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プロローグ サイボーグがエルフを殺す

 西暦2070年の東京シティは世界最先端の暗黒街だった。麻薬・売春・殺人・ありとあらゆる悪行が水を飲むように行われる。それでも経済活動が停止することはなく、重武装の警察が力押しで犯罪者をねじ伏せることで治安の均衡が保たれていた。


 そんな“華やかな”街の寂れた倉庫で、賞金稼ぎの青年が待ち伏せしていた。賞金首のエルフを狩るためだ。


 賞金は2万ドル。罪状は違法薬物の取引。異世界製の麻薬を地球の反社会組織に卸していた。東京シティのヤクザも舌を巻くほど商売のうまいやつで、もし犯罪者じゃなかったら優秀な営業部長になっていたかもしれない。


 ――これから殺す相手の人生に思いを馳せたところで意味はないんだろう。


 遠くでタンカーの汽笛が響くと、倉庫の窓から薄っすらと朝焼けの光が差しこんできた。時刻は朝の5時。この肥料くさい倉庫で麻薬取引が行われる時刻――エルフをおびき出すために、青年が嘘の約束を取りつけておいた。


 ニューロン式の起爆装置を手のひらに置いた。すでに爆薬はセットしてあった。人間ひとりがチョコチップみたいに砕ける量だ。銃は使わない。エルフは人間の気配に敏感だから、接近するより離れた場所から罠で殺したほうが確実だ。


 標的の接近に備えてモーションセンサーを起動。眼球ではなく脳の視覚情報に倉庫のマップが表示される。グリッド線で区切られた32×32の正方形。そこへ穀物をかじるネズミが黄色で表示された。人間がいたら緑だ。敵対したら赤をつけるが。


 倉庫の入り口から緑の動体反応――長髪の男性が息を潜めて入ってきた。金髪で耳が尖っている。エルフだ。彼は油断なく左右を見渡し、浅く呼吸を整えた。その手には異世界の武器である紋章の刻まれた投げナイフが握られていた。


 青年は改造された眼球のスキャニング装置でエルフの遺伝子を調べる――手配書の遺伝子パターンと一致。こいつが標的の売人だ。モーションセンサーには赤をつけた。


 エルフの売人を示す赤が、一歩また一歩と爆薬へ近づいていく。


 もう少し、もう少しだけ前に進めば、エルフのチョコチップが完成だ。


 今から賞金の使い道を考える。スシ・テンプラ・ビーフステーキ。新しい車に、新しい銃火器。自分の身体のメンテナンス。役人への袖の下。公共料金の支払い――賞金稼ぎといえど都市に住むからには税金から逃れられない現実が青年を憂鬱にさせた。


 ふと賞金稼ぎになった日が走馬灯みたいに駆け巡った。お金に困っていたこと。目の前に悪いやつがいたこと。偶然前職で銃を使う職業だったこと。それらが算数みたいに加算されて、武器商人から購入した銃をぶっ放していた。

 

 不思議と罪悪感はなかった。ほんのわずかな達成感があって、うまくいえないのだが、この職業が向いているのではないか、という実感が沸いた。


 今もこうして賞金稼ぎを続けているのは、天職だったからに違いない。


 やがて本日の標的であるエルフの売人が、爆薬の仕掛けられた床まで移動した瞬間――手のひらの起爆装置を拳骨で叩いた。

 

 ドラゴンが飛翔するみたいに指向性の爆風が垂直に吹きあがって、倉庫の天井をぶち抜いた。


 だがモーションセンサーに赤の反応が残ったまま――ギリギリで気づかれてテレポートの魔法で逃げられたのだ。


 エルフの逃げ足は天下一品だ。  


 しかし、やつを殺さないことには2万ドルの賞金が手に入らない。


 賞金が手に入らないとオマンマ食いあげである。


 青年――稲村東征いなむらとうせいは、懐から50口径の拳銃を抜くと、安全装置を解除して追跡を開始した。

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