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(41)謎解き

 ◆メダルイメージ挿絵(By みてみん)



 儀一がまず向かったのは、石材置き場だった。

 “石牢”を調べるのかと蒼空が聞いてきたが、そうではなかった。

 “石牢”は、文字通り“石牢”だ。罪を犯した人間を閉じ込めておく施設に過ぎない。

 目的は、ランボと話をすることである。

 石材置き場の倉庫でおにぎり屋を開くと、ランボが朝ごはんを食べにきた。


「今日は、お味噌汁と焼き魚も作ってきました」

「おお、これはこれは。いつもすまんな、ネネさん」


 一瞬、ランボが不審そうな顔をしたのは、カミ子がいたからだろう。

 村の噂に疎いランボは、引きこもりのカミ子のことを知らなかったようだ。

 

「やあ、ドワーフ君。昨日は世話になったね」


 偉そうに声をかけたカミ子をじろりと睨んだものの、特に怒ったりはしなかった。

 儀一は昨日の件で迷惑をかけたことを侘び、それから要件を切り出した。


「実は、勇者の財宝のことで、お聞きしたいことがありまして」

「なんだ、ギーチ。いい年した大人が、夢にでも浮かされたのか?」


 老ドワーフは意外そうに眉根を動かす。


「財宝なんぞ、あるわけないだろうが」

「おそらく、そうだと思います」


 メダルの裏に刻まれていた文字からしても、財宝の類ではないのだろう。

 

「ですが、心あたりがありまして」

「ふん、“四角岩”にでも挑戦するのか?」


 ランボはおにぎりを頬張った。


「あそこは、村が危険に陥った時のための罠でしょう」

「……」


 誰も死ぬことのない優しい仕掛け(ギミック)

