ダンジョン脱出後
この世界に来て半年がたった。
あのダンジョンを脱出した後、私は隊長と小姉の養子としてこの国の籍を取る事になり、
そのまま二人の家に部屋をもらい暮らしている、ドクガ国の首都ストリタ郊外にある立派な屋敷だ。
二人が夫婦だった事に思わぬ衝撃を受けた、
衝撃を受けて、少なからず隊長に恋愛感情を持ち始めていた事に気づいた程度なので、恐らくは吊橋効果みたいな物だろうと納得させる、
死ぬまで人に言えない秘密だ、、、、、
通常手続きだと移民扱いとなり戸籍習得に多大な時間と費用がかかり、その結果許可が降りない事も多々ある。
私の場合先生の能力もあり直ぐに許可が降りる筈だが、大人の事情に巻き込まれる怖さをとんとんと説明された結果甘えさせてもらう事になった。
その後4人は貴重な休暇を使い、開放済みのダンジョンや民間のダンジョンを捜索しながら、戦闘技術などを2ヶ月に渡り訓練してくれた。
ダンジョンは基本、発見者に権利が認められる為、入場料を取って一般開放されている物が多数存在する、私が居たダンジョンのような巨大な物はその性質上個人の手に余るので国が買い取る事が多いようだが、一個の国が丸々入るような巨大なダンジョンを個人で所有する例もあったり、ダンジョン発見を専門とする山師の様な人も居たりとこの世界の人も逞しい。
開放済みのダンジョンとは、全てのフロアーがパス無しで入れるようになった物で、それでも其々のダンジョン特有の魔物は出没するため重宝されていた。
そんな訓練の後の私は、二人が出勤した後、家事を済ませ近くの森や小さなダンジョンに出向き狩と薬草や鉱石の採取をして食費位は捻出出来るようにしている。
何人かの紹介してもらった商人に率の良い採取物を教えてもらい、ナビで採取して回る、岩壁を登るという発想がこの世界では余り無いらしく、手付かずの穴場を幾つも発見した結果、食費程度で収まらない相当の収入を得ている。
そんな中発見した近場にある険しい崖上にエジメイ草の栽培を計画中だ、小姉が持っていた株に種子を発見したので預かっている。
この世界の医療が薬草ベースで成り立っている限り金に困ることはきっとないと思う、直ぐに狂いそうになる金銭感覚を正すのに必死なくらいだ。
250ccのオフロードバイクに台車を括り付け今日も近くの森を目指す。
この世界には魔法を使った冷蔵庫やコンロや給湯器の様な物が存在している、
この世界の生物が持つ魔官を利用して魔素袋と呼ばれる魔素電池を作りだし魔細胞を持たないものでも運用出来るようにしている。
定期的に魔素を補充する形で色々な家電?を動かしている。
プロパンガスみたいなものかと先生に聞いたら、「概ね良いでしょう」 と言われた。
工場で一列に並んで魔素を補充する工員さん達を想像したら、シュールだ、、、、
そんな風にそれなりに工業は進んでいるが、もちろんバイクなんて存在しない。
このバイクはゴーゴロショッピングで購入した物だ。
キャッチコピーが”生卵から戦車まで”と言うだけあって、品揃えに偽りは無い。
商品代金の100%が送料となっていて非常に複雑な気分だけど、何かと利用してしまう。
いっそこの商品をそのまま転売しようかなんて考えたが、基本1商品1個までしか所持できない上に私の周囲から離れると24時間位で光に包まれ消えていく、
以前購入した銃弾や食料品の様な消耗品等は例外的に複数購入でき消えることも無かったが、商売出来るほどではない。
複数購入できると言っても上限が決まっていて多いとはいえない、消費若しくは破壊されずにこの世界のどこかに存在している限り重複と扱われる様で、、、、、神様の監視能力半端無い。
因みに私の事は多くの人に知れ渡っていて、バイク位ではもう誰も驚いてくれない、
名物キャラ扱いが良くも悪くも複雑だ。
ダンジョン帰還後の報告の際、ダンジョン内で得た情報の個人悪用や非倫理的行為を抑制するため、嘘発見機の様な魔法を使いながらの報告になる、なので私の事も神様に別の世界から飛ばされてきたと、虚偽無く報告し、それで済むはずだったのだが、
私が国王様に酷く気に入られてしまい求婚された揚句、根掘り葉掘り質問を受けることとなり、
先生の事も能力も隠すことが出来なくなった。
