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22話 シンジ・ムラカミの激闘(上) ~盗賊ギルドと義賊チームの確執~

チート魔術師シンジの視点が二話連続になります

 シンジ・ムラカミは魔法大学との魔法合戦を中断した。王都に繋がる関所から火の手が上がったからだ。空から見下ろせば、遠くからでも現場の雰囲気がつかめた。怒れる農民たちが銃を持って関所を破壊していた。夜勤の衛兵たちと銃撃戦になって死傷者多数である。


 どうやら関所の衛兵が王都へ猛禽類の伝令を飛ばしたようで、魔法大学の関係者も親衛隊も、シンジを無視して、次の任務へ向かっていった。


「……なにが起きてるんだ。タラバザールで」


 シンジは古代魔法【インビジブル】を発動――姿が消えた。微量な魔力や魂の色まで隠してしまうため、探査の魔法では発見することができない。もちろん地球製のセンサー類でも感知不可能だ。


 古井戸で捕まるまで、義賊としての活動を誰にも知られなかったのは、古代魔法【インビジブル】のおかげだった。さらにいえば、よくシンジが空を飛んでから消えていたのは、テレポートの魔法ではなく【インビジブル】で姿を消していたのである。


 なぜこんな便利な魔法が使えるかといえば、失われた太古の魔力式を膨大な魔力量で補完しているからだ。賢いわけでもなく、知識が豊富なわけでもなく、一種の力技であった。


 そんな力技の古代魔法とフライの魔法を併用して夜更けの空を飛んでいく。目的地は小さな集落だ。古井戸に捕まる前から義賊チームの合流地点は決めてあった。


 ラルフたちは無事だろうか。シンジが魔法大学の金庫を破るのに失敗したから、仲間たちは資金難のまま旧市街地から避難したはずだ。親衛隊は真面目に狂っているから、躊躇なく貧民を皆殺しにしているかもしれない。

 

 仲間を心配しながら夜空を飛んでいると、星空と三つの月が砂時計みたいにまたたいた。異世界にも宇宙空間と衛星がある――ありふれた科学的事実をごく当然のように受け止められるのは、シンジが地球生まれだからだ。


 ごくまれだが、転移してきたことを後悔することがあった。地球生まれの異邦人であることを強く認識するときで、だいたいは異世界の住人たちに疎外されたときだ。


 だが転移してきてよかったと思うときもあって、異世界の仲間と喜びをわかちあったときだ。


 もしかしたら、シェアハウスに入居する人たちの心理は、シンジが異世界転移を肯定するときの感情に近いのかもしれない。


 なんて考えたところで小さな集落に着陸した。井戸の底みたいに真っ暗。敵に発見されないように、かがり火を焚いていないのだ。シンっと静まり返っているが、耳をすましてみれば作りたての家屋から人間が生活するささやかな音が聞こえてくる。


「シンジじゃないか! どこいってたんだ!」


 物見やぐらからエルフ族のラルフが飛び降りてきた。彼はエルフだから月明かりだけで遠くが見える。


「すまないラルフ。魔法大学で捕まってたんだ」

「姿を消せるシンジが捕まるなんて……でも誰に助けてもらったんだ?」

「東征だ」

「やっぱり良いやつじゃないか。おれたちも東征に助けてもらったんだよ」


 詳しく話を聞いてみると、旧市街地から小さな集落へ逃げる際、東征チームが親衛隊を撃退してくれたという。おかげで貧民は誰も死んでいないそうだ。


 驚きもしたが、納得もした。東征は利益より義侠心を優先するところがある。出会い方が違っていたら、友達になっていたかもしれない。


 だが今後どうなっていくんだろうか。グスタボが地球へ転生した先代学長なのは確信したし、岩坂都知事が地球へ転生した当代学長なのは公然の事実になりつつある。


 神聖タラバザール王国の政治闘争が激化していくほど、賞金稼ぎと賞金首の関係が曖昧になってきた。


「なぁシンジ。王都はどうなってんだ? 関所が燃えてるんだよ。それもすべての関所が」

「それが知りたくて、魔法大学を潰すのを中断してきたんだ。なにか情報は入ってないのかい?」

 

 ちょうど盗賊ギルドの伝令が馬でやってきた。帽子を深くかぶった男で、古参メンバーの一人だ。地球製のライフルを背負っていて、銃身はピカピカである。どうやら買ったばかりらしい。


