地ばかりのこの世界ではタイヤの後はあまりにも目立つし、排気音も響き渡る。

追跡があるとしたら、迷い無く追われているはずだ。




[トーコ、国境まで約5キロです。]

1時間程度走ったところで先生が教えてくれた。

「あ、了解ありがとう」

バイクを止め、手で押し林に入る。

ポーチ内の皮袋の口を開きそっとバイクに寄せる、キラキラと光の粒に変わりバイクの姿が消える。

便利過ぎるコレ、、、

先生の話によるとこの袋、巨大な魔物の臓器(魔官)なんだそうで、容量は元の魔官の大きさに比例するためとても大きな物らしいのだが、自体を収納してこの大きさにしているらしい、

10立米(りゅうべい)が入る臓器が体の一部の生き物とか、ちょっと想像が追いつかない。

魔細胞及び魔官の作用により物質を魔素に変換し収納している事は解っているが、その為には物質を魔素に変換する数式を組み込まなくてはいけない、

魔細胞が死滅しないように特殊な加工を施し定期的に血液を吸わせる事により維持する技術は電池にも使われ広く普及しているが、変換数式は未だ解明されておらず完成品を発掘しなくては手に入らない貴重品だった。

魔官と言う臓器、電池になったりカバンになったり大変だ。




林の少し深いところに進み腰を下ろす、

夢中でここまで走ってきたが一息付いた事で一気にさっきの出来事が頭を駆け巡る。


隊長が処刑された?小姉は?大姉やボタンさんはアレからどうなった??

考えたところで情報が少なすぎる、答が出るはずも無い。


隊長が処刑されたってどういうことやろう、、、、

国に捨てられたのだろうか?

裏切られたのだろうか?


捨てるならば地位を奪うだけで良い筈だ。

何かしら陰謀に巻き込まれたと考える方がしっくり来る。

隊長は一介の軍人だが、この世界で五指に入る実力者だ、そんな人を処刑するなんて事はまともな国の判断には思えない。

そもそも国の土地問題を解決した英雄のはずだ。




私の中をもやもやした黒い感情が埋め尽くしていく。


両手を見る。


ほんの1時間前初めて人を殺した。


遠距離武器で人を殺した場合実感が薄いなんて話を聞いたことがあるが、少なくとも私には適応しないようだ、

私が指先を動かしただけで脳漿をぶちまける人を見た。

両手が血に濡れているような錯覚に襲われ、思わず拭う。


不意に両親の顔がチラリと浮かんだ。

月並みな話だが彼らにも家族が有ったのだろう、、、、


地面に触れている臀部(でんぶ)から、足先から凍り付いてくるような感覚に思わず立ち上がる。

この感覚は駄目だ、動けなくなる。

人を殺した、その事実は揺るがない、けして忘れることなく背負っていこう。


[あの状況下です、トーコは合理的な判断をしました]


「ありがとう先生、でもやっぱり殺さなくても良かったのかなって、、、、」


[即死を与えなければコギー様が負傷していた可能性があります]


「でも、投降したら命はとらないって叫んでたやん?」


[我々よりも事情に詳しいコギー様が交渉の余地を認められませんでした、無意味な殺生をされる方ではないはずです]


思い返せばこの世界に来てから、あの四人におんぶ抱っこだ。

特に小姉、大姉には女性特有の問題など様々な相談に乗ってもらい解決の助けも受けた。

隊長は何時も手探りで進む私の先を照らしてくれたし、それでもつまずいた私を無言で助けてくれたのはボタンさんだ。

四人が居なければ初日に死んでいた、

四人が居なければこの世界で生きる術をもてなかったかも知れない、

四人が居なければこの世界で生きる覚悟をもてなかったかも知れない。

四人が居たからこの世界と向き合えた。

だからだろう、先生の言葉がすんなりと入ってくる。

大姉が殺したんだから私も大丈夫、そう言ってるようなものだ。

狂人の理屈なのは理解している。


生まれたての雛鳥の様な、または初恋のような、単なる刷り込みだと言われるとかもしれない。

そうだとしても事実受けた恩は一生返しきれないだろう。

ものすごく視野の狭い自分勝手な理屈だが、恩を返す事に躊躇いはない。


パンッ と両頬を叩く。

世界中に後ろ指を差されても四人の進む道を共に歩もうと覚悟を決める。









頬がヒリヒリと痛む、強く叩きすぎた、、、

頬をさすりながらレーダーと地図を見比べる、、、


さてどうしよう、、、。


恐らく国境検問なんだろう、山と山の間にある谷の部分に建物が有る様なのだが、その辺りが真っ赤に反応している、明らかに先回り若しくは事前に配備されていた様だ。


(電信も発達していない世界の癖になんで解ったんやろう、、、、)


[記録によれば、シャンク共和国はこの近隣では唯一表面的にドクガ国と対立している国です。100年以上の間大小様々な衝突を繰り返しています]


なるほど、それなら初めから配備数は多いだろうし、厳戒指示程度なら狼煙でも十分だ。


取り合えず私の手配が及んでいない人里を見つけたい、、、、、、、無理に谷を通らなくても山越えすることは可能だが、見たところ3000メートルは有りそうだ、雪も残っている、食料などは十分あるが山岳装備が無くては流石に不可能だ。

先生のお陰で近代装備を買い揃えることは可能だが、今はwi-mc圏外だ、

魔細胞を持つ生き物に近づいて電波を拾わないといけない、革袋の魔細胞も生きている筈なのだが中継点にはなってくれないようだ。


この世界でも有数の魔官の持ち主の隊長や小姉でも、200メートル程しか届かない、

とはいえ魔法を主体とする軍人さんが50人近く集まった場所で100メートル程、単独なら15メートル程度、一般の人なら2~3メートル程度まで近づかないと拾えなかった事を考えれば桁が違う。

以前ダンジョンで数キロ離れた小姉の電波を拾えた時は洞窟と言う閉鎖された空間だったため通信距離が伸びていた様だ、屋外の開放された空間では電波(魔素?)が拡散してしまうため遠くまで届かないらしい。


[トーコ、少し戻る事になりますが一度国境から離れ、人里を目指しましょう。ここから北北東25kmの位置にクスブと言う小さな村があります。]

スマホの画面内に置かれた机に座りながら話す先生。

半年の間に徐々に家具か置かれ、いつの間にか書斎の様になっている、画面を右に一つスクロールすると寝室に、反対にスクロールすると露天風呂になっている、、、、、、、

先生の人格を認めているのだから別に構わないんだが、、、、、、、

因みに、露天風呂も寝室も使っている姿を見たことは無い。


「クスッ」 

 そんな先生を見ていると、どこか張り詰めていた気持ちが少し軽くなった。


[トーコが何故笑うのか理解できません、、、、、。]

結果に満足はしながらもどこか腑に落ちない顔で先生が呟いた。


「あははっ」 

 又少し軽くなった。


[、、、、、、。]



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