この世界で日本人的な肌の色はとても珍しいらしく、それが王様の興味を引いてしまったようだ、、、、。
王様はお年を召した大変横に大きな体の色情的な方で、”472番目の妻だが3位の地位を与える”
という熱烈なプロポーズを頂いた、隊長達のお陰で何とかその場をやり過ごしたのだが
そのときの視線は今思い出しても全身に鳥肌が立ち悪寒が走る。
私の能力を他言しないようにと言われていたが、人助けの体で仕方なく私の出した道具を使うと言った小芝居を隊長指導で何度か行い、噂を広め私の事を街中に周知させた。
またまた大人の事情の裏側らしく、
「自分の国ながら手放しで信用は出来ないからな」と隊長は少し寂しく笑っていた。
バイクのエンジンを切り押しながら森に入りライフル銃を取り出す、以前先生が買った軽機関銃とは別に ”TAR-21” と言う名前のアサルトライフルという物を購入した、全体がプラスチックで出来たような非常に軽いおもちゃっぽい銃だ。薬草採取の合間に狩をして今夜の食事に添えるつもりだ、装填を確認し肩にかけて移動する。
この世界に酪農は発達していない。
狩は非常に重要な技能だ、酪農が発達していない理由は簡単で、飼育可能な大型草食動物が殆ど存在しない。
草食動物はウサギ程度の大きさの生物が最大で、例外的に全長10メートル以上あるドラゴンの様な草食動物もいるが、怒らせたら当然街1つ無くなる勢いなので飼育なんて考えられない。
牛や、馬や、羊等に似た生き物はいるが全て肉食や雑食でとても気の荒い生態だった。
一応、馬やアルマジロに似た一部の荷車引き用の動物や、伝書鳩の仕事をする鳥などは長年の努力で飼育する術を確立できているが、食用とするには効率が悪すぎた、生まれた時から育てても簡単には懐かないらしい。
ある程度薬草を集めた所で鹿を発見した。鹿と言うには少し角が攻撃的過ぎるが便宜上鹿と呼んでいる。
狐のような中型動物を夢中で食べる鹿の風下に回り込み60メートル程の距離から狙いをつける。
”カフッ”と、消音器をつけたライフルは作動音と風切り音の混ざった少し気の抜けた音を出し弾丸を吐き出す、そんな音とは裏腹に弾丸は鹿の側頭部を貫通する。
ビクッと刺激を感じた鹿はゆっくり頭を上げそして横倒しに倒れた。
30秒ほどそのまま様子を見るが動く気配は無い、念のためレーダーを見ても反応は無い、仕留めた事を確認して鹿に近づく。
生えた木と滑車とロープを使い150kg程ありそうな鹿を吊り上げる、ナイフで首を切り血を抜く。
血の臭いに吊られて他の動物がやって来るので気は抜け無いが、先生に監視を任せて小休止する。
目の前で血抜きを見ながらポットに入れたコーヒーを飲むなんて、我ながら逞しくなったものだが、意外とすんなり順応できた自分に少し戸惑う時期もあった、
現在も解体まですることは無いが、コレは技術力や効率的な理由であって、キモイとかグロイとか可哀想といった発想はすっかりどこかに行ってしまっていた。
魚は切り身で泳いでないんだよ。
血抜きしている10分程の間に何匹かの獣がやってきたが、消音器を外したライフル銃で威嚇し、退ける、なんだかんだ言っても無駄な殺生は後味が悪い。
鹿を台車に乗せ町に戻る、今日はなにやら隊長から報告があるらしく、いつもの4人が集まって夕食を取る事になっている、恐らくは例のダンジョンの地下8階兆戦の日程が決まったんだろう。
私も外部協力員という形で同行する事になっていた、危険は十分承知だが冒険心に勝つことは出来ない。
それなりの戦闘訓練もしてきた、最低限自分の身を護る事はできるはずだし、何より「トーコの銃による支援は非常に頼もしい」と4人にお墨付きを頂いたことが自信に繋がっている。
精肉屋に寄り鹿の解体を依頼する、30分ほどで希望部位が解体され受け取り、残りを買い取ってもらう、そこから解体賃を払い残ったお金で野菜などを買いに行く、
何かと忙しかったらしい大姉に会うのは一ヵ月半ぶりだ、酒屋にも寄り大姉の好きな銘柄を買って帰る。
ボタンさん用の紅茶も忘れずに、彼はは壁際のテーブルで一人クールにブランデーを飲む佇まいで、紅茶を飲む下戸だ。
鼻歌を歌いながらトコトコとバイクを走らせ家を目指す。久しぶりの全員集合に色々楽しみが重なってニヤニヤがとまらない。




