9話 交易都市〈サペル〉防衛戦
街の防衛戦をやるわけだが、味方側のリソースを把握しておこう。
まず防壁だ。交易都市〈サペル〉の主要な領域を、高さ約6メートルの壁が囲んでいた。唯一の入り口である木製の門は硬く閉ざされていて、ネコ一匹入る隙間もない。長距離砲撃や航空機による爆撃が発達する以前の典型的な防御形態である。いくらアサルトライフルで武装した山賊でも、突破は難しいだろう。
次に兵士だ。王都から任命されて正式配備された衛兵は、訓練こそ行き届いているが、実戦経験にとぼしいようだ。どうやら数年前の王位継承戦争で熟練兵士が戦死しているため、重要拠点をのぞいて新兵が配属されているらしい。だから山賊の襲撃に浮き足だっているのが現状だ。
最後が義勇兵。偶然居合わせた戦士ばかりで、頼りがいのある実戦経験者ばかりだった。義勇兵の異世界側の人物だが、セミオートライフルを背負ったプレートメイルの傭兵。そして魔法大学出身のエリート魔法使いであるオジサン。他にも腕に覚えのある豪傑たちが参戦していた。
そして義勇兵の地球側の人物だが、東征チームだった。
「よーし、弾薬の料金は出してくれるっつーし、買ったばっかりの高価な兵器をごりごり使ってくぞ」
東征は防壁の矢倉に立つと、強化された視力で山賊を見下ろして、戦力と流れを把握していく。
馬車の団体は真っすぐ門を目指していた。数は十台。一台あたりに四人乗っていた。全員が凶悪な面をしていて、アサルトライフルで武装している。
注目すべき点は、先頭を走る馬車の荷台に、ダイナマイトの山が積まれていることだ。地球製なのか異世界製なのかは定かではないが、あれだけの量があったら木製の門なんて紙みたいに破れるだろう。
作戦をいくつか練ってみたが、いかにしてダイナマイトを使わせないかが鍵になる。東征チームだけでやったほうが確実で安全だろう。
「グスタボ。他の連中に手を出すなって伝えとけ。はっきりいって邪魔だ」
東征は仲間に声をかけつつ、近未来の携行型対戦車ミサイルをかついで、ダイナマイト満載の馬車に狙いをさだめた。遺伝子誘導方式で手綱をにぎった山賊にロックオン――弾頭を射出。まるで人間の意志を理解したツバメのごとく、鈍角を描いて飛んでいく。
ダイナマイト満載の馬車を駆る山賊が、勝ち誇った顔で荷台を門へ横づけしようとした――その矢先に戦車の正面装甲をぶち抜く弾頭が頭上から降ってきた。
直撃。化学エネルギーが噴出。爆風と高熱によって山賊は馬車ごと消滅。おまけに荷台のダイナマイトにも引火した。
まるで地上で特大花火が炸裂したみたいに眩い光と騒音が広がると、近くを走っていた四台の馬車まで巻きこんで、爆発四散。ぽっかりあいた巨大なクレーターには馬車と山賊の残骸が埋もれていた。
たった一撃で戦力の半分を失った山賊たちは、茫然自失となった。
「…………あれ、もしかして、勝ち目薄いのか?」「どうするんだ御頭」「に、逃げてもいいような気がしてきた」
勝気で攻めていたはずの山賊たちが馬を減速させたところへ、大型犬サイズの浮遊する円盤――戦闘ドローンが接近。機体下部に搭載されていた機銃で掃射。対人用の弾丸をたらふく食った山賊たちが、ばたばたと倒れて、馬車は残り三台になっていた。
「逃がすつもりはない。市長の望みは殲滅だ」
グスタボが脳と戦闘ドローンを無線接続して操っていた。
「だめだ。撤退するぞ、撤退!」「御頭、逃げるんですかい。壁のむこうに金銀財宝があるのに」「バカ死んだらそれまでだろ!」
山賊たちが右往左往していると、彼らの一番端っこに陣取っていた男の首が、突然折れた。おまけに馬と荷台が切り離されると、馬だけが戦場の片隅へ隔離されていく。
「へっへっへ。あとで売りさばいて軍資金にするというわけですね」
クロークコート――光学迷彩を搭載した極薄の繊維で姿を消して、華舞は馬泥棒をやっていた。
「透明人間の馬泥棒……!? っていうか、残ってるの、おれだけ……」
ついにすべての手下を失った御頭は、馬から荷台を切り離して身を軽くするなり、一目散に逃げだした。
だが回りこんでいた東征が御頭の馬に飛び乗ると、愛用の拳銃を後頭部に突きつけた。
「お前らがあの街を襲撃したのは、金目のモノだけが目的か?」
「な、な、なにをいってるんだ」
「誰かに頼まれて俺たちを狙ってきたのかどうか聞いてんだよ」
「本当に知らない! ただあそこに地球からきたやつが集まりやすいっていうから新しい武器が手に入るんじゃないかと思ったんだよ」
「新しい武器……そもそもお前らの使ってる銃は誰から買ったんだ?」
「偶然手に入れたんだ! 前に山間にある町を襲ったとき、倉庫に新品の銃が山積みになってたから」
異世界の建物に新品の銃が山積みになっているのは不自然だったが、この男を問い詰めたところで理由はわからないだろう。知りたければ山間の町を調査する必要があるが、東征チームは賞金稼ぎであってシンジを殺す以外のことに首をつっこんでも意味はない。
「もう用はねぇな」
ガンっと発砲すれば、弾丸は後頭部から額に突き抜けて、ついに山賊は全滅となった。
防衛戦、勝利である。
交易都市〈サペル〉に帰還すると、歓迎を受けた。おいしい酒や料理をふるまってもらった。奪った馬は現地の商人に買い取ってもらって路銀も充実した。
だが街の人々は山賊から助かったことで一時的に熱狂しているだけだろう。心の奥底ではサイボーグが近未来の兵器で暴れることを恐れている。現地人の本音を知りたければ子供を見ればいい――母親の背中に隠れて怯えていた。
「まさか地球の人に助けてもらえるとは思いませんでした。ありがとうございます」
市長が挨拶にきた。小太りの中年男性の顔には、営業スマイルが張りついていた。褒章なり勲章なりを与えて、東征たちを街から追い払いたいのだろう。
強すぎる人間は、諸手をあげて歓迎されるわけじゃないのだ。
「俺たちは勇者じゃなくて賞金稼ぎだ。欲しいのは情報と金。明日の朝になったら出発する」
東征がぶっきらぼうにいったら、市長はほっとした顔になった。どこにでもいる働き盛りの男の顔だった。
「それで、地球のみなさまが欲しい情報というのは、具体的になんでしょうか?」
「シンジ・ムラカミ。いるだろ、盗賊ギルドに所属してるチート魔術師」
「あぁ、噂には聞きますけど、実際にお会いしたことはありませんから、なんともいえませんねぇ――」
ぱたぱたと伝書鳩が夕闇をこえて飛んできた。なにかの運命を告げるように。
市長は伝書鳩の足首にくくられていた密書を開封すると、感慨深くうなずいた。
「有力情報ですよ。シンジ・ムラカミが魔法大学と揉めたことで、すべての都市に注意喚起が行われました。場合によってはお尋ね者になるそうです」
どうやら魔法大学へ行けば、シンジ・ムラカミに関する情報が手に入りそうだ。




