21話 グスタボの真実 神聖タラバザール王国の激動
グスタボが魔法大学の先代学長で、地球にアメリカ人として転生していた。
信じがたいのだが、これまでの資質に理由がついてしまう。教養があることも、現地の言語を読み書きできることも、魔法への対処が器用なことも、そしてシンジ・ムラカミに対する選択も。
「そんな大物だったとはな。だが庶民にしたわれる学長から、どこにでもいる賞金稼ぎってのは落差が激しくないかね」
東征が冗談っぽくいうと、グスタボは鼻の頭をかいた。
「本来のオレは、賞金稼ぎをやっているときの性格だ。だが魔法大学の学長という立場を得たら、周囲の期待が押しよせてきて、身動きが取れなくなった」
「会社の社長みたいなこというなよ」
「社長だろうと学長だろうと組織の長は孤独だ。どれだけ慕われていたとしても」
会話の内容にうずうずしていたオジサンが、回復魔法を続けながらグスタボに質問した。
「少々よろしいか。さきほど当代の学長と相打ちになったといっていなかったかい?」
「相打ちだ。現在の魔法大学で学長をやっているのは影武者だ」
「なんてことだ……こんなことが公になったら魔法大学の権威は地の底へ落ちるな。というか影武者を立てたのは誰だ?」
「決まっている。死んだはずの当代の学長だ」
「…………まさか、当代の学長も地球へ転生したんじゃ」
「そのまさかで、岩坂都知事だろうな」
とんでもない真実に、東征は蒸気自動車の運転を誤りそうになった。
「どーすんだよグスタボ。俺たちに金を払う相手が黒幕だぞ」
心の中で【利益なしどころか大赤字】とレッドサインが点灯した。それどころか賞金稼ぎという職業が存在できるかどうか怪しくなってきた。賞金稼ぎ制度を作ったのは、岩坂都知事なのだから。
グスタボが蒸気自動車の車体をコンコンっと叩いた。
「転生前の当代学長は、地球と異世界を繋げてなにかを企んでいた。それを問い詰めたら争いになって相打ちだ。結果的にやつは始末できたから、野望を未然に防げたと安堵していたが……転生していたらなら話は別だ」
東征は、だんだんと難しくなってきた話に、がんばってついていく。
「繋げたってことは、次元連結トンネルって岩坂都知事が作ったのかよ」
「やつが作った。そして転生したとなると、思想犯が生まれたのも、親衛隊が先鋭化したのも、すべてやつの手のひらで転がされているというわけだ」
「なんで権威ある魔法大学の学長が、国を混乱させるんだ?」
「学長なんて地位についたから、勘違いしたのだ。自分がもっとも賢いから、もっとも正しい国体を作れるのだと」
「おいおい、それじゃあまるで思想犯の親玉みたいじゃねぇか」
「その認識であっている。どんな国でもどんな世界でも勘違いしたインテリがたどりつくのは選民思想だ。口先で理想論を唱えながら、意にそぐわない思想や信条を消滅させようとする。岩坂都知事にとっては、王制だな」
王制という言葉で、神聖タラバザール王国の住人であるオジサンが、こきりと首を鳴らした。
「どうなるんだろうな、我々の国は」
その答えを示したかのように、ようやく見えてきた次元連結トンネル付近に、異世界の農民たちが集まっていた。東京シティの武器商人から銃を購入して、使い方を学んでいるのだ。
グスタボがため息をついた。
「やはり武力革命が狙いだ。思想犯がやっているようなお遊びじゃなくて、本気で王制を潰すつもりだ。おそらく思想犯を暴れさせて囮にして、水面下で農村を洗脳していたんだろう。毛沢東の戦術は正しかった。農村から都市を包囲せよだな」
農村からの武力革命――農民たちが、蒸気自動車を通せん坊した。
「待て! こんな高価な乗り物に乗っているということは、王都の魔法使いだな!」
農民たちは加熱したフライパンみたいにじゅうじゅう殺気だっていた。今すぐ王都へ攻めこむつもりなんだろう。そういえばラルフたちが小さな集落へ移動したときも、農民たちと似たような雰囲気が漂っていた。きっと農村が武力革命に煽られていた残滓だったのだろう。
「こいつらは地球人だ。魔法大学の関係者じゃない」
東征たちの身元を保証してくれたのは、武器商人だった。いつぞや自爆バカに炎を放たれて武器庫が消失した商人たちである。
農民たちは納得して、道をあけてくれた。
東征は武器商人に手を振った。
「武器商人のおっさん。助かったよ。急いでいてな」
「気をつけろよ。もうすぐ革命がはじまる。地球へ帰ったら、革命が終わるまで次元連結トンネルに近づかないほうがいいぞ」
武器商人たちも撤収準備をはじめていた。もうすぐ異世界には血の嵐が吹き荒れるんだろう。
東征は蒸気自動車のエンジンをふかしながら、オジサンに提案した。
「オジサン。しばらく地球で暮らすかい? 革命に巻きこまれたら死ぬかもしれないぜ」
「心配してくれるはありがたいが、君たちはどうする。支払い主が黒幕だぞ」
「そうなんだよなぁ…………とにかく華舞治療してから考えるぜ」
華舞は、うっすらと目を閉じて、夢と現実を行き来していた。こん睡状態である。早く病院へ運びこまなければ。
というわけで魔法使いのオジサンを連れたまま、東京シティへ戻るなり、華舞を病院へ運びこんだ。
手術は数分で終わった。手術という単語で連想される開腹作業ではなくて、サイボーグのパーツ交換だから、素人がやったってすぐ終わる。ただプロの医師がやったほうが安全確実なので病院が推奨されていた。
「すいません。一日か二日は安静っていわれちゃいました」
ベッドに寝そべった華舞が、ぺろっと舌を出した。こん睡状態までいってしまったので、脳や他の臓器が回復するまで少々時間がかかるため、しばらく戦線離脱だ。
「安心して休んでろよ。お前が抜けた穴はオジサンが埋める」
呼ばれたオジサンが、目を白黒させた。
「なんでいつのまに私がチーム入りしているんだ」
「これから東京シティの盗賊ギルド支部へいく。オジサンみたいな異世界の知識人が必要なんだよ。まぁグスタボもそうだったんだけど、知識が数年前で止まってるからな」
グスタボが肩をすくめて、オジサンは杖を軽く掲げた。
「地球にまでギルド支部を作ってあったのか、盗賊たちは」
だからこそ、裏側が透けてみえた。
「だから地球の武器商人が異世界の農民に銃を売れたんじゃないかね?」
「なかなか鋭いじゃないか。よし、わかった。行こう。タラバザールの未来に関わるかもしれない」
オジサンが仲間に加わった。
今後の東征チームの行動計画だが、盗賊ギルド東京支部で手に入れる情報で決まる。
もし異世界の神聖タラバザール王国に革命が起きるだけなら、賞金稼ぎである東征たちに関与する資格がない。たとえ岩坂都知事の正体が、当代学長の転生だったとしてもだ。少なくとも、都知事として東京シティの行政を管理してきた仕事ぶりに瑕疵はなかった。
気になるのは、シンジ・ムラカミに莫大な賞金をかけた理由だった。