 ムンクのおかげで、子供たちはかなり効率よく先に進むことができたようだが、通常であれば、もっと苦労したことだろう。仕掛けにはまり、失敗していたかもしれない。

 実際、子供の頃に挑戦したというタチアナとトゥーリの話では、立ち上がることができないほど疲れ果てたという。

 それこそが“四角岩”の目的なのではないかと、儀一は言った。

 勇者にまつわる財宝があるという噂が広がれば、よからぬことを企むやからも現れるかもしれない。もし仮に、暴力的で、村に危害を加えることを躊躇わない人物が現れたら。

 その時には、宝のある場所として“四角岩”を案内する。

 魔法も使えない空間で、狼藉者は疲れ果て、最終的には“石牢”の中に閉じ込められる。

 あとの生殺与奪は自由というわけだ。


「それで?」


 ランボはじろりと儀一を睨みつけた。


「ワシに、どうしろというんだ?」


 儀一は許可を取りつけようとした。

 勇者の財宝を探す許可を、である。


「どうしてワシに聞く? 勝手に探せばよいだろうが」


 宝探しの目的は、一攫千金を狙うことでも、好奇心を満たすことでもなかった。

 カロン村には、勇者にまつわる遺物が各所に残っている。もし“四角岩”と同じような仕掛けがあるのであれば、明らかにしておいたほうがよいだろうと儀一は考えたのだ。

 好奇心旺盛な子供たちやドキュメンタリー好きのカミ子がまた暴走しないとも限らない。

 そして宝探しの許可を求めたのは、勇者の財宝について、この老ドワーフがが何かを知っているのではないか考えたからである。


「勇者の財宝が、村にとって大切なものならば、そっとしておいたほうがよいでしょう」

「……」


 ランボは沈黙した。

 これは、強引に宝探しをするつもりはないという意思表示である。

 ランボが止めるのであれば、素直に諦めたほうがよいだろう。それはすなわち、危険が伴うということでもあるからだ。


「あるいは村長さんなら、知っているのかもしれませんが」

「誰も、何も知らんよ」


 何かを諦めたように、ランボは大きく息をついた。


「“四角岩”のことも、己の慢心を戒めるための教訓としているくらいだからな」


 だからこそ、苦い経験をした大人たちは、“四角岩”のことを教えない。

 “石牢”に閉じ込められた子供たちに向かって、「それ見たことか。世の中には、ままならぬことがあるのだ」と、偉そうに講釈をたれるのだ。


「お前さんがそれ(、、)を手に入れたところで、変わりようがない。すでに、自分たちの役割すら忘れているのだからな」

「役割、ですか? それは勇者シェモンの……」


 ランボは髭で覆われた口元を歪めた。


「お前さん、ちと勘がよすぎるぞ」


 ちょっと待ってろと言い残して、ランボは席を外した。

 戻って来た時には、黒い木刀のようなものを肩に担いでいた。


「ギーチよ。少しだけ、宝探しに付き合ってやる。もしかすると、あやつらの目を覚まさせるきっかけになるかもしれんからな」






 カロン村について間もない頃、知り合ったばかりのタチアナとトゥーリに、儀一たちは村案内をしてもらった。

 最初に連れてこられたのが、村の中央にある高台だった。

 頂上へ登る石畳の階段のわきには、白い樹皮を持つ巨木が一本ある。

 儀一たちはその樹木を見上げていた。


「おっちゃん、ここに宝があるの?」


 目をきらきら輝かせながら、蓮が聞いてくる。


「いや、ここにはないと思うよ」


 儀一はタチアナから聞いた話を、もう一度子供たちに伝えた。

 この木は樹齢六百年という御神木ごしんぼくで、勇者と関係があるらしい。


「さて問題です。この木は、何と呼ばれているでしょうか?」

「“白木しらきの門”!」


 ここは子供たちの遊び場のひとつである。

 全員が答えることができた。


「正解。でも、ちょっと変だよね」

「え?」


 門というわりには、樹木は階段のわきに一本しかない。


「本当は、階段の両側にあったんじゃないかな」


 その場所には何もなかったが、わずかに土が盛り上がっていた。

 ひょっとすると、まだ木の根が残っているのかもしれない。


「どうでしょうか?」


 問いかけられた老ドワーフは、一瞬口ごもった。


「二百年前ほど前に、雷が落ちてな……」


 儀一たちは五十段ほどある石畳の階段をのぼった。

 高台の頂上は見晴らしがよく、村の周辺の様子を一望できる。

 儀一は“勇者のメダル”を取り出した。

 まずは裏面をみんなに見せる。


「裏に書いてある“昔文字”の向きから」


 くるりとひっくり返して、


「三角が上で、四角が下ということが分かる」


 メダルの向きを確定させることは重要だ。

 ねねと子供たちが、うんうんと頷く。人に教えてもらうことが気に食わないのか、カミ子はそっぽを向いていたが、明かに聞き耳を立てていた。


「このメダルは、勇者の財宝のありかを示した地図なんだよね?」

「はい。ブッキがそう言ってました」


 と、蒼空が答える。


「地図ということは、地形を写し取ったものだから――」


 儀一は北の方角に向かって、“勇者のメダル”を掲げてみせた。


「たとえば、この三角を“オークの森”の先にある“デルシャーク山”だとすると」


 スリットの部分が、東から西へと流れる“アズール川”となる。


「メダルの丸く欠けた部分は、太陽と月だね」


 この世界の太陽と月の位置は固定されている。

 東と西だ。

 子供たちが「おおっ」と、声を上げた。


「スリットの下の右側にある二本線は、おそらく“白木の門”。まだ雷が落ちる前、このメダルが作られた当時のね」


 このように仮定すると、高台の南西にある“石切り山”、つまり“四角岩”が、そのままメダルの四角に対応する。

 高台から周囲を眺めてみるとよく分かる。

 位置関係はぴったりだ。


「となると、残されたのは?」

「十字架のマーク!」


 二本線の左側、“白木の門”のちょうど西にあるのは……。

 全員がその場所に目を向ける。

 “シェモンの森”。

 六百年前に、人工的につくられたという森だ。

 木こりである儀一の仕事場でもある。

 森の中に湧き出ている泉のほとりには、やはり勇者にまつわる遺物があった。

 遥かなる昔、伝説のつるぎを使って、勇者が魔物を石に変えたのだという。

 夫婦や恋人たちが背中合わせになって座ると、子宝に恵まれるのだという。

 それは――

 “オークの石像”と呼ばれていた。

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