「もうすぐ盗賊ギルドの支援で革命が起きるぞ。よかったら義賊チームも参加しないか?」

「革命だって? 僕たちは、そんな話まったく聞いてないぞ」


 シンジが調べていたのは、魔法大学の学長と次元連結トンネルの関係性だ。盗賊ギルドの革命支援なんて初耳であった。


 すると伝令が、帽子を深くかぶって目を隠すと、小声で伝えてきた。


「……すまない。上からの命令で、お前たちには情報を伏せていた」


 人間が複数集まれば政治がはじまるわけだ。組織運営として必要なことかもしれないが、はっきりと義賊チームが信用されていないと伝えられると、落胆してしまった。盗賊ギルドのマスターは、俗悪な人じゃないと思っていたのだが。


「僕たちを蚊帳の外に置いてたのに、兵隊が必要になったら手のひらで転がそうってのかい?」


 シンジが怒りを隠さずにいったら、伝令が苦虫を潰した顔になった。


「もし盗賊ギルドの支援で革命が成功したら、我々が市場の覇者になる。そのときお前たちは、我々の金庫を狙わないと誓うか?」

「つまり盗賊ギルドも貧民なんてどうだっていいと思ってるんだな! これまで散々飢えた人たちに助けられてきたのに、支配層になったら切り捨てるのか!」

「そうはいってない。ただ革命を邪魔されたら困るんだよ。準備しただけでもヤバイのに、失敗したら一族郎党死ぬんだぞ」

「革命だろうとなんだろうと好きにやってくれ。王族と貴族が何人死のうと僕たちには無関係だ」

「それを聞いて安心した。では、革命が終わったら、また会おう」


 伝令は威勢よく馬を走らせると、暗闇に消えていった。


「シンジ。おれたちは……上から疎まれてたんだな」


 ラルフはがっくり肩を落とした。目には涙をためていて、ふるふると拳が震えていた。仲間想いで人情に篤い彼なら、味方だと思っていた相手に裏切られたら、悔しくてしかたがないだろう。


「僕が盗賊ギルドのマスターに推薦されたの、義賊チームへのけん制ってだけで本気じゃなかったんだよ」

「……らしいな。おれは、本当にシンジがマスターをやったほうがいいと思ってたのに」

「でも……盗賊ギルドが貧民を切り捨てるなんて、なにがどうなって――待ってくれ、だったら地球で活動するエミリアたちはどうなるんだ!?」


 エミリア――以前の少しだけ触れたラルフの妹で、東京支部でリーダーをやっていた。信頼できる女性だから、東征たちにメモを渡した。彼女が次元連結トンネルに一番詳しくなっているから。


 盗賊ギルドの東京支部は、義賊チームが中心になって運営していた。地球から吸い上げた利益を貧民に還元するためだ。


 だが義賊チームが上層部に疎まれているのに、さきほどの伝令は新品のライフルを持っていなかったか?

 

 関所を襲撃する農民たちが装備していたライフルも、同型の新品ではなかったか?


 異世界の人間が高性能な銃火器を一括購入するためには、地球人とのコネ――盗賊ギルド東京支部の協力が必要だ。

 

 エミリアが貧民を切り捨てるような選択に同意するはずがない――彼女の身に危険が迫っている。


「ラルフ。君はこの集落を守ってくれ。僕は地球へいってエミリアたちを助けてくる」

「頼む。あと東征にあったら賞金首は解除されたって伝えておいてくれ」

「わかったよ」


 古代魔法インビジブルで姿を消してから、フライの魔術で小さな集落を出発。最寄の次元連結トンネルへ最短距離で飛んでいく。


 あせればあせるほど、エミリアとの会話がよみがえった。


 妹のようでもあり、クラスメイトのようでもあり、大事な仲間だった。誰にも話していないが女性として意識することもあった。こっそりデートだってしていた。次元連結トンネルが開通してからは、学生時代にはやれなかった制服デートを東京の繁華街でやってきた。


 シンジもエミリアも恋愛に疎かったから、東京シティの俗物たちからしたら田舎者が背伸びしてデートしているように見えたろう。


 だが当人たちにしてみれば、最高の思い出なのだ。


 それなのに盗賊ギルドの上層部は、身勝手にも東京支部を潰そうというのだ。


 絶対に彼女を救ってみせる。絶対にだ。


 最高速度を維持したままトンネルを通過しようと思ったら、厚さ一メートルの魔術障壁に阻まれた。魔法ではない。魔術の障壁だ。


「かわいいボウヤ。少しだけお姉さんと遊んでかない?」


 二十代後半の女性が、妖艶に微笑んでいた。毒を塗った刃物みたいな目をしていて、唇のルージュまで妖しく光っていた。紫色の髪が地面に届くほど伸びていて、髪の毛の一本一本に魔力がみなぎっている。ざっくりと胸元の開いたシャツを着ていて、シンジの感性だと下品だと思った。


 彼女はヴァネッサ。魔術師ギルドのマスターだった。

 

 どうやら魔術師ギルドのマスターになるまで強くなれば、古代魔法インビジブルを見抜けるらしい。

次回もシンジの視点です。

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