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15話 ターニングポイント

 東征チームは、ほぼ無傷の戦闘車両を鹵獲すると、病気や怪我で足の遅い貧民を詰めこみ、すみやかに小さな集落へ移動していく。親衛隊が撤退したから邪魔するものはいない。ひたすら時間をかけて進めば、夜明けごろに小さな集落へ到着した。


 高台の森林に作られた規模の小さな集落だ。盗賊ギルドの協力者たちが先行して入植していて、簡素な防壁や、木々でカモフラージュした矢倉を立ててあった。


 地球人には異世界の土地勘がないため、この集落がどれぐらい権力者から隠匿できるのか、また見つかったとして防衛可能なのか判断しようがない。とにかく関わるのはここまでだ。


「おいラルフ。シンジ・ムラカミの居場所を吐く気は?」


 東征が右半身にめりこんだ散弾をサイボーグ用の道具で取り除きながら聞いたら、ラルフがため息をついた。


「もし知っていたとして言うはずがないだろう。だが正直なことをいうと、シンジは行方不明だ」

「……あいつ、魔法大学の襲撃に失敗したって聞いてるぜ」

「シンジが魔法大学の金庫をやぶって大金手に入れてたら、もっと安全にこの集落に避難できたんだが……シンジは連絡がつかなくなって、あんな強行軍になったんだよ。本当にあんたらがいてよかった。まるでシンジみたいに頼りがいがあったぜ」


 まるでシンジみたいに頼りがいがあった――ぜんぜん褒められた気がしなくて、背中がかゆくなった。そんなことよりラルフのセリフに気になることがあった。


「まさかシンジ・ムラカミが、魔法大学の誰かに負けたから、行方不明なのか?」

「それがさっぱりわからないんだよ。怪我したのか、なにか事情があったのかでさえも」


 どうも魔法大学そのものに秘密があるらしい。2000万ドルの手がかりがつかめるかどうか以前に、陰謀の臭いすらしてきた。魔法大学だけではなく、思想犯たちの行動は過激化していくだろうし、親衛隊の教条も純化して誰もついていけなくなるだろう。


 なによりあれだけの数の貴族を殺したら、どう考えてもお尋ね者になるだろう。


 もしかしたら、シンジ・ムラカミの首は諦めて、地球に帰ったほうがいいのかもしれない。


 東征が迷っていたら、ラルフが早朝に発行されたばかりの官報を持ってきた。


「まだあんたらはお尋ね者になってない。官報の印刷所が稼動するのは朝だけだ、もしお尋ね者になるなら、明日の朝に似顔絵つきだな」


 どうやらエルフが調教した猛禽類が、毎朝官報をラルフのところへ配達しているようだ。同胞が指名手配されていないか常にチェックしているという。盗賊ギルドらしい仕事っぷりである。


 東征は官報を斜め読みした。お尋ね者の顔はすべて似顔絵で描かれていて、文字情報で詳細を付け加えてあった。無線通信や写真技術が発達していないから、伝書ないし口頭で責任者に情報が伝わったとき、お尋ね者として記載されるんだろう。


「安全に逃げるなら、いまから引き返して次元転送トンネルをこえればいい。だが2000万ドル欲しいなら、一日以内に魔法大学を調査すればいいってことか」


 東征自身が選択をする前に、仲間の意思を尊重する必要があった。


 まずは謝罪をしなければならない。いくら事後承諾に近い形で親衛隊との激突を認めてもらっても、彼らの賞金稼ぎとしてのキャリアに傷をつけてしまったからだ。


「グスタボ、華舞。二人には本当に悪いと思ってる」

 

 深々と頭を下げたら、先にグスタボが答えた。


「構わんさ。ちゃんと約束は守られているから」


 グスタボとの約束――あらゆるリスクを天秤にかけて、必ず生存を選ぶ。


「なぁ、本当に俺は約束を守れたのか? あそこで子供を見捨てたほうが、生存するには楽だったろ?」

「いいか? あそこで子供を見捨てるようなやつと、オレは組みたくない」

「マジかよ。お前熱いやつだったんだな」

「仕事のパートナーなんてな、最終的には感情と相性で決まる。だから子供を助けてから、いかにして生存に最善をつくすかが大事になる。東征は、それを守った」


 さらに皮のドレスを着た華舞が、こくこくとうなずいた。


「グスタボさんのいうこと、よぉくわかりますね。あそこで子供見捨てるようなリーダーなら、わたしもチームを抜けてたと思いますから」

「なんだなんだ、華舞までかっこいいこといいやがって。ったく、お前も長生きできないぜ」

「まぁそんなもんですよ。だって命短し殴れよ乙女っていうじゃないですか」


 改変された言葉に、グスタボが眉をぴくっと動かした。


「いわない。命短し恋せよ乙女だ」

「わたしは格闘に恋しているので、あってますよ」

「わけがわからん」


 チームの雰囲気は悪くなかった。これなら今すぐ地球へ帰還しても、王都の魔法大学で一日限定の調査をやっても、チームが空中分解することはないだろう。


 今度こそ二択だ。


 1.今すぐ地球へ帰還する。お尋ね者として手配されることや、神聖タラバザール王国の思想や教条をきっかけとした騒乱から、安全に逃げられる。ただし2000万ドルとシンジ・ムラカミとの因縁は未解決になる。【物語はここで終わり】


 2.今すぐ王都の魔法大学へ向かう。戦闘車両を鹵獲してあるから、一時間もかからずに現地に到着する。2000万ドルの可能性はゼロにならないし、シンジ・ムラカミとの因縁に決着をつけられるかもしれない。ただし、お尋ね者として異世界で追われる可能性があり、また王都ということもあって、思想と教条をきっかけとした騒乱に巻き込まれることもある。【物語はさらに続く】


 せっかく賞金稼ぎになったなら、2000万ドルのビッグチャンスを手にしたいし、なによりすべての因縁が未解決のまま地球に帰るのも“ダサイ”と思った。


 2を選ぶと、大事な荷物を馬車から鹵獲した戦闘車両へ移し、出発直前にラルフへ伝えた。


「おいラルフ。麻薬の売買ぐらいだったら、上納金払えば賞金首解除されるぞ」

「なぁ、そんなルールがあるなら、なんで逃走幇助しただけのシンジに2000万ドルなんて大金がかけられたんだ? いくらチート魔術師で強いからって、あっちの世界じゃ誰も殺してないんだぜ」

「そりゃあ…………なんでだ?」


 今まで金に目がくらんでいて、細かいことを考えてこなかった。


 だがラルフに指摘されたことは、とてつもなく大事なことに思えてきた。


 シンジ・ムラカミが魔法大学を襲撃して行方不明になったこと。

 いくらチート魔術師といえど、逃走幇助だけで2000万ドルという大金が賞金についたこと。


 どうやら事件の水面下で巨大な陰謀が動いているようだ。

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