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6話 地球も異世界も商人はたくましい!

 爆薬を身体に巻きつけたカマキリ顔は、ワゴンを運転しながら、片手で軽機関銃を撃ちまくっていた。いくら改造された肉体が強靭な腕力を持っていても、フルオートでライフル弾を撃つと反動で照準がブレる。


 前方を走る防弾性のSUVに数発しか着弾していなかった。


 では、外れた弾はどうなったか?


『警察だ! そこのワゴン停まれ!』


 流れ弾が東京シティの建造物や通行人に被害を出していたので、現行犯で指名手配されていた。数台のパトカーが追跡していて、いまにもカマキリ顔を撃ちそうだった。


「これだから自暴自棄になったやつを相手にするのはイヤなんだ」


 東征は嘆きながらパトカーに通信を繋いだ。


「こちら賞金稼ぎ登録ナンバーJA04‐8376。あのワゴンの運転手は爆薬を身体に巻きつけている。自爆テロに使われる心神接続式のやつだから、打撃を与えただけでも爆発するぞ」

『本当か!? 少し待て、いま犯人をスキャンする――――――本当だった。それで賞金稼ぎ、我々に協力してくれるんだな』

「これから足立区のD3ポイントにある次元連結トンネルまであいつを引っ張る。そっちは進路上にいる民間人やら道路工事やら整理整頓しておいてくれ」

『任せてくれ。得意技だ』


 通信を終わらせると、運転中の華舞がハンドルの縁を使ってぱちぱち拍手した。


「よく警察と普通に交流できますね。わたしだったら五秒で口喧嘩ですよ」

「高卒で警官になったんだよ。色々あって一年もたたずにクビになったけどな」


 色々あって――不正ばかりする上司に抗議したら殴り合いになった。弱かったのでノックアウトしたら、クビになった。


「まぁ! とってもユニークな過去ですね。東征さんに警官なんてどう考えても無理なのに」


 賞賛なのか愚弄なのかわからない評価に、助手席のグスタボがプっと吹き出した。


 東征の強化された聴覚が聞き逃すはずがない。


「こらグスタボ! 文系院生になろうとしたお前がバカにする資格なんてねぇぞ!」

「なろうとしたがならなかったのだから、賢い選択だろう」

「なぁにが賢いだ。勉強ばっかして頭おかしくなったんじゃねぇか」

「オレにとって学問は潤いだ。それ以上でもそれ以下でもない」


 男二人の話を中断させるように、バンバンっと華舞がハンドルを強く叩いた。


「はいはい、話の続きはあとにしましょうね。もうすぐ次元連結トンネルですよ」


 次元連結トンネル――文字から連想するような物質構造ではなく、七色の粒子が約50メートルのトンネルを形成していた。まるで虹を何層にも重ねてミルフィーユみたいに飾りつけたデザインである。

 

 そんな女子力の高いトンネルの付近に、事前の予測どおり、地球と異世界の行商人たちが色とりどりの露天を開いていた。


『サイボーグ用品・各種取りそろえています。お値段は時価』

『魔法大学の賢者が作った薬草水! なんと飲むだけで切り傷と火傷が治ります! いまなら20パーセントオフ! まとめて20個購入すると30パーセントオフ!』

『魔法使いの用心棒はいかがですか? 当方は回復魔法が得意です』


 毒草みたいにカラーリングされた看板を、強化された視力で遠方から確認――だが攻撃魔法の使い手がいない。


 しょうがないから、SUVを減速させてドアを開くと、露天商たちに大声で質問した。


「攻撃魔法使えるやつはいないのか!?」

「今日はトンネルの向こう側で営業してる」

「あとサイボーグ用品のオッサン、あとで買い物するから帰るなよ」

「なんだ東征じゃないか。へへへ、足元見てやるから覚悟しろよ」

「てめぇ、いつか呪われるぞ!」


 ガチャンっとSUVのドアを閉じると再加速――ついに次元連結トンネルへ侵入した。


 この世の果てではないか、と思うような七色の風景が広がっていた。氷点下に達した空気は乱気流のごとく乱れていて、出入り口に結露を生んでいた。どこからともなく不協和音が聞こえてきて、強化された鼓膜に耳障りだ。


 さらに耳障りだったのは、ずっと追跡してくるカマキリ顔が、勝ち誇っていることだった。


「異世界の道路は舗装されてない! おれと激突してお陀仏だ! おれの勝ちだ!」


 なにに勝ったんだ? とツッコミたかったが、そんなことをしている暇はない。

 

 ついに次元連結トンネルの出口が見えた。異世界の草木の緑と青空が出口の形にあわせて切り取られていて、近づくほどに拡大していく。


 ひゅぱっと空気が抜けるような音でトンネルを抜けると、大自然がパノラマとなって広がっていた。


 風景に感動したいところだが、今は出口付近で営業する魔法使いの用心棒を漁ることが先だ。


 いた。魔法大学のローブを着たオジサン。年齢や外見をあらわす“おじさん”ではなく、名前がオジサンなのだ。彼には以前も仕事を頼んだことがある――信頼していい腕前と人格だった。


「おーいオジサン! 俺だ、稲村東征だ! これから爆弾抱えた車が突っこんでくる! そいつをフリーズの魔法で凍らせてくれ!」

「報酬はいかほどで?」


 オジサンは、コキコキと首を鳴らした。


「そっちの通貨で2000ゴールド!」

「了解」


 オジサンは、魔法大学の杖に魔力を収束させていく――口の中で呪文詠唱して魔力式を構築――演算結果を「飛べ、フリーズの輝きよ!」と杖から放出した。

 

 液体窒素そっくりな凍てつく吹雪が、アクセルベタ踏みのワゴンを聖母のように包みこんだ。


「ち、ちくしょう……」

 

 カマキリ顔は、車に乗ったまま氷の彫像と化した。


 だが爆発の可能性は消えていない。この場にいた誰もが爆発を恐れて、急いで氷の彫像から離れていく。安全を確保してから爆破処理するつもりだった。

 

 ――だがそんな東征勝利の流れを、おちょくりたいやつが、空にいた。


 異世界転移したチート魔術師のシンジである。


「爆発したほうがお笑いコントとして優れてると思うんだよね」

 

 ぱっと指先から魔力の塊を飛ばした――ぴとりと氷の彫像に着弾――大爆発。


 がんばって逃げていた誰もが爆風に吹き飛ばされて玉みたいに転がった。髪の毛はチリチリになるし、全身が煙たくなってしまった。幸運なことに誰も死んでいないのだが、さすがに打ち身で唸っているものはいた。


「おいこら! シンジ・ムラカミ! 賞金かかってる自覚あんのか!」


 アフロヘアになった東征が拳を振りあげて怒鳴ったら、シンジは女の子みたいにくすくす笑った。


「君のこと、本当に好きになりそうだよ」

「そっちの趣味はないんだよ!」

「はっはっは。そういう意味じゃないよ。じゃあ、またね」

 

 こうしてシンジは微笑を浮かべながら、また遠くの空へ消えていった。

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